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理想の抗凝固薬とは:European Heart Journalのレビューを通しての一考察

だいぶ前の論文で恐縮ですが、European Heart Journalの8月号で、新規抗凝固薬の総説が掲載されておりましたので、全文を入手して読んでみました。最近出たもの、これから出る予定のものまで含めて新規抗凝固薬の特徴やエビデンスが非常によくまとめられています。その中にThe ideal anticoagulant=理想の抗凝固薬として9つの条件が上がっています。以下の通りです。

1.証明された効果
2.低い出血リスク
3.固定用量
4.良好な生物学的利用率
5.定期的モニタリング不要
6.可逆性
7.迅速な作用開始
8.少ない薬剤/食品との相互作用
9.利用可能な拮抗薬

なるほど条件が網羅されていると思いますが、いろいろなカテゴリーが並列に置かれている感があります。
私は医療者の視点から見た理想の抗凝固薬の条件は「高塞栓予防ベネフィット」「低出血リスク」「高簡便性」の3点にカテゴライズされると考えます。
その意味で上記のうち1、4、7は高ベネフィット、2、6、9は低リスク、3、5、8は高簡便性へと、多少のオーバーラップに目をつぶればざっくり分類されそうです。

さて、日本循環器学会の「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)」のII. 総論の2−1に抗血栓薬に関する興味深い論説があります。これを執筆されたのは、別な雑誌等にも同様のことを述べられている東海大学の後藤信哉先生と拝察いたします。その内容とは、薬剤介入前後の血栓性イベント発現率 X,X ́ とし、抗血栓薬の介入の前後の出血性合併症の発症率を Y,Y ́ とした場合,(X+Y)-(X ́+Y ́)> 0を目指して抗血栓薬は開発されたが、イベントと言っても心筋梗塞、脳梗塞など多岐にわたり、また発現率自体に地域差があること、さらに医療介入により惹起されたイベントに対する心理的インパクトをαとすると、(X+Y)-α(X ́+Y ́)> 0, ま た は(X+Y)-(X ́+α Y ́)> 0 を介入指標と考えること、を主張されています。

大変興味深く、リスク認知心理学の基本に沿った捉え方だと思います。わたしはこの指標をさらにデフォルメして、抗血栓薬投与にかかるコストをβとして、(X+Y)-(X ́+α Y ́+β)> 0のとき抗血栓薬の適応を考えたいと思います。ここでのβ=コストとは経済的コストばかりではなく、ワーファリンで言えば、納豆が食べられない、モニタリングが必要などの上記で言う簡便性が含まれます。

新規抗凝固薬では、高ベネフィット低リスクに加え当初このコスト面が低いことも大いに期待されていましたが、腎機能等の留意事項に十分注意する必要があるなど、高い薬価もさることながら、低リスク実現のためにむしろコスト(気配り)を多く必要とする段階でありまだ低コスト(高簡便性)を獲得するまでには至っていないように思います。

さらに言うなら、医療者は、X,X ́,Y,Y ́などのいわゆるリスク&ベネフィットのエビデンスを重視しますが、患者さんは上記のαとβを何より重視するでしょう。患者さんによっては、ひたすらαが過大となり、X’,Y’などほとんど無視する場合もあるでしょう。αはかなり個人に依存しますので、コントロールは難しいこともあるかもしれません。さらに患者さんの視点から言えば、ワーファリン内服によって病者になってしまったというある種の烙印感といったものや、病院に通わなければならない億劫感と言った心理負担もコストとしてβの中に組み込まれると思います。

私流に言わせていただけば、(X+Y)と(X ́+α Y ́+β)の差がより大きいほど理想に近い抗凝固薬ということになると思います。

(上記9条件の各新規抗凝固薬における各論を述べるつもりが,いつの間にかまたまたリスクの話しになってしまいました。各論はまたの機会に。)
by dobashinaika | 2011-10-11 00:06 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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