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発作性心房細動の慢性化の予測にはHATCHスコアが有効である。

多くの心房細動患者さんが、初めは年に数回だった発作が、だんだん頻度を増し、ついに慢性化するというストーリーをたどります。ではどんな人が慢性化しやすいのか?それを事前に知っておけば、その因子を是正することで慢性化が防げる可能性があります。多くの発作性心房細動患者を対象に前向きに調べた試験の結果がアメリカの心臓専門誌Journal of American College of Cardiologyの2月23日号(J Am Coll Cardiol 2010 55: 725-731)に掲載されました。

研究の目的)多くの患者を対象に、心房細動の進行を研究し、心房細動の予後(成り行き)を研究する

背景)発作性や持続性心房細動が永続性心房細動に移行するのをよく見る。しかしすべての症例がそのように進行するわけではない。

方法)ヨーロッパの182の病院で研究対象として登録されている心房細動患者5333例のうち、発作性心房細動、あるいは入院中に自然に停止したり、薬物により心房細動が停止したのを初めて認めた患者、計1219人(平均年齢64歳)を対象とした。これらの人を1年間追跡した。

結果)1年間で178人、15%の人が永続性心房細動に移行した。心不全、年齢75歳以上、一過性脳虚血発作または脳梗塞、慢性閉塞性肺疾患、高血圧の5つが、心房細動を永続化させる独立した危険因子であった。これらのうち一過性脳虚血発作または脳梗塞を2点、心不全を2点とし、それ以外を1点とした点数にした場合(この点数をHATCHスコアと名付けた)、5点以上の人は約50%が永続化したのに対し、ゼロの人の移行率は6%であった。永続化した人の入院率や心不全発症率などは高かった。
発作性心房細動の慢性化の予測にはHATCHスコアが有効である。_a0119856_1947271.jpg


結論)かなりの頻度(15%)で発作性の人が永続性に移行した。HATCHスコアは永続化を予測するうえで有用であった。

注;この論文では発作性心房細動とは自然に停止するもの、持続性心房細動は7日以上続き自然には止まらないものと定義されている。

###心房細動は、心房の筋肉がいろいろな理由で線維組織などに変化し、次第に進行します。心房の筋肉を変化させる理由は何でしょうか?ひと口に加齢現象だと片づけがちですが、でも心房細動にならずに一生を終える方のほうが圧倒的に多いのです。その差は一体何でしょうか?その原因は複合的であるということをこの論文では示唆しています。慢性疾患の時代に入り、前世紀のように結核菌→結核といったような一義的な要因で決まる病気は少なくなりました。しかしそれでもなお、どんなことが心房細動の永続化に良くないのかを知りたいと思います。この論文はそうした患者、医師の思いを代弁してくれており、しかもわかりやすい点数まで出してくれています。面白いことに、点数となる項目は心房細動の脳塞栓を予測するCHADS2スコアと、一つしか項目が違いません(HATCHの肺疾患がCHDAS2では糖尿病)。HATCHスコアは今後有用な武器になりそうです。だたCHADS2と違って、何点以上だと治療開始といった指標とは違い、なるべく低くしておいたほうがよいといった意味で受け取るべきでしょう。
 なお、他の多くの研究では年間の慢性化率はもっと低く見積もられているようです。たとえば日本の心房細動研究の第一人者、山下武志先生のデータでは年間5.5%とされています。一つの原因として、本研究では平均年齢が高いことや、薬物による停止を認めた人を含んでいるため、持続性の人が混じっている可能性がある方と思います。

論文のまとめはこちら
by dobashinaika | 2010-02-28 20:06 | 心房細動:リアルワールドデータ


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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