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アメリカの心房細動管理ガイドラインが一部改訂されました

米国の心房細動管理ガイドラインが、限定的ながら改訂されました。これまで、「米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)/欧州心臓病学会(ESC)心房細動ガイドライン2006」として2006年にガイドラインが出ていますが、ヨーロッパ心臓病学会だけ、単独で今年ガイドラインを発表しており、日本でも2008年に改訂版が出ています。米国のそれはやや古くなった感がありましたが、さすがに最近のめまぐるしい潮流に即して、今回限定的ながら一部改訂がなされました。
論文はこちらから

要点は以下の4点です。
1)心房細動中の心拍数を厳格に管理するのは有効ではない
2)ワーファリンを使うことができない例でのアスピリン+クロピドグレルの投与は考慮しても良い
3)ドロネダロンは除細動後の投与は妥当であるが、心不全例には投与すべきでない
4)カテーテルアブレーションは有益である


具体的な推奨度の改訂は以下の通りです。
1)心機能が安定し(左室駆出分画40%未満)、症状が落ち着いており左室機能低下が可逆的である持続性、永続性心房細動患者においては、心拍数の厳格な管理(安静時80/分または6分歩行後110/分)は、緩徐な管理(安静時110/分)に比べで有効ではない(クラスIII、エビデンスレベルB)。

これは以前ブログ3月18日でも取り上げたRACEII試験(N Engl J Med 2010;362:1363-1373)の知見を取り入れたものです。RACEII試験は40%強の人がβ遮断薬単独使用であったことや、複合エンドポイントであることに注意が必要ですが、今後きちんとβ遮断薬使用を心がければ、80/分くらいまで下げる必要はないことが強調されました。



2)ワーファリンを使うことができない場合にアスピリン+クロピドグレルの投与は大血管イベント抑制のために考慮しても良い(クラスIIb、エビデンスレベルB)。

これは2009年に発表されたACTIVE-A試験(N Engl J Med 2009;360: 2066- 2078)に基づいています。ただし、「ワーファリンが使用できない患者」の中身を見ると、この試験では50%近くに人が「医者の選好」のためとしています。また欧米人と日本人との凝固線溶活性の違いから、抗血栓薬の大規模試験は日本人にすぐ適応できにくいことを念頭に置く必要があります。

3)ドロネダロンは除細動後の心血管イベントによる入院を減らすための使用は妥当であるが(クラスIIa)、重症心不全患者には投与してはならない(クラスIII)(エビデンスレベルB)。

ドロネダロンはアミオダロンより副作用が少なく、今年多くの大規模試験での効果が報告され期待される薬剤ですが、日本では認可されていません。

4)「洞調律維持」の章で以下の点が修正勧告されています。
・クラスI:経験の多い施設で、症状の強い発作性心房細動患者に、洞調律維持のためにカテーテルアブレーションを行うこと。抗不整脈薬が無効、心房が正常ないし軽度拡大、左室機能は正常か軽度拡大、肺疾患なしが条件(エビデンスレベルA)。
・ クラスIIa:症状のある持続性心房細動患者に対するカテーテルアブレーションは妥当である(エビデンスレベルC)。

アブレーションは12の論文、計6,900名の患者の知見から上記のように大変な格上げがなされました。クラスIの症状の強い発作性心房細動例は、2006年版ではクラスIIa、エビレベルCでしたし、持続性心房細動については初めて妥当とされています。

###今回の限局的改訂で、私たち医師の行動変容に関わることは、「心拍数を厳しく下げなくても良い」「カテーテルアブレーションを積極的に考えてよい」の2点でしょう。心拍数調節には「適切なβ遮断薬の使用」、アブレーションには「適切な患者選択と施設選択」が前提となると思います。
by dobashinaika | 2010-12-26 09:27 | 心房細動:疫学・リスク因子 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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