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アスリートの心臓突然死について勉強しました

ここ数日、多くの人の関心事であり患者さんから聞かれることも多いため、「運動選手の突然死」について勉強してみました。
おもにUpToDateの「Risk of sudden cardiac death in athletes」「Screening to prevent sudden death in athletes」を参考にしています。

罹患率
・10~20年間で50,000人〜300,000人に1人
・19年間にわたる市民マラソンの選手215,413人のデータ1)ではマラソン中あるいは直後の死亡は4名で、50,000人に1人の割合
・この4人は前駆症状なし、内2人はマラソン経験者、3人は剖検で冠動脈疾患あり
・このようにマラソンの突然死は予測困難で、低頻度だが他の運動よりは頻度が多い

原因
<器質的心疾患>
1)35歳未満
・アメリカの1,435人の競技選手の突然死登録研究2)の剖検結果では、肥大型心筋症36%、冠動脈起始異常17%、心筋炎6%、不整脈原性右室心筋症4%、僧帽弁逸脱症4%、大動脈狭窄3%、冠動脈心筋内埋没3%、冠動脈硬化3%、イオンチャネル病2%、動脈瘤破裂2%、他の先天性心疾患2%
・イタリアの49例の突然死例の検討3)では不整脈原性右室心筋症22%、冠動脈硬化18%、冠動脈起始異常12%、僧帽弁逸脱症10%、心筋炎6%、肥大型心筋症2%
・アメリカの17〜35歳の候補兵600万人のデータ4)では126人に突然死を認め、うち86%は運動中。冠動脈起始異常33%、心筋炎20%、冠動脈硬化16%、心筋症13%

2)35歳以上:冠動脈疾患が原因の多数を占める

<非器質的心疾患>
・QT延長症候群、Brugada症候群、カテコラミン感受性多型性心室頻拍。その他に心臓震盪、特発性心室細動

冠動脈起始異常
・若年運動選手の突然死の12~33%を占める。
・最も多いのは、右バルサルバ洞からの左主幹部の起始と左バルサルバ洞から右冠動脈が起始するタイプ
・高リスクの奇形では肺動脈と大動脈の間で冠動脈が急に屈曲するパターンあり。
・冠動脈が、運動することで引き延ばされた大動脈や肺動脈幹を横切るときに屈曲がより強調され、二次的に虚血が起こる
・前駆症状は少なく突然死が初発症状のことが多い
・診察だけではスクリーニングはできず、MRI,MDCTなどに寄らねばならない

スクリーニング:現在アメリカ心臓協会(AHA)と欧州心臓学会(ESC)の2つのガイドラインがある

<AHA>
1)35歳未満5)
・高校や大学でなされるべきガイドラインがある
・トレーニングや競技を始める前に個人および家族のヒストリーを完璧に取るべき
・運動選手は必要な訓練を受け医学スキルのあるヘルスワーカーによりスクリーニングがなされるべき
・高校では包括的な問診と身体診察が2年ごとに繰り返されるべき
・大学では暫定的に問診と血圧測定を3〜4年ことに行うべき
・心電図、心エコー、運動負荷試験は,現実的にも費用便益的に(偽陽性が多いという点からも)も勧められない

2)35歳以上6)
・ヒストリー聴取と身体診察は行うべき
・中〜高度リスク者の運動負荷試験は勧められる

<ESC>
若年者7)
・ヒストリー聴取と身体診察は行うべき
・しかるべき教育を受けた医師が行うべき
・2年ごとに行うべき
・12誘導心電図は施行されるべき
・以上で異常がでれば、心エコーホルター運動負荷、MRIなどが勧められる

### 文献2)が剖検により究明し得た死因の検討としては最大で、それによるとやはり肥大型心筋症,冠動脈起始異常、右室心筋症等が原因として多いようです。
心電図によるスクリーニングはアメリカでは偽陽性の問題から勧められず、欧州では勧められていますが、以前の当ブログで紹介したように評価は一定していないようです。
どちらも優れた医療従事者による問診、診察の大切さを挙げていますね。

文献
1)J Am Coll Cardiol. 1996;28(2):428.
2)Circulation. 2007;115(12):1643
3)J Am Coll Cardiol. 2003;41(6):974
4)Ann Intern Med. 2004;141(11):829
5)Circulation. 2007;115(12):1643
6)Circulation 2001; 103:327
7)Eur Heart J. 2005;26(5):516.
by dobashinaika | 2011-08-05 22:57 | 心臓突然死 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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