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"新規抗凝固薬は心房細動塞栓症予防の第一選択薬として使用すべきではない”:Circulationのコントラバーシ

Circulationの新年1月3日号の”コントラバーシ”に「新規抗凝固薬を心房細動塞栓血栓塞栓症予防の第一選択薬として使用すべきか否か」につき賛成、反対両者の立場を代弁する形で2つの論文が掲載されています。

本日はまず「第一選択にすべきでない」とする陣営の論文をまとめます。賛成派のまとめは明日以降アップします。

Should Newer Oral Anticoagulants Be Used as First-Line Agents to Prevent Thromboembolism in Patients With Atrial Fibrillation and Risk Factors for Stroke or Thromboembolism?: New Oral Anticoagulants Should Not Be Used as First-Line Agents to Prevent Thromboembolism in Patients With Atrial Fibrillation
Jack Ansell
Circulation. 2012;125:165-170


<大規模試験の問題点>
・RE-LY, ROCKET-AFとも選択基準/除外基準が一般化を制限し、少なくともよりすぐられたわけではない(様々なプロファイルの)心房細動患者のいるリアルワールドへの活用法について疑問を抱かせる

・RE-LYではオープンラベルなので、服薬管理においてバイアスの生じる可能性がある

・ダビガトラン群で21%の脱落率(ワーファリン群は17%)があった

・ダビガトラン群ではdyspepsia(消化器症状)が多く(12% vs. 6%)説明できない心筋梗塞も多い。消化管出血も多かった(出血全体の発生率は同等だが)

・TTRに表されるワーファリンコントロールが改善されれば、両者の効果の差は解消される:TTR72.6%を越えるとほぼ同等

・ROCKET-AFはデータがすべて発表されていないので詳細は不明な点が多いが、ワーファリンン管理は理想より低かった

・アピキサバンとアスピリン(ワーファリン不適格例)を比較したAVERROES試験では、明らかにアピキサバンが塞栓症を減らしたが、ワーファリン不適格とした根拠が不明で統一性がないことが指摘されている。またワーファリンでもアスピリンに比べ37%のリスク減少があることも知られている

<新規抗凝固薬の欠点(表3)>
短い半減期

 アドヒアランスの低下による塞栓症リスク増加の危険性

抗凝固モニターなし
 アドヒアランス低下例での評価不能

抗凝固能の測定法なし
 適正用量設定不能
 薬剤抵抗性なのかアドヒアランスが悪いかの評価不能
 大出血時や緊急手術時での抗凝固能評価不能

緊急時の中和剤なし

コスト高

<アドヒアランス低下>
・最も頻繁に懸念されるのは服薬アドヒアランスの問題
・大規模試験ではほとんど問題にされないが、実世界では切実な問題
・コストはアドヒアランスに最も影響する:新規抗凝固薬は高額
・半減期の短い新規抗凝固薬では、アドヒアランス低下はより危険
・ワーファリン服用者の21%がアドヒアランス低下例とも言われていて、こうした患者が新規抗凝固薬に変更されることの危険性が懸念される
・塞栓症が起こるまで、症状に乏しいことが抗凝固薬アドヒアランス低下の要因と思われる。患者は抗凝固薬の重要性をなかなか理解できない
・TTR管理のよいクリニックでは新規抗凝固薬を使用する必要性に乏しい

<モニタリングなし>
・もし脳塞栓が起こったとき患者は薬を飲んでいたのか?出血が起こったとき薬の飲み過ぎはなかったのか?緊急手術のとき安全なのか?
・相互作用を有する薬は少ないとはいえ、P糖蛋白阻害薬などは関係する。それらとの干渉度を表す指標も乏しい
・新規抗凝固薬は腎代謝薬が多いため、特に腎機能の変動する高齢者には注意が必要
・モニターがあることで臨床医は、治療目標を立てることができる

<緊急時中和薬なし>
・消化管出血が多いとされており、それへの対処法は不明
・透析がよいとされる新規抗凝固薬もあるが、脳出血出現時の透析は現実的でない

<コスト>
・患者の出費が明らかにかさむ。アドヒアランスにも影響
・あるマルコフモデルでの試算では、ワーファリンの方がトータルコストは低い
・もう一つの研究では、患者のリスクによって違うとされる

・ダビガトランでは、ボトルから出されたカプセルの安定性が大切である

最後に、疑問のまとめ
・誰に新規抗凝固薬を使うのが適切か?
・どんな患者でワーファリンから切り替えたらよいか?
・全員に適応があるのか
・ワーファリン管理不良例は、モニターの要らない新規抗凝固薬の最良の適応なのか?:アドヒアランス低下に起因する管理不良例では適応にならないのでは?
・安定したワーファリン服用者に適応はあるか?そうした患者では薬変更によるリスクがあるのでは?
・INRモニターを受けられない遠方患者はよい適応か?:多分よいが、今は自己モニターができる

結論;新規抗凝固薬は、薬物動態的に医師患者双方に興味の対象であることは否定しない。しかし現時点で第一選択薬とするには不明な点が多々ある。薬物アドヒアランス、適切な効果判定、患者適応についての理解がなされるまで、新規抗凝固薬をワーファリンから自動的に切り替えたり、第一選択薬とすべきではない。
by dobashinaika | 2012-01-06 00:18 | 抗凝固療法:比較、使い分け | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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