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アメリカ/ヨーロッパの心房細動カテーテルアブレーションについての専門家コンセンサス:日本との違い

Heart RhythmのFree Press Articlesより

2012 HRS/EHRA/ECAS Expert Consensus Statement on Catheter and Surgical Ablation of Atrial Fibrillation: Recommendations for Patient Selection, Procedural Techniques, Patient Management and Follow-up, Definitions, Endpoints, and Research Trial Design

アメリカおよびヨーロッパからの心房細動カテーテルアブレーション及び外科的アブレーションについてのエキスパートコンセンサスです。

一番大切と思われるTable2の「心房細動カテーテルアブレーションの適応」のみご紹介します。

<症候性心房細動。少なくとも1つのI群またはIII群抗不整脈薬にたいして薬剤抵抗性あり>
・クラスI
  発作性心房細動(エビデンスレベルA)=recommended(※適切なトレーニングを受けたelectrophysiologistにより、経験豊富な施設で施行される場合)

・クラスIIa
  持続性心房細動(B)=reasonable

・クラスIIb
  長期持続性(B)=may be considered

<症候性心房細動。抗不整脈薬開始前>
・クラスIIa
  発作性(B)=reasonable

・クラスIIb
  持続性(C)=may be considered
  長期持続性(C)=may be considered

ちなみに2011年に改定された日本循環器学会の「不整脈の非薬物治療ガイドライン」は以下のとおり  
・クラスI
1.高度の左房拡大や高度の左室機能低下を認めず、かつ重症肺疾患のない薬物治療抵抗性の有症候性の発作性心房細動で、年間50例以上の心房細動アブレーションを実施している施設で行われている場合

・クラスIIa
  1,薬物治療抵抗性の有症候性の発作性および持続性心房細動
  2.パイロットや公共交通期間の運転手等職業上制限となる場合
  3.薬物治療が有効であるが心房細動アブレーション治療を希望する場合

・クラスIIb
  1.高度の左房拡大や高度の左室機能低下を認める薬剤抵抗性の有症候性の発作性および持続性心房細動
  2.無症状あるいはQOLの著しい低下を伴わない発作性および持続性心房細動

・クラスIII
  1.左房内血栓が疑わられる場合
  2.抗凝固療法が禁忌の場合 

### 一見してあちらのガイドラインのほうがすっきりシンプルな印象を受けます。おそらく日本のそれは、エビデンス以外に医師の専門性、患者の意向、社会的要請等諸々の要素を、しかも細かく盛り込んでいるためと思われます。

もう1点、日本では抗不整脈薬服用前の推奨としてIIaになっているのは「職業上の制約がある場合」のみ明記されていますが、あちらでは単に「発作性」でもIIaです。これは大変な違いと思われます。

更に違いとして、医師の専門性の規定の仕方が日本では「その施設の年間例数」であるのに対し、あちらは「術者のトレーニング状況」も勘案するように記載されています。

私見としましては、以前述べたようにアブレーションのように高度な専門医療の場合、意思決定の最も重要な要素は「施行する医師の専門性」だと思いますので、施設例数の他に、術者自身の経験例数やその施設での成功率、再発率、ガイドライン遵守率なども公表して欲しいという希望があります。もし自分が受けるとなったら、そういった情報がぜひ知りたいからです。

ただし、そういった「expertise=専門性」をガイドラインで積極的に規定すべきかどうかはまた別の問題のようにも思います。ガイドラインが施設基準や医師の専門性を細かく規定しまうと、その規定の根拠の妥当性が問題となるからです。そしてもともとそういった妥当性はかなり恣意的(例えば年間50例ということ)だからです。

僕自身は、ガイドラインにはあくまでエビデンスに対する評価を中心に据えてもらって、医師の専門性や患者の意向は、日常の患者ー医師の関係性の中で盛り込みながら意思決定していくというのが素敵だと思います。
by dobashinaika | 2012-07-15 23:52 | 心房細動:アブレーション | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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