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心電図から心房細動の発症を予測する

心房細動が将来起きるかどうかを予測するものとして、高血圧、弁膜症、年齢、虚血性心疾患などが挙げられますが、一方心電図のみから予測する試みも古くからなされています。心電図は健診などで簡単に調べることができ、これ1枚で心房細動が予測できればとても楽です。心電図には心房の興奮を示す小さなP波とそれに続く心室の興奮を表す大きなQRS波、そして心室の興奮がさめることを表すT波の3つの成分から成り立っています。このうちP波が普通より幅が広かったり、丈が高かったりすると心房細動が起きやすいことはこれまで知られていました。今回心電図のうちでもV1誘導という胸部の誘導のみを10万人以上という非常に多数の心電図で解析し、心房細動になる人の特徴を調べた研究が、日本の滋賀医科大学から発表されました。(Heart Rhythm 2010. 7: 289-294)

背景)心電図のV1誘導(胸の骨の右につけた電極で記録される部分)のP波の後半成分が下向きになると、心房細動が起こりやすいことが知られている。

目的)P波の形で心房細動の発症を予測できるかどうかを検討する

方法)滋賀医科大学病院の心電図テータベース(1983年から208年分)102,065人分、308,391心電図のV1誘導をコンピューターで解析した。1)P波が2つの山に分かれ、2)前半の山が上向きで、後半の山が下向き、かつ3)後半の山の幅が0.06ミリ秒かつ深さが-0.2mV以上のとき左房負荷(左心房に負担がかかっている)ありと定義した。102,065人中78人が左房負荷ありであり、これらの患者と年齢、性別、心電図記録時期の一致した左房負荷なし例234例を対象群とした。

結果)
1.左房負荷あり78人中、心房細動発症(発作性、持続性にかかわらず)は15例19%認めた(平均年齢52±19歳)。左房負荷なし例では234例中3例1.3%に過ぎなかった(オッズ比18.3)。
2.左房負荷ありのうち心房細動発症群と非発症群のV1誘導を比べると、後半成分の幅や深さには差がなかった。それに対し、前半成分は心房細動発症群のほうがその面積、波が、深さとも統計学的に有意に大きかった。特に前半成分の面積は心房細動発症の独立した危険因子であった(ハザード比4.02)。


###心電図の波形の第1の成分であるP波は、前半が右心房の興奮、後半が左心房の興奮を表すとされています。特に心電図のV1という場所の波形は、下の図のようにはじめの上向きの部分が右心房の興奮、後半の下向きの部分が左心房の興奮を表しており、この2つの山がはっきりしていると、左心房に負担がかかっていることを示しています。
心電図から心房細動の発症を予測する_a0119856_238206.jpg

今回の研究で、このようなP波を示す場合でも特に心房細動を発症する例というのは、P波の前半成分が大きい、すなわち右心房により負担がかかっている例であったことが示されました。
心房細動は、初め左心房に入ってくる肺静脈という血管の付け根から興奮し、次に左心房が無秩序に興奮し、右心房はその傍流で興奮するとされていますが、右心房にまで病変が及ぶことが心電図でも認められればかなり広い範囲の心房に負担がかかって(医学用語でリモデリング)ことが示唆され、それゆえ心房細動が多くなるという論理だろうと思われます。実際はこのP波を目測で判断するのは難しいかもしれませんが、たとえば動悸を訴える患者さんの心電図でこの点に注目し、心房細動の診断の材料とすることは可能かもしれません。
by dobashinaika | 2010-04-07 23:08 | 心房細動:リアルワールドデータ | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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