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ワーファリンか、ダビガトランか。リバーロキサバンか(その2):効果、リスク、コストによる治療推奨表

European Heart Journal 7月2日オンライン版より

A clinical decision aid for the selection of antithrombotic therapy for the prevention of stroke due to atrial fibrillation
Eur Heart J (2012) doi: 10.1093/eurheartj/ehs167


この論文の目的:新規抗凝固薬の情報は錯そうしているので、治療効果、出血リスク、コストの面から治療についてのリコメンデーションとしての、臨床決断エイドを提供する

【塞栓症と出血のベースラインリスク同定】
・デンマークの大規模コホート研究のデータ(図1)
・塞栓症リスクはCHA2DS2-VAScスコア、出血リスクはHAS-BLEDスコアを使用。大規模コホートであっても出血リスクデータの信頼度においては不十分。
a0119856_2204855.png

【各抗凝固療法の分析】
・ワーファリンをコントロールとしたメタ解析や、ACTIVE-W,RE-LY,ARISTOTOLE,ROCKET-AFをもとに計算した相対リスクの図表(図2)
a0119856_2224256.png

【治療推奨表の算出法】
・CHA2DS2-VASc,HAS-BLEDの組み合わせにより、無治療と比較した各抗凝固薬のネットリスクを算出した。
・ネットリスクとは脳塞栓/全身性塞栓または大出血の絶対リスク、および 1-(脳塞栓/全身性塞栓および大出血どちらもなし)
・抗凝固療法のオプションは最低線のネットリスクから算出されており、各表のセルにおいて最適な戦略になっているとみなしてよい。
・すべての抗凝固療法が治療なしに比べ同等か優っている例では、治療推奨なしということはない。

・治療推奨表は各患者の治療閾値、出血比、コスト閾値から算出

「治療閾値」とは、患者が抗凝固療法を始めたいと実感することが期待される脳塞栓/全身性塞栓の最小の絶対リスク。これはベースライン最低リスク、生活の質、投薬に対する姿勢などの因子に規定される。絶対リスクが閾値を上回る場合はその治療は除外。

「出血比」とは、一人の脳塞栓/全身性塞栓を防ぐためであれば進んで受け入れることのできる最大の大出血人数。これが大きいほど、高い効果が要求される

「コスト閾値」とは、患者が治療閾値を実感できるために進んで払うことのできる最大の代金

【結果】
・図3は治療推奨表(図4)の各セルの妥当性を検証するための表。これはCHA2DS2-VASc1点,HAS-BLED0点の時の検証例。治療閾値0.5(NNT200),出血比2:1(出血2人につき、梗塞1人助かる)、コスト閾値0.5ドル(1日)。ワーファリンはネットリスクが、治療なしより小さいので推奨。抗血小板薬はネットリスクがワーファリンより小さいけれども、脳塞栓リスクが治療域理より低いので除外。ダビガトランは2用量ともワーファリンよりネットリスクが少ないがコスト閾値が0.5ドルを上回るので除外。
a0119856_224161.png

・治療閾値0.5、出血比2:1、コスト閾値ゼロの時が図4。CHA2DS2-VASc2点,HAS-BLED2点ではアピキサバンが推奨。CHA2DS2-VASc0点は治療なし。抗血小板薬は低塞栓リスク高出血例に推奨。ダビ150mgは高塞栓低出血リスク例に推奨(図4)
a0119856_2264148.png

・カナダで認可されている治療法限定での治療推奨表。治療閾値0.3、出血比2:1、コスト閾値4ドル(図5)
a0119856_2282681.png

・治療閾値0.3、出血比2:1、コスト閾値0.5ドルの時が図6。カナダでアピキサバンとされたCHA2DS2-VASc,2点HAS-BLED2点は、コスト閾値が低くなったため抗血小板薬に変更されている
a0119856_2291124.png

・治療閾値が増加する際は、高塞栓リスク例で効果が大きい抗凝固薬が推奨される。
・出血リスクが増加する際は、安全性を上回る効果が期待される抗凝固薬が推奨される。特に出血比が2:1から5:1に上昇する場合はダビガトラン150がアピキサバンより良い(CHA2DS2-VASc高点の時)。低CHA2DS2-VAScスコアの時はアピキサバンがよい。

### ついにこういうのが出たんですね。塞栓予防効果、出血リスク、コストの3者を総合した治療推奨表です。治療閾値、出血比は恣意的ですが、おおむね妥当かもしれません(日本人では出血比はもっと小さく見積もったほうがいいかも)。コスト計算は円高のため日本のほうがコストがかかると考えたほうがよいでしょう。

これによると、コスト閾値が低い(コストに厳しい)場合はワーファリンですが、そうでないときにワーファリンの出る幕はなくなっています。

この表の最大の欠点は、腎機能や併用薬、低体重、高年齢などの他の因子が全く考慮されていない点ですね。ですから、あくまでエビデンス+医療費で考えた場合の推奨として参考にすべきと思われます。

しかしながら、このような壮大なリコメンデーションを考え出すヨーロッパの方々の大陸合理論的姿勢には、ある種感銘も覚えます。アメリカのガイドライン等にはこうした、超細かい層別化はされないでしょうし、日本もしかりとおもわれます。

一方、最近の日本の血圧や脂質異常症のガイドラインもこのような細かなリスク層別化が導入されています。でも、われわれ、だいたいリスク層別化で2つ以上の因子が入るともうなかなか覚えられません。たとえば今度出た動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、絶対リスク算出のために血圧、総コレステロール、性別、喫煙の4要素を考えて層別化しなければなりません。面倒くさすぎます!

ヨーロッパも日本同様きめ細かさにその特徴がありそうですが、この推奨表から学ぶべき点と言えばやはり「効果」「リスク」「コスト」の3つを考える姿勢であると思います。

今後色々な場面でこの表が出てくるかと思いますので、もうちょっと読み込んだら、またアップします。

なおこの表は、以下のサイトから簡単にアクセスできます。
http://www.afib.ca/

またiPadアプリもあります。
http://itunes.apple.com/us/app/afib-cda/id453234503?mt=8
by dobashinaika | 2012-07-12 22:23 | 抗凝固療法:比較、使い分け | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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