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心房細動のリスク因子とリスクマーカーについての総説:Europaceより

Europace 1月号より

Comprehensive risk reduction in patients with atrial fibrillation: emerging diagnostic and therapeutic options—a report from the 3rd Atrial Fibrillation Competence NETwork/European Heart Rhythm Association consensus conference
Europace (2012) 14 (1): 8-27


60人の専門家が会して2010年11月に行われた、ドイツの心房細動ネットワーク(AFNET)とEuropean Heart Rhythm Association (EHRA) の第3回合同カンファランスの報告です。

次の4つの項目につき討論されました、1.心房細動のリスク因子とリスクマーカー 2.心房細動の病態生理学的分類 3.心房細動関連アウトカムに鑑みた心房細動持続期間モニターの妥当性 4.よりよい抗不整脈薬提供のための展望とニーズ

今日はこのうちのリスク因子とリスク因マーカーにつきまとめます。

【心房細動のリスク因子とリスクマーカー】
ここ2〜3十年、動脈硬化と心血管イベントの集団レベルでの減少という点では目立った成果が見られている。例えばスタチン、高血圧管理、禁煙運動。その一方で心房細動罹患率は増加の一途であり、心血管疾患イベントを減少させるのと同様なレベルで心房細動が減少しているとは言いがたい。

高血圧、心不全(左室収縮不全のあるものとないもの)、心筋梗塞、弁膜症、糖尿病は確立したリスク因子である。一方、最近明らかにされつつあるリスク因子がある。

表1に心房細動のリスク因子が挙げられている(非常にためになる!)

〈確立されたリスク因子〉
・年齢
10歳ごとのハザード比増加は1.1~5.9。線維化、細胞内の加齢変化、周辺因子の増加から説明される。一方で若年発症は遺伝的因子の関与が強い

・高血圧
収縮期130程度の血圧でも脈圧振幅の高い場合は心房細動リスクが高くなることが示されており、厳格なコントロールが重要視されている。一方で心房細動を血圧にはJカーブ現象が見られ低血圧が心房細動リスクを上昇させることも言われている

・心不全
あまり広くは危険因子として認知されていない。心房内圧や容積、心室拡張障害が関与。これらは心房拡大、線維化、電気的リモデリングに通じる

・弁膜症
心不全と同様の機序。特に左心系で

・男性
男性であることが心房細動のリスクを高める。しかし女性の方が心房細動罹患者は高齢で心血管疾患合併が多い。このことは女性が心房細動脳塞栓の危険因子であることに関連する。この対比の説明は難しい。男性が元々おきやすいのか、男性の方が症候性が多く早く見つかるのか、男性の方が他の危険因子を合併しやすいのか、女性は心房細動が見つかったときにあまり健康に注意を払っていないのか。。この点は不明。
なおBlacksは心房細動リスクが低い

・代謝因子
糖尿病,甲状腺機能亢進症はリスク因子。メタボリック症候群はあまり強いリスクではない

まだ確立途上の危険因子〉
・遺伝的因子

・潜在性甲状腺機能亢進症:FT3、FT4正常でTSH低値

・肥満;BMIは左房容積と相関。生下時体重が45歳以上の女性で心房細動と関連ありとする報告あり。心外膜脂肪、長駆がリスクとも言われている

・睡眠時無呼吸症候群、COPD、CKD

・アルコール消費、喫煙

・高レベルの耐久トレーニング:適度なものはよい

<心房細動のバイオマーカー>
・ナトリウム利尿ペプチド;BNPよりANPがよい

・CRP, IL-6

・左房径:体表面心エコー

・3Dイメージング(エコー、CT、MRI)による左房サイズ、形状、容積。左房流速など

・Delayed-enhanced MRIによる左房内線維化や瘢痕の可視化

・心電図パラメーター:PR延長、P波幅、心拍変動の低下は心筋梗塞において心房細動のなりにくさの指標

・遺伝的因子

〈open questions〉
・リスク因子とリスクマーカーの区別
リスク因子とは心房細動に関連した生物学的プロセスを臨床的に測定できる指標。一方リスクマーカーは心房細動の原因となるプロセスの代用でありそれ自身が心房細動の引き起こすものではない。この区別はいつも可能とは限らないし、それらの相互作用についても不明なことが多い

・バイオマーカーの役割
・フラミンガム研究を除き、多くの研究のバイオマーカーは少数コホートでの検討。最近の抗凝固薬に関する大規模研究に期待

・心房細動の持続化に特異的な因子はあるのか?
各因子はオーバーラップしている。因子数が多い人ほど心房細動が持続化しやすい。最近HATCHスコア(心不全、年齢、能塞栓の既往、COPD,高血圧)が開発された

〈まとめ〉
脳塞栓のリスク因子は同時に心房細動のリスク因子。それらの因子のインパクトは年連、遺伝因子、肥満で変化する。各因子の重症度によってもリスクの評価は異なる、多くの因子は関係し合っており相乗効果を生じている一方で、新しく出てきたバイオマーカーはかき消されることもあり。
多くの研究は短時間の心電図記録に基づいており、無症候性心房細動は無視されている。これらの評価に対するニーズは高い。

###すごく頭のいい、しかも臨床的問題意識の高い人の言説ですね。随所に疫学と診療実践に根付いた哲学のようなものが感じられて好感が持てます。この会議の直後にあのECSガイドラインが出たのもうなづけます。
日本でもこのように3日連続で心房細動のことをとことんディスカッションする場があってもいいですよねー。なかなかできないかなあ。
時間があったら、残りも読んで行くつもりです。
by dobashinaika | 2011-12-23 23:23 | 心房細動:疫学・リスク因子 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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