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正常なリズムでは心房細動のときよりも心不全症状は少ない。

心房細動の数ある論文で過去10年間最もインパクトのあったものに、AFFIRM(アファーム)試験があります。心房細動が起きないように不整脈の薬を飲み続けるのと、心房細動は起きてもいいので心拍数だけ抑えようとした場合とで生存率に差がなかったというものです。それまで心房細動はとにかくない方がよいとの固定観念が、医師にも患者にもありましたが、それを覆す結果であったため全世界で大変な反響を呼びました。今回生存率でなく、息切れなどの心不全の症状が、この2つの戦略とどう関係するのかをAFFIRM試験のデータを用いて分析した結果が、アメリカの不整脈専門誌(Heart Rhythm 2010; 7: 596-601)に発表されました。

背景)AFFIRM試験は心房細動を押さえる治療が、心拍数のみ押さえる治療に比べ、生存率の点で変わりないことを示した。しかし心房細動と患者の生活の質が落ちることとは関連がある。

目的)息切れ、動機などの心不全の症状を、心房細動抑制を目指す群と心拍数調節を目指す群と比べる。

方法)AFFIRM試験のデータを用いて解析(サブ解析)し比較する。

結果)心房細動抑制群より心拍数調節群の方が心不全症状は一般的に多く見られた。正常なリズム(洞調律)の場合が最も症状が軽く、心房細動の場合葉より症状は重かった。心房細動抑制の方針から心拍数調節へと方針が変わった例(あるいはその逆)で最も症状が重かった。

結論)心房細動抑制群は心拍数調節群に比べ、心不全の症状は軽かった。正常なリズムの維持が最良の心機能と関連していた。心房細動抑制を目指しているにも関わらず心房細動が発生し症状の強い患者はアブレーションなど、他の治療方針を考えるべきである。

###日本でもJ-RHYTHM(ジェイリズム)試験というAFFIRM試験出井辞した試験が行われました。この試験はAFFIRMより発作心房細動や心機能のよい患者が多かったのですが、やはり生存率に差はないものの、動機などの症状は今回と同様、心房細動抑制群でよかったという結果でした。実際問題、心房細動をそのままにして心拍数だけ押さえる場合も、目標となる心拍数を達成するには薬の種類や量の選択の点で難しいのが現状です。症状が強い患者さんはやはりなるべく正常なリズムを目指すという考え方を指示する論文です。
by dobashinaika | 2010-05-09 23:19 | 心房細動:ダウンストリーム治療


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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