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80歳以上の人へのワーファリン治療でも適切な管理を行えば出血リスクは低い(EPICA研究)

Circulation 8月16日号より

かなり以前の論文で恐縮です。Evernoteに放りこんだまま紹介するのを忘れてしまっていましたが、重要な論文と思いupします。

Bleeding Risk in Very Old Patients on Vitamin K Antagonist TreatmentResults of a Prospective Collaborative Study on Elderly Patients Followed by Italian Centres for AnticoagulationCirculation. 2011; 124: 824-829

80歳以上で、心房細動の脳塞栓予防または静脈血栓症後でビタミンk拮抗薬を初めて飲む人の出血リスクに関する検討(EPICA study)

・イタリアの抗凝固療法を行う27のセンターにおける登録研究

・服薬開始が80歳以上の患者4093人対象。平均年齢84歳(80~102歳)、9603人年追跡(平均追跡期間2.5年)

・大出血179例(1.87/100人年)。致死的出血26例(0.27/人年)

・男性の方が女性より出血率高い(RR 1.4; 95%CI, 1.12 to 1.72; P=0.002)

・85歳以上のほうがより若い層より出血率が高い(RR1.3; 95%CI, 1.0 to 1.65; P=0.048)

・TTR(time in therapeautic range)平均62%

・出血の既往、活動性がん、転倒の既往が出血の独立した危険因子

結論:ビタミンK拮抗薬のモニターが注意深く行われた超高齢者では、出血リスクは低く、年齢それ自体が禁忌であるとは考えられなかった。特異的に訓練を受けた施設における適切な管理により、超高齢者でもビタミンk拮抗薬は塞栓症予防に有効である。

###Editorial
(Bleeding in Very Old Patients on Vitamin K Antagonist Therapy)
において補足として
・心房細動が70%、静脈血栓が30%
・大出血ははじめの3ヶ月で多かった(3.87%)
・INRの目標値は2.0~3.0であり、出血者の出血時平均INRは2.5(1.0~13.8)
・出血時の82%はINRが目標範囲内
・出血の30%が頭蓋内出血で、大出血の14.5%が致死的
・出血は静脈血栓症感jの方が多かった
・腎不全、抗血小板薬併用は多変量解析により危険因子としては採用されず
・Study limitationとして、抗凝固療法専門クリニックでのデータ、超高リスク患者などは除外などが挙げられる
・BAFTA研究と出血率は同じ(BAFTAでは75歳以上の出血率は1.9%だが、BAFTAでは年齢増加が出血率増加に関連していない

確かに現場では、超高齢者が必ずしも出血しやすいとは限らないことは実感としてあります。

この研究のポイントは、やはりTTR62%と、高齢者のINR管理としてはかなり優秀なレベルにあるということです。具体的なコントロールの方法は詳述されていませんが、Methodsのところで、「治療を始める患者に対し治療の目的、合併症リスク、INRの意味、治療管理につき適切な教育を施す」とあります。当院では「心房細動外来」で初回治療時に十分な傾聴と支援を行っておりますが、大出血こそ減らなかったものの、小出血が有意に減少しておりました(以前のブログ参照)。しっかりとした情報共有が患者さんのアドヒアランスを向上させ、良好なINRコントロールにつながるものと推測されます。患者さんとの十分な情報共有、出血リスクを意識したINRコントロールをしっかりすれば80歳以上であってもワーファリン治療を躊躇すべきでない。ということです。

さて新規抗凝固薬はこの点どうなのでしょうか?新規抗凝固薬は飲む方も出す方も簡便で出血も少ないので、今後高齢者への処方は増えるのでしょうか?

2つの点で注意が必要です。まず腎機能。高齢者ほど腎機能は低下し、この研究でもクレアチニンクリアランス50未満が半数以上とのことで、超高齢者経の新規抗凝固薬(特に腎排泄優位の場合)はこの論文のワーファリンのような積極的使用を促しずらいでしょう。

もう1点、薬剤アドヒアランスの問題があります。たとえばワーファリン3.5錠を1日1回飲むのと、ダビガトラン110mg1日2回とでどちらが患者さん(あるいはご家族)が億劫がらないか。高齢者抗凝固療法のもうひとつの鍵はここにあるように思います。

簡便な(とは必ずしも思いませんが)新規抗凝固薬だから高齢者にもワーファリン以上に気軽に考えるのはまだちょっと早いと思われます。  

小規模ながら同じような対象での検討はこちら
by dobashinaika | 2011-09-15 22:33 | 抗凝固療法:ワーファリン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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