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「気軽な処方感覚」への戒めか:プラザキサの市販直後調査第4回中間報告

プラザキサに関する市販後調査の第4回中間報告(8月13日現在)が日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社から出されました。
実は先週22日の時点で当院には配布されていたのですが、同社のホームページにアップされておらずブログに書きたいのを控えておりました。

本日、同社のホームページを見ましたら、一番最初のページに「心房細動の患者さんを診られている医療関係者の皆様に重要なお知らせがあります。」との表題で、以下の中間報告が掲載されておりました。

この報告の要旨を私なりに箇条書きしました。
1.発売後5ヶ月で1,218例 1,881件の副作用あり

2.死亡15例:うち重篤な出血の副作用8例、間質性肺炎4例、急性呼吸不全1例、心不全、肺炎1例、詳細不明1例

3.重篤な出血性の副作用91例の特徴
 1)出血部位:消化管49例、頭蓋内20例、その他および部位不特定22例
 2)血小板凝集抑制剤併用全24例:アスピリン14例(うち死亡例3)、クロピドグレル3例。
 3)併用注意薬剤:ワルファリン6例(死亡1)、ベラパミル9例(死亡1)、NSAID3例(死亡1)
 4)重篤な出血事象は220mg/日投与例でもみられた
 5)79例では添付文書中に注意喚起されている危険因子(腎機能、高齢、消化管潰瘍、併用注意薬)あり
 6)投与開始から重篤な出血までの時間:投与早期が多いが、投与80日を過ぎても発現した症例あり
 7)年齢;75例は70歳以上,死亡例8例すべて75歳以上(うち7例が80歳以上)、90歳以上も11例!
 8)腎機能:29例が腎障害。11例がCCr30以下(禁忌)、8例が30〜50
 9)消化管出血の既往:3例、潰瘍の既往は4例

これらがわかっていることです。一方もう少し情報提供が欲しい点がいくつかあります。
1.死亡例の詳細が知りたい。
時期的には、8月12日出されたブルーレターとほぼ同じ8月13日まで(ブルーレターは8月11日まで)の症例の報告です。あれっと思ったのは、ブルーレターでは死亡例が5例だったのに対し、今回15例と報告されていたことです(小さめに書いてあったので最初見落としてました)。ブルーレターの方をよく読みますと、あの5例は「専門家の評価により、本剤との因果関係が否定できないとされる」例ですので、残り10例は因果関係が否定できているものと思われます。しかしながら、今回報告の最後の方で、死亡例15例の内訳のうち8例が「重篤な出血性の副作用」とされており、また1例は詳細不明です。先の5例以外に3例が重篤な出血で死亡していると思われますので、この3例の詳細な情報が知りたいところです。これらの例がブルーレターの時点では公表されていなかったのも気になります。
同様に間質性肺炎についても、詳しいいきさつを知りたいと思います。

2.他の抗血栓薬との併用の事情を知りたい
クロピドグレルはステント症例とわかりますが、アスピリンあるいはワルファリンの場合切り替え時投与時期のオーバーラップの際に出血したのか、それとも虚血性心疾患例や非塞栓性脳梗塞既往例なのか知りたいところです。今後これらの薬からの切り替えがますます行われると思われます。ワルファリンはINR2.0を切ったら切り替えてよいとされておりますが、その時期に出血を起こさないのか、そのとき腎機能をどの程度考慮するか、いつも気になります。

3.220mg/日処方例での出血はどんなケースか
おそらく年齢や腎機能の要件を満たした例でしょうが、どの程度であったのか。

###さて、発売5ヶ月で死亡例15例、重篤な出血91例(うち死亡8例)というのは、この薬への期待が大きかっただけに、かなり重たい数字という印象を受けます。ただし、上記のようにこれらのうち79例87%は何らかの注意が必要な「危険因子」を有する例であり、11例では腎機能の面から禁忌例でした。以前のブログでも述べましたように、正しくない使い方をした例で重篤な副作用が出ていることがはっきりと示されています。明らかな禁忌例への投薬や発売初期のこの時期での90歳以上への投薬など考えますと、おそらく抗凝固薬のリスクの重篤さをそれほど深く考えず、降圧薬やスタチン、あるいは少なくともステント症例でのアスピリンなどと同様の「気軽な感覚」(誤解を恐れずに言えば)で処方されたのではないかと想像してしまいます。

この「気軽な感覚」は、私だけの認知かもしれませんが、プラザキサ発売の少し前から8月12日のブルーレター発表までの間、循環器専門医のみならず少しでも心房細動治療に携わる一般医師の間に共有されていたように思います。各種学会や医学雑誌におけるRCTに基づいた新規抗凝固薬の評価、学会のレビューにおけるCHADS2スコア1点での推奨度アップ、欧州よりも早い発売、各種発売講演会でのpromotion等々。それらを通じて、新規抗凝固薬に対しては私も含めまして久々の期待感、高揚感が漂っていたのは事実かと思います。こうした高揚感の醸成に私自身も多少なりとも寄与していなかったとは言い切れず、責任も感じます。こうした感覚が「気軽な処方」に結びついたかどうかは不明ですが、今後は今回の報告等をよくよくふまえた対応が必要なのはいうまでもありません。

今後、特に医師は「副作用危険因子」として腎機能、年齢、消化管潰瘍の有無、併用注意薬剤の4点を常に注意し、薬剤師と連携を取ってそれらにヒットする例では積極的な疑義紹介をしてもらう,などの対策を身の回りから始めることが必要です。そして製薬会社あるいは学会は様々な角度からより積極的に情報公開や注意喚起を求められるものと思います。循環器専門医やプライマリケア医のみならず、消化器専門医、薬剤師、歯科医、そして何より患者さんに正確な情報提供をお願いしたいと思います。

おまけ;モニタリングとしてAPTTが期待されていますが、受診時採血が必要になってしまうと、上記副作用危険因子への配慮等もあって、処方の「手間」の観点からはワーファリンとあまり変わらない、ことになってしまいかねませんね。より熟成された使い方が早く確立されてほしいものです。
by dobashinaika | 2011-09-28 23:51 | 抗凝固療法:ダビガトラン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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