プラザキサ処方時、「心房細動=脳の疾患」という視点
8月12日の厚労省プレスリリースと日本ベーリンガーインゲルハイムからのプラザキサに関する安全性速報および日本循環器学会からの緊急ステートメントは、われわれが心房細動の抗凝固療法を行うことの難しさを大切さを再認識させるに十分でした。
そのことは2日前のブログに書きましたが、私がもう一つ驚いたことは、発売5ヶ月で既に推定6万4千人もの患者さんにプラザキサが処方されているということです。確かに私の親しいプライマリケア医でも(元々病院勤務時代は非循環器専門)、すでに驚くほどたくさん処方されている先生もおられます。2週間処方や高薬価はあまり縛りにはなっていないようにも感じられます。
これだけの数の処方は、もちろん循環器専門医でないプライマリケア医からもたくさん処方されていることを意味すると思われます。そのパターンはそれぞれでしょうが、ワーファリンからの切り替え、これまでアスピリンでお茶を濁していた方の切り替え、適応はあったが面倒でワーファリンを導入していなかった人への新規投与等が多いと思われます。
たしかにワーファリンに比べれば、食事制限、他剤併用制限が無く、採血モニタリングの必要が無い簡便な薬であることは間違いありません。しかしながら一方ワーファリンに代表される抗凝固薬は厚生労働科学研究の「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアルにおいて「ハイリスク薬」と定義されており、日本薬剤師会も薬学的管理指導に関してガイドラインを出しているような、処方上特に注意が必要な薬品に位置づけられる薬です。このハイリスク薬には抗悪性腫瘍剤、不整脈用剤、抗てんかん剤、ジギタリス剤、テオフィリン製剤、精神神経用剤、糖尿病用薬、すい臓ホルモン剤、免疫抑制剤、抗HIV薬が含まれます。
プライマリケア医の処方する薬品は、特殊な専門のあるクリニックを除き、多くはコモンな疾患に対するものがほとんどです。降圧薬、スタチン製剤、糖尿病薬、骨粗鬆症、認知症薬、消化器系薬剤、抗菌薬、NSAID、抗アレルギー薬などなど。これらは、特に重篤な副作用を認めることもありますが、抗凝固薬のように0.5~1%の頻度で生命に関わるような大出血をきたすほどの薬はそう多くはありません。またプラザキサ同様、腎機能や併用薬剤に関しては他のコモン薬剤でも注意が必要な場合は多いですが、それを怠った場合、重篤な予想される副作用の重篤度は群を抜いています。またなにより他のコモン薬剤では長年の経験の蓄積でそれほど危険を冒さず処方できるのに対し、新薬プラザキサにはまだそうした経験知の蓄積がありません。
もう一つ、プライマリケア医は日頃心房細動を見ると、どうしても動悸を押さえる、または心拍数を押さえることに目が向きがちです。速くて不規則な心電図を目の前にすると、そちらの方がこの疾患の本質であるかのように誤解しがちです。その分抗凝固薬投与に関しては処方するにしてもしないにしても、比較的軽く考えられているように思います。山下武志先生は自身の著書で、心房細動では「心電図を見ない」ようにする事を提唱しています。これを読んだときは極論のようにも感じる一方、なるほど至言と思いました。私は、新規抗凝固薬時代に入ったこのときこそ極論として、次のように言いたいと思います。「心房細動は心臓の疾患ではない。脳の疾患である」。もちろん正確には暴論であり、脳血管疾患のリスク因子にすぎない訳ですが、AFFIRM試験以来、心房細動であること自体はたいして重要ではないことが明白になっており、心房細動を見たら、まず真っ先に脳に思いを馳せるべきだと思われます。そのくらいのしっかりした認識でプラザキサを処方して行きたいということです。
プラザキサを処方する際は、現時点では、簡便であることに心を奪われてはいけないと思います。副作用が重篤で、経験知の蓄積が少ない薬であることをふまえた上で,それでもしっかりと適応を考え、適切に使って行きたいです。
ちなみに当院は、適応と思われる通院患者さん約150人とお話し合いし、現在約20人に処方中です。2週間処方の縛りが処方しない多くの原因となっています。
そのことは2日前のブログに書きましたが、私がもう一つ驚いたことは、発売5ヶ月で既に推定6万4千人もの患者さんにプラザキサが処方されているということです。確かに私の親しいプライマリケア医でも(元々病院勤務時代は非循環器専門)、すでに驚くほどたくさん処方されている先生もおられます。2週間処方や高薬価はあまり縛りにはなっていないようにも感じられます。
これだけの数の処方は、もちろん循環器専門医でないプライマリケア医からもたくさん処方されていることを意味すると思われます。そのパターンはそれぞれでしょうが、ワーファリンからの切り替え、これまでアスピリンでお茶を濁していた方の切り替え、適応はあったが面倒でワーファリンを導入していなかった人への新規投与等が多いと思われます。
たしかにワーファリンに比べれば、食事制限、他剤併用制限が無く、採血モニタリングの必要が無い簡便な薬であることは間違いありません。しかしながら一方ワーファリンに代表される抗凝固薬は厚生労働科学研究の「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアルにおいて「ハイリスク薬」と定義されており、日本薬剤師会も薬学的管理指導に関してガイドラインを出しているような、処方上特に注意が必要な薬品に位置づけられる薬です。このハイリスク薬には抗悪性腫瘍剤、不整脈用剤、抗てんかん剤、ジギタリス剤、テオフィリン製剤、精神神経用剤、糖尿病用薬、すい臓ホルモン剤、免疫抑制剤、抗HIV薬が含まれます。
プライマリケア医の処方する薬品は、特殊な専門のあるクリニックを除き、多くはコモンな疾患に対するものがほとんどです。降圧薬、スタチン製剤、糖尿病薬、骨粗鬆症、認知症薬、消化器系薬剤、抗菌薬、NSAID、抗アレルギー薬などなど。これらは、特に重篤な副作用を認めることもありますが、抗凝固薬のように0.5~1%の頻度で生命に関わるような大出血をきたすほどの薬はそう多くはありません。またプラザキサ同様、腎機能や併用薬剤に関しては他のコモン薬剤でも注意が必要な場合は多いですが、それを怠った場合、重篤な予想される副作用の重篤度は群を抜いています。またなにより他のコモン薬剤では長年の経験の蓄積でそれほど危険を冒さず処方できるのに対し、新薬プラザキサにはまだそうした経験知の蓄積がありません。
もう一つ、プライマリケア医は日頃心房細動を見ると、どうしても動悸を押さえる、または心拍数を押さえることに目が向きがちです。速くて不規則な心電図を目の前にすると、そちらの方がこの疾患の本質であるかのように誤解しがちです。その分抗凝固薬投与に関しては処方するにしてもしないにしても、比較的軽く考えられているように思います。山下武志先生は自身の著書で、心房細動では「心電図を見ない」ようにする事を提唱しています。これを読んだときは極論のようにも感じる一方、なるほど至言と思いました。私は、新規抗凝固薬時代に入ったこのときこそ極論として、次のように言いたいと思います。「心房細動は心臓の疾患ではない。脳の疾患である」。もちろん正確には暴論であり、脳血管疾患のリスク因子にすぎない訳ですが、AFFIRM試験以来、心房細動であること自体はたいして重要ではないことが明白になっており、心房細動を見たら、まず真っ先に脳に思いを馳せるべきだと思われます。そのくらいのしっかりした認識でプラザキサを処方して行きたいということです。
プラザキサを処方する際は、現時点では、簡便であることに心を奪われてはいけないと思います。副作用が重篤で、経験知の蓄積が少ない薬であることをふまえた上で,それでもしっかりと適応を考え、適切に使って行きたいです。
ちなみに当院は、適応と思われる通院患者さん約150人とお話し合いし、現在約20人に処方中です。2週間処方の縛りが処方しない多くの原因となっています。
by dobashinaika
| 2011-08-16 10:35
| 抗凝固療法:ダビガトラン
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
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