ダビガトランの重篤副作用報告:代謝経路から抗凝固薬を見るという視点
ご承知のように、ダビガトランの副作用報告がPMDから出ています。
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201106_2_1.pdf
3例とも80歳代。1例は肺胞出血、死亡(220mg)。1例は消化管出血、軽快(220mg)。1例は脳出血、意識回復なし(300㎎)です。症例1,2は腎機能低下、症例3はベラパミル併用を認めています。
ダビガトランが上梓されてから3カ月。すでに多くの医師が処方しているものと思われますが、この3例のプロファイルをみると、やはり腎機能に十分留意する必要性を感じます。
私をはじめ、多くの開業医は、腎機能のために容量設定をこまめに変える薬剤を扱う機会はそう多くないかもしれません。降圧薬、血糖降下薬、スタチンなど、それほど神経質にeGFRごとに容量を変えて処方する必要のない薬を普段扱っています。また上記のような市場に大量に出回る薬では、そのような必要のないような簡便な薬が生き残っているとも言えます。
抗菌薬は神経を使いますが静注薬が主であり、短期間処方の経口抗菌薬では、eGFRごとに処方量を変えることまではあまりしません。
ダビガトランでは、eGFR50を境に容量へ注意喚起がなされています。eGFR50といえば、高齢者特に75歳以上ではかなりの層が当てはまると思われます。
たとえば抗不整脈薬を考えた場合、われわれは、この薬は肝代謝、これは腎代謝と大雑把に押さえたうえで、肝腎機能例にはそれに見合った処方を行うはずです。抗不整脈薬に限らずとも、われわれはこの薬は肝障害には使えない、これは腎機能低下でも使えるといった臨床家としての常識を日々駆使しているはずです。抗凝固療法も同じように、ダビガトラン登場でそれまでワーファリンだけの肝代謝薬物オンリーだった所に、腎代謝薬という新たな選択肢がひとつ加わったという視点をもち、早めにそれに慣れることが大切と思われます。
抗凝固療法は施行しなくても重篤、施行したうえでの副作用も重篤という側面があります。これほどどちらに転んでもシビアな薬はそう多くはありません。ダビガトランはたしかに簡便であり、これまで適応はあると思いつつも躊躇されていた医師から、かなりの処方がすでになされていると思われますが、上記のような年齢、腎機能といった規定因子をしっかり押さえたいと思います。
また以前から書いていますように110mgと150mgとの選択基準等も視野に入れた、日本人対象の医師主導型臨床試験が望まれるところです。
追記(2011.6.28):dabi-fun様から、コメントのようなご指摘をいただきました.添付文書を確認えいてもわかるとおり、CCrで50を境に注意喚起がなされています.上記該当箇所の記述を訂正させていただきます。
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201106_2_1.pdf
3例とも80歳代。1例は肺胞出血、死亡(220mg)。1例は消化管出血、軽快(220mg)。1例は脳出血、意識回復なし(300㎎)です。症例1,2は腎機能低下、症例3はベラパミル併用を認めています。
ダビガトランが上梓されてから3カ月。すでに多くの医師が処方しているものと思われますが、この3例のプロファイルをみると、やはり腎機能に十分留意する必要性を感じます。
私をはじめ、多くの開業医は、腎機能のために容量設定をこまめに変える薬剤を扱う機会はそう多くないかもしれません。降圧薬、血糖降下薬、スタチンなど、それほど神経質にeGFRごとに容量を変えて処方する必要のない薬を普段扱っています。また上記のような市場に大量に出回る薬では、そのような必要のないような簡便な薬が生き残っているとも言えます。
抗菌薬は神経を使いますが静注薬が主であり、短期間処方の経口抗菌薬では、eGFRごとに処方量を変えることまではあまりしません。
ダビガトランでは、eGFR50を境に容量へ注意喚起がなされています。eGFR50といえば、高齢者特に75歳以上ではかなりの層が当てはまると思われます。
たとえば抗不整脈薬を考えた場合、われわれは、この薬は肝代謝、これは腎代謝と大雑把に押さえたうえで、肝腎機能例にはそれに見合った処方を行うはずです。抗不整脈薬に限らずとも、われわれはこの薬は肝障害には使えない、これは腎機能低下でも使えるといった臨床家としての常識を日々駆使しているはずです。抗凝固療法も同じように、ダビガトラン登場でそれまでワーファリンだけの肝代謝薬物オンリーだった所に、腎代謝薬という新たな選択肢がひとつ加わったという視点をもち、早めにそれに慣れることが大切と思われます。
抗凝固療法は施行しなくても重篤、施行したうえでの副作用も重篤という側面があります。これほどどちらに転んでもシビアな薬はそう多くはありません。ダビガトランはたしかに簡便であり、これまで適応はあると思いつつも躊躇されていた医師から、かなりの処方がすでになされていると思われますが、上記のような年齢、腎機能といった規定因子をしっかり押さえたいと思います。
また以前から書いていますように110mgと150mgとの選択基準等も視野に入れた、日本人対象の医師主導型臨床試験が望まれるところです。
追記(2011.6.28):dabi-fun様から、コメントのようなご指摘をいただきました.添付文書を確認えいてもわかるとおり、CCrで50を境に注意喚起がなされています.上記該当箇所の記述を訂正させていただきます。
by dobashinaika
| 2011-06-19 00:04
| 抗凝固療法:ダビガトラン
|
Comments(2)
Commented
by
dabi-fun
at 2011-06-28 18:36
x
私の覚えではダビガトランの注意喚起は『CCr<50』だったと思います。『e-GFR<36』と聞きました。調べてみられてはいかがでしょうか。
0
Commented
by
dobashinaika at 2011-06-28 22:54
ご指摘ありがとうございます。添付文書上eGFRではなくCCr<50
の誤りです.追記で訂正させていただきました。皆様、誤解を与えるような記述をして申し訳ございませんでした.
の誤りです.追記で訂正させていただきました。皆様、誤解を与えるような記述をして申し訳ございませんでした.
土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
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