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ワーファリンか、ダビガトランか、リバーロキサバンか:Circulation誌のケースカンファランス

Circulation, Clinician Update 7月3日号より

New Oral Anticoagulants for Atrial Fibrillation
Circulation.2012; 126: 133-137


新規抗凝固薬の適応を考えるケーススタディです。

【ケース1A】
68歳男性。心房細動。高血圧、糖尿病。6年間ワーファリン治療。INR目標2.0~3.0。薬剤師経営の抗凝固クリニックで管理。これまで出血、梗塞の合併症なし。
ワーファリン、メトフォルミン、リシノプリル、アトルバスタチン服用。最近ダビガトラン、リバーロキサバンがFDAで認可されたと聞き、自分もワーファリンからダビガトランに変更すべきかどうか知りたいと思った。


【ケース1B】
循環器医、薬剤師とのディスカッションのあと、この患者はダビガトランに変更したいと決心した。彼と主治医は変更方法を知りたかった。クレアチニン0.7、クレアチニンクリアランス80、肝機能正常。彼の処方内容はまだ変わっていない。


【ケース2A】
70歳女性。体重70kg。高血圧+急性心不全で救急外来搬送歴あり。このとき新規発症心房細動で心拍数大。β遮断薬によるレートコントロールとヘパリン抗凝固後、経食道エコーで血栓無し及び弁膜症なし、EF70%を確認し電気的除細動成功。
他にラミプリル、ヒドロクロロチアジド内服。CHADS2スコア2点。CHA2DS2-VAScスコア3点であることから新規抗凝固薬選択。投与前INR1.0、肝機能正常。クレアチニン1.4。aPTT70秒。薬剤選択はダビガトランかリバーロキサバンか?


ガイドラインからは?
・2011ACCF/AHA/HPSAガイドライン
 「ダビガトランはワーファリンの有用な代替薬」
 ダビガトランの除外基準は、人工弁、血行動態に影響のある弁膜症、重症腎不全(CCr15未満)、重症肝疾患
・2012ACCPガイドライン
 CHADS2スコア1点以上で抗凝固薬または抗血小板薬推奨。
 ビタミンK拮抗薬よりダビガトラン推奨(推奨度2B)
 認可の関係で両ガイドラインにリバーロキサバンへの言及なし

抗凝固薬変更の際のワーファリン管理の影響を考えると?
・RE-LY試験ではワーファリン管理の質を決めるTTR (time in the therapeutic range)とアウトカムに交互作用なし(TTRにかかわらずダビガトランは有効)
・ダビガトラン150x2,のワーファリンに対する優性、110x2の非劣性もTTRに関係なし
・150mgx2では、ダビガトラン群がワーファリン低TTR (<57.1%)群より大出血が少ない。高TTR群(>72.6%)とは同等
・150mgxsでは、消化管出血はダビガトラン群がワーファリン高TTR群より多い
・心血管イベントもしくは死亡は150mgx2でワーファリン低TTRより少ない。高TTRでは同じ
・ダビガトランの費用対効果は、高TTR群ではワーファリンより優れてはいない

【ケース1A結論】
・この人のTTRは75%だった。RE-LY試験のTTRはその施設の平均TTR(cTTR)を採用しており、個人のTTRを反映してはいない。RE-LYはINR管理が良い施設よりは悪い施設のほうにおいて、ダビガトランに利があることを示唆している
・2011ACCF/AHA/HPSAガイドラインは「すでにINR管理の良好な患者ではワーファリンからダビガトランへの変更する利益は少ない:と述べている。
→→→よって、この例ではリスク・ベネフィットの論議後に彼が個人的に決めない限り、ワーファリンにとどまることが推奨される。

【ケース1B結論】
・抗凝固薬感の変更方法は表3
・患者はワーファリンを中断すべき
・CHADS2スコア2点、現在のINR2.8 。他のダビガトラン干渉薬も服用なし
・本日からワーファリンを中止し、3日間INRを測定し、INR2.0未満になったらダビガトラン開始すべき
・この間、ダビガトラン服薬についての情報を薬剤師、医師、患者で共有すべし

【ケース2結論】
・この患者のCCrは41
・もしリバーロキサバンなら15mg/日(米国では)が求められる
・ダビガトランなら150mgx2の通常量が投与されるだろう
・CYR3A4阻害薬服用中かつ腎機能低下例なのでリバーロキサバンよりダビガトランかワーファリンが推奨される
・この人は潜在的なアドヒアランス低下も評価すべき=dyspepsiaはダビガトランのコモンな副作用なので、症状が出たら直ちに報告するようにすべき。その際はリバーロに変更
・リバーロにするなら食事摂取状況を把握すべき。リバーロは満腹で服用すべきなので
・腎機能低下例なので少なくとも6ヶ月毎に腎機能チェクと用量再評価を
・入院中なので、腎機能が回復するまでは経口抗凝固薬は中止し点滴にすべき
・経済的問題対処のため、薬剤師と保険会社はコンタクトをとるべき

### 薬剤師の先生による症例検討です。かなり具体的かつ実際に有りそうな症例であり大変興味深いです。
私ならケース1Aは、TTR超良好なのでワーファリンのまま。患者さんの意向によりケース1Bとなった場合はこの筆者のとおりにする。ケース2は、ヘパリンで前のAPTTがわからず、CCRも41なのでやはりワーファリン。この場合ヘパリン漸減しながらワーファリンをかぶせる。

という感じかもしれません。ちょっとCCr41で新規抗凝固薬は出しにくいです。ただし心不全が落ち着いて、腎機能も安定したら新規抗凝固薬も考慮かもしれません。

こういうきめ細かいディスカッションは非常に参考になります。今度講演会があったら、こうしたケースカンファ形式がやっぱりいいかもです。

by dobashinaika | 2012-07-12 00:41 | 抗凝固療法:比較、使い分け | Comments(0)


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