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「血栓止血学から見たトロンビン阻害薬の有用性」;ある講演会より

昨日のプラザキサ講演会の第2演題、金沢大学付属病院高密度無菌治療部准教授 朝倉英策先生による「血栓止血学から見たトロンビン阻害薬の有用性」についての要約をupします。

朝倉先生は、6月1日のブログでご紹介した金沢大学血液内科/呼吸器内科の素晴らしいお役立ちサイトにも関わっておられます・循環器内科医の血栓止血学のエヴァンジェリストのお一人とでも思わせるような、この日の有益な講演でした。

なおここに記す内容に関する責任は全て小田倉にありますことを申し添えます。何分当日のメモに基づくまとめのため、発表内容と異なる可能性のあることをご容赦ください。

・トロンビンは血中半減期0.1秒以下なのでモニターは不可能だが、トロンビンの代謝産物や他との複合体によりモニターが可能
TAT(トロンビンーアンチトロンビン複合体)、F1+2(プロトロンビンフラグメント1+2)、SF(可溶性フィブリン)、D-ダイマーの4つがトロンビンのサロゲートマーカー
・心房細動患者のすべての人で凝固活性が高いわけではない、一部の人が高い、低い人も多い

・F1+2;PT-INRときれいな負の相関。ワーファリン投与で下がる。しかしながらINR高値でもF1+2が高い、あるいはINR低値でもF1+2が低い人もいることに注意
・PTINRは5以上で出血の危険性が高まるが、5以上で血栓症を生じる例もある。つまりINRにかかわらず塞栓症は生じうる
・ワーファリンの効果判定にはF1+2、副作用(出血)チェックにはPT-INRと考えると良い

・ワーファリンは「基質(酵素)」を抑制、新規抗凝固薬は「活性型」を抑える
・新規抗凝固薬はいずれも分子量が小さく、血中濃度ピークが2〜3時間後で半減期は半日
・新規抗凝固薬は、理論的にはPT,APTTどちらも延長させるが、実際はダビガトランはAPTT,リバーロキサバンはPTをよく延長させる(血中濃度と相関)
・APTTは測定のタイミングで値が違う
・臨床レベルの200ng/ml前後でもAPTT値はばらつきが大きい
・APTT測定にはトロンビン法、Xa法がありダビガトランではトロンビン法でアーチファクト的にAPTTが上昇しやすい。リバーロキサバンではXa法がアーチファクト受けやすい
・APTTは試薬によってばらつきがある
・APTTの延びすぎは「効果がある」ことにはならない

【まとめ(朝倉先生の私見)】
・新規抗凝固薬のモニタリングとして
1)内服後の経過時間により、PT,APTTの結果は変わる→血中濃度がピークで測定する
2)PT,APTTのうちより延長しやすい方のみの測定でも大丈夫か?→PTはワーファリン併用の誤内服を見ぬくことが可能。APTTは隠れvonWilbrand病をを見ぬくことが可能(100人に1人いる)。モニタリングは必ずPTとAPTTセットで行う
3)用いる試薬によって、PT,APTTの結果は変わる

・出血のモニタリングとして=PT,APTT
・効果の判断として=SF,F1+2,TAT,Dダイマーがある
・(Dダイマーはアーチファクトがでない点でよい。SFは期待できる)

### 「PTINRは効果判定より副作用チェックとして使う」「PT測定でワーファリン誤併用がわかる」「PT,APTTは必ずセットで測る」などなど、循環器の枠内ではなかなか気づくことのできない内容が満載でした。

日本人の3大死因のうち2つ、脳卒中と心筋梗塞が血液が固まることによるわけですから、血液凝固学の知識が必須なことは、考えてみれば当然のことです。今後この分野の知識ニーズは益々高まると思われます。
by dobashinaika | 2012-06-04 00:07 | 抗凝固療法:凝固系基礎知識 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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