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遺伝子診断でワーファリンの初期の副作用による入院を減らすことができる

ワーファリンは通常1日2〜4mg服用される方が多いのですが、ときに1mgで十分な人もいれば、7~9mgくらいのまないと効かない人がいます。
その原因として、ワーファリンの効き目を強める遺伝子と弱める遺伝子が突き止められています。ワーファリンは肝臓でCYP2C9と名付けられ酵素で分解されますが、この酵素を作る遺伝子が足りないためにワーファリンが分解されず、従ってワーファリンが少ない量でも効いてしまう集団がいることが知られています。一方ワーファリンは血液を固まらせる作用のある還元型ビタミンKに作用して固まらないようにするのですが、ビタミンKを酸化型から還元型に変えるビタミンK還元酵素VKORC1を作る遺伝子が発見されており、この遺伝子に変化のある人はワーファリンを大量に必要とすることもわかってきました。これらの遺伝子異常のある人を調べれば、ワーファリンの副作用を予防できると考えられますが、これまでの小規模な研究では、遺伝子を調べても副作用の違いがなかったという結果が報告されていました。
今回、この問題に関して多くの症例を対象にした研究が発表されました
(http://content.onlinejacc.org/cgi/content/full/55/25/2804)。

目的)ワーファリン服用開始時に遺伝子型を調べることが、出血や脳塞栓による入院を減らすことができるか否かを調べる。

背景)CYP2C9とVCORC1の遺伝子のバリエーションの調査で、ワーファリンの量を予測できると言われてきたが、アメリカにおいて大規模な研究はなされていない。

方法)アメリカの各種企業、政府関係機関でこの種の研究の協力メンバーとなっている40歳から75歳の人で、ワーファリン服薬を外来で開始する患者を対象とした。上記遺伝子診断を受けた896名と、他の条件を同じにした対照群2688名との間で、最初の6ヶ月での入院率、ワーファリン治療の変化に月日か期した。

結果)遺伝子診断群の方が対照群より31%入院が少なかった。出血や脳塞栓による入院自体も28%少なかった。

結論)ワーファリンの遺伝子診断はワーファリンを飲み始める患者さんの入院リスクを減らすことができる

###この研究では医師が具体的にどのようにワーファリンを調節したのかの詳細が記載されていませんが、遺伝子の型が変化に富んでいる患者さんほどワーファリンの量をいろいろと変化せざるを得なかったというデータがでています
。しかしながら、例えば当院では、過去3年間で約100名の患者さんに初めてワーファリンを服薬していただいておりますが、最初の半年で出血や脳塞栓を来した例はほとんどありません。当院ではまず最低量の1mgから開始し1週間ごとにPT-INRを検査し、それに応じてゆっくりとワーファリンを増加させていくやり方をとっております。日本の多くの医療機関でも同様の慎重な処方導入がされていると思われますが、日米の医療アクセスの違いから説明できるかもしれません。
また近い将来、このような遺伝子に左右されないタイプの抗凝固薬が開発されつつあり、その意味でも一律な遺伝子診断が、日本で今のところ必要であるかは慎重に考える必要があろうかと思われます。
遺伝子診断でワーファリンの初期の副作用による入院を減らすことができる_a0119856_010570.jpg

by dobashinaika | 2010-06-21 00:10 | 抗凝固療法:ワーファリン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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