内視鏡生検時、抗血栓薬を中止しない場合の安全性ー循環器医と消化器医のツンデレ関係は回避できるか。
Journal of Gastroenterology 2月17日オンライン版より
Evaluation of safety of endoscopic biopsy without cessation of antithrombotic agents in Japan.
内視鏡検査時、抗血栓薬を中止せずに生検を施行した場合の安全性に関する検討
P:日本の一医療施設における、塞栓症高リスク(ステント後、弁置換後、血栓塞栓イベントまたは心不全後2週間以内)外来患者112例
E/C:2010年3月から2011年11月までに、抗血栓薬を中止せずに内視鏡による生検を施行
O:生検後2週間以内の大出血または生検による出血時間
結果:
1)101回の生検のうち、上部消化管内視鏡が48、下部が12
2)止血は、全例で検査中に確認されていた
3)2週間以内の出血症状はゼロ。(0/101; 95% CI 0-3.6%)
4)内視鏡時出血時間は平均2.2 ± 1.8 分(0.5-9分)
5)抗血栓薬単剤と複数とで有意差なし(2.4 ± 1.4 vs. 2.1 ± 2.1 分)
6)ワーファリン非服用と服用で有意差なし(2.3 ± 1.8 vs. 2.2 ± 1.8分)
結論:西洋で勧められている抗血栓薬を中止しないでの生検は、注意深く施行すれば、日本人にも受け入れ可能。
###現在日本のガイドライン(循環器学会)では生検時も大手術時に準じ、3〜5日の休薬とヘパリン点滴が推奨度IIa'とされています。これは日本消化器内視鏡学会の指針を受けてのものと思われます。一方米国では生検時、特にワーファリンの中止は勧められておらず中断せず行われています。
これに一石を投じる様な研究かと思われます。実際には、例えば生検の部位や数、深さなどにも依存するでしょうし、直前のINR測定も必要かと思われます。しかしながらそうした慎重さを持ってすれば、生検時全例ワーファリンを止めるといった、一律的対応は実は回避できるのかもしれません。
問題が残るとすれば、生検後の出血はおそらく内視鏡の力量にある程度依存するという点です。上手な内視鏡医であれば低リスク症例ならおそらくたいてい出血なく終えることができるのだろうと想像されます。ガイドラインは個々の医師のスキルの差は問わず、ボトムアップが基本思想ですので、一律休薬という発想が出てくるものと思います。
でも実は、以前から例えばHAS-BLEDスコアが低値で、生検も深く取らず、INRが術前1.6前後に低く抑えられていれば、出血リスクはかなり低いのではないかと密かに思っていたので、この論文はやっぱりなという感じです(消化器内科の先生から叱られるかもしれませんが)。
この内視鏡問題、生検必要な患者さんは、現在胃カメラを2回飲むことになるし、またヘパリン点滴入院の必要もある場合があるということで、実はワーファリンにまつわる現場でのお困り度ナンバーワンの問題だと個人的には思っています。
新規抗凝固薬は、この点に関しては一挙解決の期待がかかっており、実際直前まで服薬させ、当日朝休薬と言った方法が取られてきていると思います。早く新規抗凝固薬下でのガイドラインが出ることが望まれます。その際は循環器医と消化器医が一緒になって策定すべきだろうと思います。
新規抗凝固薬が循環器医と消化器医のツンデレ関係の改善(注)にひと役買うことを期待したいです。
(注)「循環器内科と消化器内科のツンデレな関係」はこの青木眞先生のブログにある、香坂俊先生のレトリックの引用です。このQ&Aも必見ですよ。
http://blog.goo.ne.jp/idconsult/e/1ffdddf845ecb176d178d0445947ba31
日米の違いについては、バイエル薬品のこのサイトに詳しいです。
また、消化器内視鏡学会の指針はこちらをご覧ください。
Evaluation of safety of endoscopic biopsy without cessation of antithrombotic agents in Japan.
内視鏡検査時、抗血栓薬を中止せずに生検を施行した場合の安全性に関する検討
P:日本の一医療施設における、塞栓症高リスク(ステント後、弁置換後、血栓塞栓イベントまたは心不全後2週間以内)外来患者112例
E/C:2010年3月から2011年11月までに、抗血栓薬を中止せずに内視鏡による生検を施行
O:生検後2週間以内の大出血または生検による出血時間
結果:
1)101回の生検のうち、上部消化管内視鏡が48、下部が12
2)止血は、全例で検査中に確認されていた
3)2週間以内の出血症状はゼロ。(0/101; 95% CI 0-3.6%)
4)内視鏡時出血時間は平均2.2 ± 1.8 分(0.5-9分)
5)抗血栓薬単剤と複数とで有意差なし(2.4 ± 1.4 vs. 2.1 ± 2.1 分)
6)ワーファリン非服用と服用で有意差なし(2.3 ± 1.8 vs. 2.2 ± 1.8分)
結論:西洋で勧められている抗血栓薬を中止しないでの生検は、注意深く施行すれば、日本人にも受け入れ可能。
###現在日本のガイドライン(循環器学会)では生検時も大手術時に準じ、3〜5日の休薬とヘパリン点滴が推奨度IIa'とされています。これは日本消化器内視鏡学会の指針を受けてのものと思われます。一方米国では生検時、特にワーファリンの中止は勧められておらず中断せず行われています。
これに一石を投じる様な研究かと思われます。実際には、例えば生検の部位や数、深さなどにも依存するでしょうし、直前のINR測定も必要かと思われます。しかしながらそうした慎重さを持ってすれば、生検時全例ワーファリンを止めるといった、一律的対応は実は回避できるのかもしれません。
問題が残るとすれば、生検後の出血はおそらく内視鏡の力量にある程度依存するという点です。上手な内視鏡医であれば低リスク症例ならおそらくたいてい出血なく終えることができるのだろうと想像されます。ガイドラインは個々の医師のスキルの差は問わず、ボトムアップが基本思想ですので、一律休薬という発想が出てくるものと思います。
でも実は、以前から例えばHAS-BLEDスコアが低値で、生検も深く取らず、INRが術前1.6前後に低く抑えられていれば、出血リスクはかなり低いのではないかと密かに思っていたので、この論文はやっぱりなという感じです(消化器内科の先生から叱られるかもしれませんが)。
この内視鏡問題、生検必要な患者さんは、現在胃カメラを2回飲むことになるし、またヘパリン点滴入院の必要もある場合があるということで、実はワーファリンにまつわる現場でのお困り度ナンバーワンの問題だと個人的には思っています。
新規抗凝固薬は、この点に関しては一挙解決の期待がかかっており、実際直前まで服薬させ、当日朝休薬と言った方法が取られてきていると思います。早く新規抗凝固薬下でのガイドラインが出ることが望まれます。その際は循環器医と消化器医が一緒になって策定すべきだろうと思います。
新規抗凝固薬が循環器医と消化器医のツンデレ関係の改善(注)にひと役買うことを期待したいです。
(注)「循環器内科と消化器内科のツンデレな関係」はこの青木眞先生のブログにある、香坂俊先生のレトリックの引用です。このQ&Aも必見ですよ。
http://blog.goo.ne.jp/idconsult/e/1ffdddf845ecb176d178d0445947ba31
日米の違いについては、バイエル薬品のこのサイトに詳しいです。
また、消化器内視鏡学会の指針はこちらをご覧ください。
by dobashinaika
| 2012-02-29 23:16
| 抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
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