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心房細動と慢性腎臓病(CKD)との関係

病気の表す言葉には、いろいろなカテゴリーがあって、たとえば多くの「がん」のように明らかにがん細胞という原因が特定できる病気もあれば、「心不全」のように心筋梗塞など原因はいろいろあるけれどもそれは問わないで、とにかく心臓の働きが低下した状態を指す言葉もあります。厳密には「病名」ではなく「心臓の病的な状態」を指す言葉です。
近年「慢性腎臓病(英語でchronic kidney disease=CKDと略されます)」という病気の概念が普及しています。以前は腎臓病というと尿にタンパクがでる「ネフローゼ症候群」や「慢性腎炎」などを指していましたが、CKDはそうした病気の仕組みや原因は何でもよくて、とにかくタンパク尿が出る、あるいは1分間の腎臓が作り出す尿の量(英語でeGFRと略します)が60cc未満(体格によるため体表面積で補正したもの)であればCKDと定義します。この意味でCKDは心不全と同じような、腎臓の状態を表す言葉と考えてよいと思います。
この1分間の尿生成量が低くなるにつれCKDの重症度(ステージ)が重くなり1段階から5段階まで設定されています。CKDのうちステージが1、2くらいの人(上記の尿生成量が60〜90cc位の人)は実は大変多く、50代後半位からの高血圧の方などほとんどこのステージ1か2(もしくは3)に入ると思われます。
従来より透析が必要なほどの重症腎臓病患者さんでは心房細動がかなり多いことは知られていました。しかしながらこの程度の軽い腎臓病においては心房細動がどれくらいあるのかはデータがありませんでした。それを明らかにした論文が発表されています(Am Heart J 2010; 159:1102-1107)。


背景)腎臓病の末期患者で心房細動がどのくらいあるのかは多くの研究があるが、軽度の腎臓病患者でのデータは少ない。

方法)3267人の慢性腎臓病患者を対象とした(50%がnon-Hispanic black、女性46%)。透析患者はなし。心房細動の有無は心電図記録または自己申告で判断した。

結果)平均のeGFRは43.6。心房細動は18%に認められ、70歳以上では25%以上に認められた。年齢、女性、喫煙、心不全の既往歴、心臓血管病の既往はそれぞれ単独で心房細動の危険因子(それを持っていた方が持っていない場合より心房細動が多い)であった。人種、糖尿病、肥満度(BMI)、身体活動性、教育、高感度CRP(炎症を示す検査数値)、総コレステロール、飲酒は心房細動とは無関係だった。eGFRが45を下回ると心房細動が明らかに増加した。

結論)腎不全の末期患者の心房細動罹患率は正常者の2〜3倍であった。腎不全患者の心房細動危険因子は正常者のそれとはやや違っていた。

この論文の対象はCKDのステージ3すなわち中等度の腎機能低下患者です。糖尿病に高血圧を合併する人、60歳以上の多くの方は自動的にここに入ると思われます。通常心房細動は糖尿病や肥満の人に多いとされていますが、それは腎臓病などのない一般住民を対象にしたデータであり、腎不全患者においては心不全、心臓病の既往など心機能が低下した例でおきやすいことが示唆されています。
CKDも心房細動も最近は全身の動脈硬化、あるいは炎症の結果と考えられてきておりその意味でも興味深いデータです。
by dobashinaika | 2010-07-02 00:03 | 心房細動:リアルワールドデータ | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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