人気ブログランキング | 話題のタグを見る

脳卒中、心筋梗塞、心房細動のいずれかを持つ人の1年間イベント発生率:日本の大規模登録研究 J-TRACE

Circulation Journal 8月20日オンライン版より

One-Year Cardiovascular Event Rates in Japanese Outpatients With Myocardial Infarction, Stroke, and Atrial Fibrillation
– Results From the Japan Thrombosis Registry for Atrial Fibrillation, Coronary, or Cerebrovascular Events (J-TRACE) –


日本の病院、診療所で脳卒中,心筋梗塞、心房細動の既往のある人の1年間のイベント発生率を検討した登録研究

方法:日本を10ブロックにわけ、専門病院あるいは診療所(結果的には循環器、脳神経の専門病院が多かった)の外来で20~90歳の脳卒中、心筋梗塞の既往および心房細動を持つ人を3年半にわたり登録
(脳卒中:CT,MRIで確定診断、心房細動:発作性、持続性、永続性いずれも、非弁膜症性のみ、いずれも急性発症例を除く)

結果:
1)8087人登録のうち7513人のデータを検討。脳卒中3351人、心筋梗塞2106人,心房細動2056人
2)1年間のイベント(死亡、脳卒中、心筋梗塞)発生率:3.53/人年(3.11-3.99)
3)全死亡、脳卒中による死亡、心筋梗塞による死亡はそれぞれ1.35, 0.15, 0.06
4)非致死性脳卒中は1.85、非致死性心筋梗塞は0.33
5)非致死性脳卒中は、脳卒中既往例で最多(2.95) だったが、非致死性心筋梗塞は各群均等に発症 
6)非致死性出血は0.21
7)CHADS2スコアは心房細動群のみならず脳卒中群、心筋梗塞群でも全体のイベント率と関連があった。そのうち全死亡と脳卒中は良く関連したが、心筋梗塞発症とは関連が無かった。

結論:この大規模全国登録研究では,脳卒中の既往例で脳卒中イベントが高率だった

###心房細動群に限っての結果の追記
1)平均年齢70.0歳(脳卒中68.2、心筋梗塞67.9)、高血圧57%、心不全21.7%、喫煙者16.7%(脳卒中22.3、心筋梗塞33.2),アルコール常飲者35.1%
2)ARB/ACE68.0%、CCB59.6%、ワーファリン70.0%、アスピリン30.1%
3)非致死性脳卒中1.43人年(脳卒中2.95、心筋梗塞0.49)
4)出血による死亡は1.53人年、非致死性出血は0.36人年
他に目立った点
1)脳卒中既往群のアスピリン使用率46.0%、チクロピジン19.1%、クロピドグレル0.2%、シロスタゾ−ル9.8%、スタチン60.7%、降圧薬なし12.7%
2)心筋梗塞既往群のアスピリン使用率82.6%、スタチン74.9%,β遮断薬28.7%

やはり日本では心房細動例での出血は少ないです。ワーファリンあるいはアスピリンのどちらかを服用している例が多いと思われますが、出血死1.53人年、非致死性出血0.36人年で,昨今の新規抗凝固薬の大規模試験と比べてもかなり低いデータと思われます(例えば最近出たARISTOTLR試験のワーファリン群は大出血および臨床的に認容できる小出血は6.01%、脳出血、消化管出血などの大出血は3.09%/人年です)。こういうデータを見ると日本人の梗塞や出血に関する特性あるいは外来管理レベルの高さを伺い知ることができると思われますし、日本人にとっての欧米の試験データの外的妥当性には一定の疑問を持つべきかもしれません。

ついでながら、authorも述べているように脳卒中既往例で抗血小板薬やスタチン、降圧薬があまりにも出されていないのではないでしょうか?

追記:この研究、読めば読むほど面白いです。上記のように脳卒中既往例で以外に治療が緻密でないこととか。他にも脳卒中、心筋梗塞例であるにもかかわらず死亡原因の多くが脳卒中、心筋梗塞でないことなど。こういうデータを見るとメタボ健診を一生懸命やるよりがん検診にもっと目を向けるべきと思わせますね。
by dobashinaika | 2011-09-01 23:35 | 心房細動:リアルワールドデータ | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:疫学・リスク因子
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールドデータ
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
Covid-19
未分類

タグ

(44)
(40)
(35)
(32)
(28)
(28)
(25)
(25)
(24)
(23)
(21)
(21)
(20)
(19)
(18)
(18)
(14)
(14)
(13)
(13)

ブログパーツ

ライフログ

著作
プライマリ・ケア医のための心房細動入門 全面改訂版

もう怖くない 心房細動の抗凝固療法 [PR]


プライマリ・ケア医のための心房細動入門 [PR]

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌] [PR]

最近読んだ本

ケアの本質―生きることの意味 [PR]


ケアリング―倫理と道徳の教育 女性の観点から [PR]


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく) [PR]


健康格差社会への処方箋 [PR]


神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Ν´υξ叢書) [PR]

最新の記事

2024年JCS/JHRS不..
at 2024-03-21 22:45
日本独自の新しい心房細動脳梗..
at 2024-03-17 22:31
心房細動診療に残された大きな..
at 2024-01-03 23:00
東日本大震災と熊本地震におけ..
at 2024-01-02 16:11
脳梗塞発症後の心房細動患者に..
at 2024-01-01 18:41
ACC/AHAなどから202..
at 2023-12-10 23:12
ライフスタイルを重視した新し..
at 2023-11-06 21:31
入院中に心房細動が初めて記録..
at 2023-11-05 11:14
フレイル高齢心房細動患者では..
at 2023-08-30 22:39
左心耳閉鎖術に関するコンセン..
at 2023-06-10 07:29

検索

記事ランキング

最新のコメント

血栓の生成過程が理解でき..
by 河田 at 10:08
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 06:41
突然のコメント失礼致しま..
by シマダ at 21:13
小田倉先生、はじめまして..
by 出口 智基 at 17:11
ワーファリンについてのブ..
by さすけ at 23:46
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
取り上げていただきありが..
by 大塚俊哉 at 09:53
> 11さん ありがと..
by dobashinaika at 03:12
「とつぜんし」が・・・・..
by 11 at 07:29

以前の記事

2024年 03月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 08月
2023年 06月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン