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心房細動脳塞栓の高リスク例でも、ワーファリンはあまり処方されていない。

European Journal of Neurology 7月12日早期公開版より

Stroke due to atrial fibrillation in a population-based stroke registry (Ludwigshafen Stroke Study) CHADS2, CHA2DS2-VASc score, underuse of oral anticoagulation, and implications for preventive measures
DOI: 10.1111/j.1468-1331.2012.03804.x


心原性脳塞栓症患者のCHADS2スコア、CHA2DS2-VAScスコアを解析し、抗凝固薬の使用状況を見るための研究

P:ドイツの一地域における一般住民をベースにした脳卒中登録研究(LuSSt)に2006年~2007年に登録された患者626名のうち、心房細動に起因する心原性脳塞栓と診断された187名

E/C:CHADS2スコア、CHA2DS2-VAScスコア

O:スコア別患者数

結果:
1)新たに心房細動を診断されたのが57名31%

2)CHADS2スコア0,1点=34例18%、2点以上=153名82%

3)CHA2DS2-VAScスコア0,1点は5名2.7%に過ぎなかった

4)CHADS2スコア2点以上で脳塞栓前に心房細動は既知であった106名のうち、38名36%はビタミンK阻害薬を処方されていたが、INRが至適レベルだったのは16例15%に過ぎなかった。

結論:本研究は高リスク患者への抗凝固療法がアンダーユーズであるという仮説を強力に支持する。CHA2DS2-VAScスコアはCHADS2スコアよりもリスク層別化に優れていた。脳塞栓の予防法は脳塞栓前の心房細動同定最適化と、抗凝固療法ガイドラインの適切提供に焦点を合わせるべき

### CHA2DS2-VAScスコア0,1点は非常に脳塞栓が少ないので同スコア2点以上が抗凝固療法の対象、ということをますます印象付ける結果です。まあCHA2DS2-VAScは項目が多いので、どの2点なのかをもう少し吟味したほうが良いと思いますが。

ちなみに私は、CHA2DS2-VASc2点以上を考えるときは、1点は必ずCHADS2スコアのどれか1つを満たすことを条件としています。「65歳の女性」に抗凝固療法を自動的に適用するのは、まだ気が引けるからです。

ダビガトランはこの層への安全性(大出血率低い)が高く、今後アンダーユーズの解決策となる可能性があります。だいぶ見通しは良くなってきましたが、抗凝固療法初心医者が気軽に使うようになるには、もうあとひと押しの知の蓄積が必要というのが今の空気かと思います。

日本でも幾つか研究がありますが、仙台の広南病院での以下のデータが参考になります。この施設では脳塞栓症搬送患者でCHADS2スコア0,1点の人は25%に上っています。
Sato S, et al. Pre-admission CHADS2 score is related to severity and outcome of stroke. J Neurol Sci. 2011; 307:149-52.

by dobashinaika | 2012-07-18 22:33 | 抗凝固療法:リアルワールド | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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