Brugada症候群と心房細動の関係について勉強しました
Brugada症候群と心房細動の関係に関する総説(Editorial)がありました。勉強の意味で要約しましたので参考にしてください。
Brugada syndrome and atrial fibrillation: pathophysiology and genetics
・1992年Brugada兄弟は、心電図上V1-V3で右脚ブロックとST上昇をきたす8人の患者の心室細動や突然死のリスクに関して報告した
・そのうちの一人の患者は8歳の女の子で心房細動の既往があった
・彼女の最初の失神は8歳のときだが、心房細動は生後すぐに認められた
Brugada症候群の遺伝学
・はじめに発見されたこの症候群に関係ある遺伝子はSCN5A:Na内向き電流チャネルであるNaV1.5のαサブユニットをエンコードする
・この遺伝子変異は同症候群の20%で同定される
・近年、よりまれではあるが、関連ある遺伝子が発見されている;GPD1L,SCN18,SCN3B,KCNE3,CACNA1C,CACNB2b
・SCN5Aは家族性心房細動にも関係している
心房細動とBrugada症候群
・Brugada症候群の心房細動,粗動合併率は約20%で、40歳以上の一般人口における2.3%に比べて多い
・Kusanoらは同症候群の心房細動の70%は夜に発症することを報告し、夜間迷走神経緊張と交感神経退縮は大きな役割を担っているとされた
・この交感—副交感バランスで引き起こされる徐脈が心室性不整脈の誘発に寄与するとも考えられており、同症候群の突然死が夜多いこともその裏付けである
・心房性不整脈はより重い不整脈の指標となる.実際心室性不整脈が誘発され、ICDの適応とされるようなタイプ1のBrugada症候群は心房細動を多く合併している
・Papponeらは新規発症心房細動ではIc群抗不整脈薬で明らかになるBrugada症候群は3.2%もおり、孤立性心房細動では5.8%に上ると報告した
・SCN5A変異が認められなくてもICD植え込みを行った患者のうち一人はフォローアップ期間中心室細動になった。これは薬剤により顕在化するBrudgada波形は、心室性不整脈に先立って心房性不整脈が発症することを示唆する
Brugada症候群の心房細動におけるSCN5A変異の影響
・今回のAminらの仮説は興味深いが症例数が少ない
不整脈発生のメカニズム
・Makiyamaらは常染色体優性遺伝の心房細動の家族を調べ、SCN5Aの新しい獲得形質を同定した
・この家族は、10代で心房期外収縮に伴う動悸感を訴える.これが後日発作性あるいは持続性となった
・カテーテルアブレーションは1人の発端者に施行されたが、右房の多発性心房期外収縮を誘発させ、2回めセッションを要し最終的には症状が残った
・SCA5A変異により獲得された機能は、心房期外収縮や心房期外収縮を引き起こす再分極や早期後脱分極から生じるtriggered activitydと推察された
・TohらはSCN5A変異患者は心房内伝導時間が延長していると報告した。
・Aminらの論文とは左房径は異なっていないことが違う
・心房細動の発症は時に自律神経の揺らぎの大きい夜に見られ、Brugada症候群の心房細動も同様
・迷走神経緊張は心房内伝導時間を延長させ、不応期を短縮させる
・SconikらはSAN5Aの機能喪失変異が心内神経叢活動のインバランスや迷走神経緊張を引き起こすと報告した
Brugada症候群の心房細動の管理
・Naチャネルブロッカー使用は、Brugada症候群を悪化させるため慎重に考えるべき
・同様にβブロッカーは再分極の貫壁性の不均一を促進させST上昇を顕在化させるし、Ca拮抗薬も同様なので避けるべき
・アミオダロンの安全性も確立されていない
・キニジンはBrugadaパタ−ンと心室細動を減じる。これは迷走神経緊張作用とItoのブロック作用と考えられる
・キニジンはBrugada症候群の心房細動に有効と考えられる
・心房細動コントロールはICD安定化の重要な要素であるので(心房性不整脈は誤作動の14%)、心房細動の薬剤コントロールが困難なときは心房細動アブレーションを考慮する
・YamadaらはBrugada波形の心房細動6人に肺静脈隔離を行い、全例抗不整脈薬からフリーとなったことを報告している
結論
Brugada症候群の理解は急速に進んだが、まだ答えのない問題もある。Brugadaにおける心房細動のメカニズムには多くの因子が関与する。このメカニズムの解明は一般的な心房細動への理解のインパクトをなるであろう
Brugada syndrome and atrial fibrillation: pathophysiology and genetics
・1992年Brugada兄弟は、心電図上V1-V3で右脚ブロックとST上昇をきたす8人の患者の心室細動や突然死のリスクに関して報告した
・そのうちの一人の患者は8歳の女の子で心房細動の既往があった
・彼女の最初の失神は8歳のときだが、心房細動は生後すぐに認められた
Brugada症候群の遺伝学
・はじめに発見されたこの症候群に関係ある遺伝子はSCN5A:Na内向き電流チャネルであるNaV1.5のαサブユニットをエンコードする
・この遺伝子変異は同症候群の20%で同定される
・近年、よりまれではあるが、関連ある遺伝子が発見されている;GPD1L,SCN18,SCN3B,KCNE3,CACNA1C,CACNB2b
・SCN5Aは家族性心房細動にも関係している
心房細動とBrugada症候群
・Brugada症候群の心房細動,粗動合併率は約20%で、40歳以上の一般人口における2.3%に比べて多い
・Kusanoらは同症候群の心房細動の70%は夜に発症することを報告し、夜間迷走神経緊張と交感神経退縮は大きな役割を担っているとされた
・この交感—副交感バランスで引き起こされる徐脈が心室性不整脈の誘発に寄与するとも考えられており、同症候群の突然死が夜多いこともその裏付けである
・心房性不整脈はより重い不整脈の指標となる.実際心室性不整脈が誘発され、ICDの適応とされるようなタイプ1のBrugada症候群は心房細動を多く合併している
・Papponeらは新規発症心房細動ではIc群抗不整脈薬で明らかになるBrugada症候群は3.2%もおり、孤立性心房細動では5.8%に上ると報告した
・SCN5A変異が認められなくてもICD植え込みを行った患者のうち一人はフォローアップ期間中心室細動になった。これは薬剤により顕在化するBrudgada波形は、心室性不整脈に先立って心房性不整脈が発症することを示唆する
Brugada症候群の心房細動におけるSCN5A変異の影響
・今回のAminらの仮説は興味深いが症例数が少ない
不整脈発生のメカニズム
・Makiyamaらは常染色体優性遺伝の心房細動の家族を調べ、SCN5Aの新しい獲得形質を同定した
・この家族は、10代で心房期外収縮に伴う動悸感を訴える.これが後日発作性あるいは持続性となった
・カテーテルアブレーションは1人の発端者に施行されたが、右房の多発性心房期外収縮を誘発させ、2回めセッションを要し最終的には症状が残った
・SCA5A変異により獲得された機能は、心房期外収縮や心房期外収縮を引き起こす再分極や早期後脱分極から生じるtriggered activitydと推察された
・TohらはSCN5A変異患者は心房内伝導時間が延長していると報告した。
・Aminらの論文とは左房径は異なっていないことが違う
・心房細動の発症は時に自律神経の揺らぎの大きい夜に見られ、Brugada症候群の心房細動も同様
・迷走神経緊張は心房内伝導時間を延長させ、不応期を短縮させる
・SconikらはSAN5Aの機能喪失変異が心内神経叢活動のインバランスや迷走神経緊張を引き起こすと報告した
Brugada症候群の心房細動の管理
・Naチャネルブロッカー使用は、Brugada症候群を悪化させるため慎重に考えるべき
・同様にβブロッカーは再分極の貫壁性の不均一を促進させST上昇を顕在化させるし、Ca拮抗薬も同様なので避けるべき
・アミオダロンの安全性も確立されていない
・キニジンはBrugadaパタ−ンと心室細動を減じる。これは迷走神経緊張作用とItoのブロック作用と考えられる
・キニジンはBrugada症候群の心房細動に有効と考えられる
・心房細動コントロールはICD安定化の重要な要素であるので(心房性不整脈は誤作動の14%)、心房細動の薬剤コントロールが困難なときは心房細動アブレーションを考慮する
・YamadaらはBrugada波形の心房細動6人に肺静脈隔離を行い、全例抗不整脈薬からフリーとなったことを報告している
結論
Brugada症候群の理解は急速に進んだが、まだ答えのない問題もある。Brugadaにおける心房細動のメカニズムには多くの因子が関与する。このメカニズムの解明は一般的な心房細動への理解のインパクトをなるであろう
by dobashinaika
| 2011-06-27 23:26
| 心房細動:リアルワールドデータ
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
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●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
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