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発作性心房細動における初期治療としてのカテーテルアブレーション:MANTRA-PAF試験より

NEJM10月25日号より

Radiofrequency Ablation as Initial Therapy for AF
N Engl J Med 2012; 367:1587-1595


発作性心房細動における初期治療としてカテーテルアブレーションと抗不整脈薬の無作為割付比較試験(デンマーク):MANTRA−PAF試験

P:抗不整脈薬服用歴のない症候性の発作性心房細動294例

E:カテーテルアブレーション146人

C:Ic,III群抗不整脈薬148人

O:
一次エンドポイント:受診時の心房細動の負担(ホルター心電図に占める心房細動の割合)および累積の負担:7日間ホルター+3,6,9,12,18,24ヶ月後のホルター心電図により解析。ITT解析

結果:
1)累積心房細動時間(90パーセンタイル):13%vs.19%(6,12,18ヶ月) 有意差なし

2)24ヶ月後の累積時間;アブ群9%vs.薬群18%、P=0.007
発作性心房細動における初期治療としてのカテーテルアブレーション:MANTRA-PAF試験より_a0119856_2249820.jpg

3)心房細動フリーになった患者:アブ群85%vs.薬群71%、P=0.004

4)症候性心房細動フリーになった患者:アブ群93%vs.薬群84%、P=0.01

5)死亡;アブ群1例:手技に関連した脳卒中

6)心タンポナーデ:アブ群で3例

7)アブレーション追加;薬群で54例36%

結論:発作性心房細動の治療法第一選択として、アブレーションを抗不整脈薬と比べると、2年間での累積心房細動時間は両者で有意差はなかった。

### 「カテーテルアブレーションは心房細動治療の第一選択となりうるか?」いいかえれば「薬剤抵抗性ではない、抗不整脈薬を使っていない心房細動患者にいきなりカテーテルアブレーションを施行して良いか?」という、極めて今日的な問いへの答えを出そうとしたのがこのMANTRA-PAF試験です。
現在日本を含めたどの国のガイドラインも、「薬剤抵抗性」「抗不整脈薬投与下」といったように、薬が効かない場合の2番手の治療としては推奨度Iがついています。第一選択としてのアブレーションは日本のガイドライン、最近のESC(ヨーロッパ)のガイドラインとも推奨度IIaとやや低い扱いとなっています。
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_okumura_h.pdf
http://eurheartj.oxfordjournals.org/content/early/2012/08/24/eurheartj.ehs253.full.pdf+html

この論文はその推奨度をIへと高める方向を推し進めるものかもしれません。

ただし、この論文の対象患者は全員70歳未満で基礎心疾患のない人です。
またこの論文では手技にまつわる合併症が4例認められましたが、抗不整脈薬の主要な合併症は心不全の2例のみでした。

この論文からは、このような比較的若年の症状の強い合併心疾患のない人のアブレーションは第一選択でもよさそうだということは少なくとも言えそうです。
ただし、結果として大幅に上回っているわけではありませんね。

長期にわたって副作用と再発を懸念しながらも薬を飲み続けるか、心タンポナーデその他の合併症リスクとこれまた再発をおそれつつもアブレーションを受けるか。そもそもこの選択は究極の選択のように思われます。薬の副作用リスクは長期に渡リつきまとうものである一方、アブレーションの合併症はその一時だけ発生するもの。そもそもそれぞれのリスクの質、カテゴリーが大きく違うため、我々にとって真に理性的に両者のリスクを秤にかけることは不可能であるといえるのかもしれません。

最近のアブレーション技術やデバイスの進歩はこのアンチノミーを解決してくれるような気もします。アブが薬を凌駕するイノベーションは起きるのでしょうか?

オマケ:MANTRA(=マントラ、真言)とは、仏教特に密教の呪文を意味します。アブレーションが「薬剤抵抗性心房細動」という呪文から解き放たれる日は近い?のかもしれません。
by dobashinaika | 2012-10-25 22:50 | 心房細動:アブレーション | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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