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「愛の不等式」から考える「抗凝固薬はなぜ出されないのか?」

Secondary Versus Primary Stroke Prevention in Atrial Fibrillation:Insights From the Darlington Atrial Fibrillation Registry

目的:プライマリ・ケア外来で,ガイドライン通りの治療を行った心房細動患者において,一次予防と二次予防でアウトカムに差はあるか

方法:Darlingtonコホート(英国,11GP施設,105,000人)

結果:
1)心房細動患者:2259人,2.15%,うち18.9%は二次予防

2)二次予防患者;ガイドライン準拠=56.3%,過剰治療=18.9%,未治療=24.8%

3)一次予防患者:ガイドライン準拠=49.5.%,過剰治療=11.7%,未治療=38.8%

4)年間脳卒中発症率:二次予防8.6%,一次予防1.6%(P<0.001)

5)全死亡:二次予防9.8%,一次予防9.4%(P=0.79)

6)抗凝固薬無治療(ガイドライン非準拠)の脳卒中オッズ比(一次予防):2.95,95%CI1.26-6.90

7)ガイドライン非準拠の脳卒中再発オッズ比(二次予防): 2.80; 95%CI1.25–6.27; P=0.012(過剰治療対照)

8)ガイドライン非準拠の死亡オッズ比(二次予防): 2.75; 95%CI1.33–5.69; P=0.006(過小治療対照)

結論:約半数の人にしかガイドライン通りの抗凝固療法が施行されていない。ガイドライン準拠の抗凝固療法は,一次予防での脳卒中リスクおよび二次予防での脳卒中および死亡リスクを減少される

### 英国のプライマリケアセッティングでは,一次予防で50%,二次予防でさえ56%しかガイドライン通りの抗凝固薬処方が行われていないとのことです。日本の現状も同じようなものと思われます。前回のブログで考えた心房細動の階層構造でのべた「壁」について,より現実的に考えてみます。

あらゆる薬剤の処方,医療行為をするしないの意思決定は,
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という認識が患者医療者間で共有されたときに達成されるものと考えます(私はこれを「愛の不等式」と読んでいます。なんとなく(笑))。

抗凝固薬では,おおむね,A=抗凝固薬の必要性の認識,B=出血への不安,C=ワルファリンの煩雑さ/NOACのコストになろうかと思われます。ここでもっと細かく言うと,(リスク)=(インパクト)x(確率)ですので,A=(脳梗塞に対するインパクト)x(脳梗塞の予防確率),B=(出血のインパクト)x(出血の確率)で表されます。

さて,現段階で抗凝固薬を医療者側が「出さない」状況には,以下の3パターンくらいがあるように思われます。
1)発作性心房細動なので出さない
2)高齢者で出血リスクが懸念されるので出さない
3)ワルファリンは煩雑だが,NOACも高価で意外と面倒くさいので出さない 

1)は最近の英国プライマリケア医の研究でも示されています。

2)は以前のGARFIELD研究や最近のJAMAの研究からも伺えます。

また伏見AFでもここ5年で処方が増えたのはCHADS2スコアの0,1点例が多かったとのことですので,高リスク高齢者には依然として出されていない実態が見て取れます,

3)も多くの臨床医が持つ実感と思われます。ワルファリンはいろいろと面倒くさい。その欠点が克服されていると思ったNOACだったのに,すごく高いし,モニタリングできないし,中和も難しいし,腎機能や併用薬剤も結構考える必要があるし。。。。というところかと思います。

これまでワルファリンに馴染んでこなかった医師ほど,1),2)の思いが強いと思われます。3)はどの層にも共通でしょうか。
(ときにNOACをすごく出す開業医に遭遇してびっくりしたりします。ただ私も含めてまだ主戦力はワルファリンにしている医師も根強くいると思われます)

1)は上記不等式Aの低下,2)はBの増大,3)はCの増大に当りますが,現実にはこのバランスの乱れはそれこそ患者ー医師ごとに様々なバリエーションをとりうるでしょう。

「抗凝固薬が「必要」なのはわかった。でも依然として出血への不安(特に高齢者)は払拭されないし,NOACは何よりコストが高くて思ったより面倒」,そこで,「超高齢者まではいかない中高年層で,ややリスクの低めな人にまずNOACを提案してみて,コストが問題の場合は,慣れていればワルファリン,そうでなければ出さないか紹介」,このあたりが今の,特に非循環器専門医の感触かもしれません。全くの独断ですが。

$$$ ことしの初茄子。早速焼いて朝食に。
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by dobashinaika | 2017-07-12 23:56 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)

NOAC処方1年以内に15%の人が服用中止となる:IJC誌



疑問:どのくらいの頻度でNOACの服用をやめてしまうのか

方法;
・イタリアのコホート
・非弁膜症性心房細動への定期的NOAC処方例
・処方1年の時点で恒久的にNOACをやめてしまう人を調査

結果:
1)1305人:ダビガトラン473人,リバーロキサバン425人,アピキサバン407人

2)201人15.4%の人は処方1年以内に中止

3)中止例の60%以上は半年以内に中止

4)中止理由:ディスペプシア2.9%,出血4.5%

5)ディスペプシアは50%が2ヶ月以内。出血は66%が4ヶ月以降

6)低用量処方が中止の要因:オッズ比1.74

7)中止率:ダビガトラン22.0%,リバーロキサバン14.4%,アピキサバン8.8%

8)出血による中止:ダビガトラン20.2%,リバーロキサバン44.3%,アピキサバン30.6%

9)ディスペプシアあるいは腹痛による中止:ダビガトラン35.6%,リバーロキサバン1.6%,アピキサバン0%

結論:NOACの中止は比較的普通のことで,処方後半年以内に起こりやすい。低用量処方は中止の大きな要因となる。

### NOACの15.4%が服薬1年以内に飲むのをやめるーーー。上記数字を計算すると辞める理由の30%が出血とのことでした。

ダビガトランは消化器症状,リバーロキサバンは出血が理由として多いようです。
各NOAC間で中止率に10ポイント以上の差がついています。この数字のほうが,アウトカム比較での頭蓋内出血の差より大きいですね。
出血があればやはり変更したくなりますし,消化器症状は他にない薬剤に代替可能です。

アドヒアランス「パーシステンス」維持には副作用管理が大切であることを痛感します。

by dobashinaika | 2017-02-07 17:00 | 抗凝固療法:リアルワールド | Comments(0)

抗凝固薬の服薬アドヒアランスに関する総説-なぜ抗凝固薬は飲めないのか:TH誌


Thromb HaemostにNOACのアドヒアランスに関する総説がでています。

Adherence to oral anticoagulant therapy in patients with atrial fibrillation Focus on non-vitamin K antagonist oral anticoagulants
Thromb Haemost 2017 http://dx.doi.org/10.1160/TH16-10-0757

大雑把にまとめます。

<服薬アドヒアランスに影響する因子>
●患者側要因
・特性:年齢,民族,教育レベル,社会経済的ステータス,要介護度
・医療的状況:合併症,障害度,脆弱性,認知症,薬剤忍容性+副作用,ポリファーマシー
・行動要因:社会的孤立,精神疾患
・医学的知識への理解:薬剤服薬及び中止に関連したリスクとべネフィットへの理解

●医師/ヘルスシステム側要因
・知識:ガイドライン遵守度,推奨やリスク対処への気づき
・職場環境:専門施設,ヘルスシステムの構築,医師患者間の良好な関係,多職種アプローチ
・コスト:アクセシィビリテイ(公的,私的サービス),経済的要因

<NOACのアドヒアランス,パーシステンス>
・半減期が短いだけNOACはワルファリンよりアドヒアランス不良は許されない
・英国のGPデータベースでは,ワルファリンのアドヒアランスは1年目で70%,2年目で50%
・NOACの第3相試験では,18〜35%の非継続率。このうち副作用による中止はわずか。リアルワールドより厳格の管理での数値
・NOACのリアルワールドデータでは,38.0〜99.7%と極めて幅広い。80%を良好とする研究が多い
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<NOACのアドヒアランス/パーシステンスに関する考え方>
・一般的には1日2回のほうが,1日1回より血中濃度が良好に継続しやすい
・どのNAOCが最もネットクリニカルベネフットが良いかについては不明
・モデルデータからは,1日2回薬で1〜2錠/日飲まないよりも,1日1回で全然飲まなかったほうが血中濃度減少が大きいい
・臨床上有効な抗凝固モニターがない以上,しっかり飲んだかどうかの確認が重要
・現在,ピーク濃度が出血を規定するとされている。特に1日1回に比べ1日2回ではピークが低い
・このことは安全性を示唆するが,エドキサバンの第2相試験では同用量で1日2回よりも1回のほうが出血が少ないことが示されている

<NOACでのアドヒアランス向上策>
・ワルファリンではINRに基づく管理ができる。70%を概ね良好とする
・SAMe-TT2R2スコア(女性,60歳未満,既往歴,影響薬剤,喫煙,非白人)はアドヒアランス良好の可否を予測する因子
・同スコア2点以上では積極的に患者教育
・定期的なコンタクト,多職種からのアプローチ
・ヘルスプロバイダー間のエビデンス共有のアップデート:各種ソフト,e-サポート
・中心的な抗凝固クリニックにより運営される長期の管理
・患者教育により,抗凝固薬による脳卒中予防の重要性と実際の薬剤服用法の認識の定着 etc.

### 超厳格アドヒアランス管理のRCTでさえ最高で34.4%ものひとが服薬中途で脱落します。なぜこれほど抗凝固薬が飲めないのか。私は背景に抗凝固薬のもつ2つの宿命があると考えます。

1つは「退屈な薬である」ということ。ワルファリンはINRがありました。それとて血圧などに比べてなんとなく実感がわかない,むしろ出血の不安を掻き立てることさえある指標でした。ましてやNOAC。効いているのかどうか,危ないのかどうか全く実感することができません。飲んでいて喜びもヤバさ加減も湧かない薬,それがNOACです。

もう1つは「不条理な薬」であるということです。上記のように効いている実感がわかない上に,更に出血という重い有害事象がつきまとうし,実際皮下出血などはよく経験する。なんと割に合わない,不条理な薬なのでしょうか。

退屈で不条理と来ては70%程度の服薬率も頷けるかもしれません。ワタシ的には定期的に腎機能や貧血,aPTT,PTなどを採血し,飲まないことの脳梗塞リスクの重大性を薬剤師,看護師なども交えて確認,教育。認知症早期評価に傾注と言った当たり前の作戦しか思い浮かびません。

同様の総説は以下です。
http://dobashin.exblog.jp/20382624/

### ワルファリンは永遠に不滅です,なんて書いてワルファリン礼賛者のように感じられたかもしれないので,ワタシの基本的スタンスを確認。

以下のブログで示しているように「時と場合により使い分ける」です。大切なことはワルファリンかNOACかの2項対立ではなく,各薬剤の長所欠点を熟知して使うということです。殺鼠剤だったワルファリンだって時と場合によってはこれしかない場合もある。自分がAFのときだって時にはワルファリンのほうがいいこともあればNOACのほうがいい状況になることもある。こっちのほう絶対推し,だけはしないようにしたいということです。それこそがscientificな態度だと思うわけです。
http://dobashin.exblog.jp/21745479/

$$$ 昨日観ました。「真田丸」「シン・ゴジラ」とお気に入り豊作だったことしの白眉とも言うべき。非日常とは日常にこそ潜む,そして日常は非日常の下で連綿と息づく,そう感じます。
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by dobashinaika | 2016-12-05 23:52 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)

ケアネット連載「服薬アドヒアランスをよくするための実践と考察」アップされました。

ケアネット連載 〜Dr. 小田倉の心房細動な日々~ダイジェスト版~更新いたしました。

今回は「第51回 服薬アドヒアランスをよくするための実践と考察」です。

当院における抗凝固薬の服薬アドヒアランスの現状を紹介し,向上のための対策を考えます。
http://www.carenet.com/series/afjournal/cg001089_0051.html
(要無料登録)

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by dobashinaika | 2016-02-19 21:52 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)

リバーロキサバン,ダビガトラン,ワルファリンの服薬アドヒアランス比較;EP誌

Real-world persistence and adherence to oral anticoagulation for stroke risk reduction in patients with atrial fibrillation
Europace DOI: http://dx.doi.org/10.1093/europace/euv421 euv421 First published online: 31 January 2016

疑問:DOACとワルファリンのパーシスタンスとアドヒアランスはどうか?

方法:
・ドイツのプライマリ・ケア施設,7265例
・抗凝固薬の新規投与例,心房細動,ダビガトラン,リバーロキサバン,VKA
・少なくとも180日追跡,処方後360日まで

結果:
1)パーシスタンス(180日後):リバーロキサバン66.0%(対VKA=P,0.001, 対ダビガトランP=0.008),ダビガトラン60.3%,VKA58.1%

2)パーシスタンス(360日後):リバーロキサバン53.1%,ダビガトラン47.3%,VKA25.5% (NOAC vs.VKA, P<0.001

3)パーシスタンス(360日以降):リバーロキサバンのほうがダビガトランより良好 (P=0.026)

4)男性,糖尿病ありは,パーシスタンスを高める

5)腎機能低下,抗血小板薬は低める

6)高アドヒアランス (MPR80以上);リバーロキサバン使用例の61.4%,ダビガトランの49.5%

7)平均MPR: リバーロキサバン0.76 (0.74^0.78),ダビガトラン0.67 (0.65-0.69)

結論:リバーロキサバン,ダビガトランはVKAよりも処方後360日のパーシスタンス良好。リバーロキサバンはダビガトランよりパーシスタンス,アドヒアランス良好。何が影響するのかに関してはさらなる研究必要

### NOACのほうがワルファリンより薬剤の継続率が良いことはすでにいくつかの報告があります。
自己中止率 http://dobashin.exblog.jp/22299043/
NOAC vs.VKA http://dobashin.exblog.jp/21536136/

ちなみにパーシスタンスは薬の導入から中止までの時間を指し,ずっと継続している時間の割合を示すとされています。

リバーロキサバンで高い継続率とのことですが,それでも1年で53%ですね。やはりアドヒアランス問題はなかなかに難しいという感じです。

そうこうしているうちにBMJに「リバーロキサバン:エビデンスは信用できるか?」というBMJらしい問題提起がありました。
http://www.bmj.com/content/352/bmj.i575

あとでゆっくり読みます。
by dobashinaika | 2016-02-04 22:22 | 抗凝固療法:リアルワールド | Comments(0)

抗凝固薬の自主中止率は47%でDOACのほうがワルファリンよりやや良い(米国の観察研究):AJMC誌

Oral Anticoagulant Discontinuation in Patients With Nonvalvular Atrial FibrillationAm J Manag Care. 2016;22(1):e1-e8

疑問;抗凝固薬服用の中止理由はなにか?

研究デザイン:後ろ向きコホート

方法:
・the MarketScan claims database(2009〜2012年)
・心房細動に対する新規の抗凝固薬処方から6ヶ月処方継続例
・服薬中止(自己中止あるいは医師による中止)に関わる因子を分析

結果:
1)12129人:ワルファリン67.1%,DOAC32.9%

2)中止率47.3%(追跡期間平均416.6日)。平均中止期間120日

3)DAOC中止率vs. ワルファリン中止率:ハザード比0.91(0.86-0.97)

4)65歳以上高齢者(対18〜34歳):ハザード比0.32(0.24-0.43)

5)糖尿病:ハザード比0.84(0.77-0.90)

6)脳卒中/TIAの既往:ハザード比0.65(0.56-0.75)

7)肺塞栓の既往:ハザード比0.71(0.58-0.88)

8)心不全:ハザード比0.80(0.74-0.87)

9)大出血既往ありの患者は中止率高い:ハザード比1.20(1.08-1.34)

結論:非弁膜症性心房細動例の抗凝固薬中止率は高い。DOACはワルファリンに比べて中止率が低い。複合合併症のある患者は中止率低い。出血の既往例は中止率高い。


### 中止の定義は,最後の処方から60日以内に処方の希望(受診)がなかった場合としています。他の抗凝固薬に切り替える例は含まれていません。DOACはダビガトランとリバーロキサバンで,アピキサバン以降は時間的に含まれていません。

米国なので処方期間も長めとは思いますが,それにしても中止率47%というのは,非常に多いように思われます。DOACの中止率もワルファリンよりやや良いとはいえ,劇的に改善されてはいないように思います。

日本(少なくとも当院)ではここまでやめてしまう人はいないと思いますが,やっぱりDOACの使い分け云々を考える前に,いかに中止しないようにするかのほうが優先順位は高そうです。

$$$ 先日の雪の日に庭に迷い込んだネコ。ただし足跡のみ
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by dobashinaika | 2016-01-27 22:20 | 抗凝固療法:リアルワールド | Comments(0)

服薬アドヒアランスを良くするための実践と考察

Self-reported adherence to anticoagulation and its determinants using the Morisky medication adherence scale
Lana A. Castellucci et al
Thorombosis Research 2015; 136: 727-731


疑問:DOACの服薬アドヒアランスはどうか?

方法:
・抗凝固薬服用患者に4つの質問からなるMorisky scoreを測定
・4つの質問
1.あなたはこれまで薬を飲み忘れたことがありますか?
2.あなたはうっかり薬を飲む時を忘れることがありますか?
3.あなたは具合が良い時に薬を休んでしまうことがありますか?
4.薬を飲んでいて具合がわるい時,飲むのをやめますか?


結果:
1)500人:VKA74%,DOAC26%(リバーロキサバン79%,ダビガトラン26%,アピキサバン2%)

2)深部静脈血栓症72%,心房細動18%

3)適切なアドヒアランス(Morisky score0点):VKA56.2% ,DOAC57.1%

4)アドヒアランスの予測因子
・年齢(オッズ比1.02)
・女性(1.58)
・追加投薬(2.78)
・退職後(2.31)

結論:自己申告によるアドヒアランスはVKAとDOACで同等。DOACのアドヒアランス評価に検査測定が広く利用できるまでは,医師はアドヒアランスの重要性を患者に遭うたびに強調すべきである。Morisky scoreが抗凝固薬アドヒアランスの簡単な評価法である。

### 上記4質問全部「いいえ」ならば適切なアドヒアランスと評価するわけですが,質問1からして「いいえ」と答える人は実はほとんどいないのではないかという気もします。

当院で今年前半の3ヶ月間,1回でも自己判断で服薬を中断したひとを患者自己申告で調べたところ,13〜24%でした。この数字実は少なすぎると思っています。薬の服薬手帳による申告ですが,医師に直接答える形なのでややバイアスが入ると思います。
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それは置いておいて,飲み忘れる理由を患者さんに聞いてみると以下のようでした。
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1)出血へのおそれ
2)受診の遅れ
3)うっかり忘れる
4)認知症
5)コスト
6)飲みにくさ
7)その他(薬が嫌いなど)

複数回答のひともいました。
服薬アドヒアランスを考えるときのキーワード。それはズバリ,飲まない理由は多種多様であるということです。
しかしそれで片付けては対策が立てられませんので,服薬の意義を理解しているかという点で切ってみます。

上記理由1)「出血のおそれ」が強いひとは「飲む意義理解◯(または△),でも副作用がそれ以上に怖い」と言えます。同様に考えると
2)「受診の遅れ」は「意義理解◯または△または☓,でも1,2回の休薬の危険性理解☓」
3)「うっかり」は「意義理解◯または△または☓」
4)「認知症」は「意義理解☓」

アドヒアランス向上への道は「抗凝固薬には脳塞栓予防という大目的があるのだから,そのゴールを理解してもらうことが一番」と拙著にも書いたのですが,じつはそれは大事なのですが,患者さんことにゴールの理解に至るのには,個別でより多様なアプローチが必要なのだろうと最近思います。出血が怖い人には,塞栓予防というゴールを強調しても目に見える出血という恐怖はなかなか払拭できません。この理由を克服するのは困難で,リスク認知のギャップに対するアプローチが必要です。長く粘り強い道のりです(解決できないかもしれません)。「受診の遅れ」「うっかり」の人の意義理解は様々です。十分理解していても2〜3回のまないくらいは良いと考えている人もいれば,医師のいうまま飲んでいて全く意義は理解していないひともいます。

「うっかり」で意義理解◯の人には薬のセットケースや薬袋の色分け,服薬薬剤の減量などの「ツール利便化」が有効と思われます。「認知症」の人には,意義理解よりもまず認知症の評価,そして一方化するなどのツール利便化,あるいは服薬管理者の明確化が必要です。

心臓血管研究所の山下先生が以前おっしゃっていたように,アドヒアランスと薬の理解度(自分がわかっていると思う度合い),あるいは説明時間とは比例しない,むしろ情報過多で患者さんはアップアップしている。服薬開始時の説明の時,誰にでも一律に心房細動のメカニズムのいろはから話し込んでも,医師が満足するだけで患者さんの理解は得られないものと思われます。

患者さんごとに飲まない理由をよく聞く。飲まない(飲めない)事情を把握する。その理由,事情に応じて意義理解が必要なのか,出血に対する説明が必要なのか,単なるツールの利便化だけでよいのか,の対応をきめ細かく行う。服薬に対する解釈モデルの把握ですね。なかなか難しそうです。

当院では,当初服薬開始時1時間近くの講義のようなことをしていたのですが,最近はすっかりやめました。その代わり最初の説明は最小限にして,毎回,医師が診察する前に看護師に服薬状況や出血,退院からの新処方など6項目を聞いてもらうようにしています。それでも難しいひとには薬剤師からも個別アプローチをするようにしています。このように,いろいろな職種から飲み忘れの重大さをことあるごとに伝えてもらうことで当初より飲み忘れは減ってきています。

まとめます。服薬アドヒアランス向上には
1)患者さんが薬を飲まない(飲めない)理由,事情は多種多様である事を理解する
2)その理由,事情(いわば”ニーズ”)を患者さんごとに把握する
3)一律総括的でなく,その患者さんの”ニーズ”に応じた服薬説明をする
3)医師だけでなく多職種で飲み忘れの重大さを伝える
4)受診ごとに細く長く行う。

最後に,面白い論文を見つけました。
Effect of Financial Incentives to Physicians, Patients, or Both on Lipid Levels
A Randomized Clinical Trial
JAMA. 2015;314(18):1926-1935. doi:10.1001/jama.2015.14850.


脂質異常症の患者さんに薬剤のボトルを開封するとくじ引きができで当たると100ドルもらえる,医師は患者さんのコレステロール値が一定以下に下がれば256ドルもらえる。そうした金銭によるインセンティブを付加したところで,LDLコレステロールは医者患者両者介入群でのみ8.5mg/dl低下したに過ぎなかったとのことです。

やっぱりアドヒアランス向上は,お金でもダメ,地道な努力が必要ということです。

$$$ 午前6時半。そろそろ散歩時朝焼けがまぶしい季節です。
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by dobashinaika | 2015-12-08 22:36 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)

日本心臓病学会で実地医家向けにStructured follow-upなどにつき講演しました

本日は横浜で行われた第63回日本心臓病学会で教育講演をさせていただきました。
日曜の早朝にもかかわらず,多くの方々にお集まりいただき感謝申し上げます。

横山内科循環器科医院の横山広行先生からご指名をいただき,実地医家からアカデミアに情報発信できるような内容をとのことでしたが,まだまだそこまでのインパクトはありませんが,最近当院で抗凝固薬の服薬アドヒアランス向上のために多職種かかわりあう,いわゆるstructured follow-upについて,当院で取り組んでいることを,ざっと触れさせていただきました。

以前にも書きましたように,特に高齢者においては

1)高齢者総合評価(CGA),特に認知機能と転倒リスクを把握:おもに看護師

2)患者教育(パンフなどを使用):医師

3)説明を聞いたあとの抗凝固薬に対する患者さんの解釈モデル(特に不安)についてよく聞く;主に看護師

4)毎回の外来でチェックシートを用いて以下の6項目を聴く:看護師
  1.飲み忘れはないか
  2.出血はないか
  3.手足の麻痺,しびれ,ろれつの周りにくさはないか
  4.消化器症状などはないか
  5.他院で抜歯,内視鏡,手術はないか
  6.他院から新しい薬が出ていないか

5)問題症例に関するカンファランス:全職種

という手順で,多職種で手厚く見守ることが患者ー医療者の良好な関係の構築を成立させ,ひいては服薬アドヒアランスの向上に至ると考えています。

まだ手探りの状態ですが,患者,ご家族,医療スタッフ,医師の全てに良い効果をもたらせるよう試行錯誤していきたいと思います。
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by dobashinaika | 2015-09-20 23:40 | 循環器疾患その他 | Comments(0)

抗凝固療法のADCAサイクル,特にアドヒアランスについて講演

$$$ 先週末は名古屋で講演をさせていただく機会を得ました。名古屋大学からのご依頼で大変光栄だった上に,当日は土曜の遅い時間にもかかわらずプライマリーケアの先生を中心に80名以上もご参加いただき,また懇親会での質問もたくさんあって,嬉しい限りでした。

抗凝固療法のPDCAならぬADCAサイクル(Assessment, Decision making, Check, Act),とくに抗凝固薬のアドヒアランスについて,当院での多職種による構造的な取り組みについて話をいたしました。アドヒアランス向上には医師は全面に出ないほうがいいんですね。看護師,薬剤師,ご家族などが主役になります。そうして患者さんを中心に皆で「飲む空気」を盛り上げていくことが重要で,そうすることでアドヒアランスのアウトカムが向上したという自施設データを出させていただきました。論文になりましたら,後日ご紹介します。

名古屋は大きな街でした。とんぼ返りで,ゆっくりできなかったのが心残りでした。
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by dobashinaika | 2015-09-09 23:02 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)

抗凝固薬の継続率はNOACのほうがワルファリンより良好:T/H誌

Therapy persistence in newly diagnosed non-valvular atrial fibrillation treated with warfarin or NOAC
C. Martinez et al
Thrombosis and Haemostasis http://dx.doi.org/10.1160/TH15-04-0350


目的;新規発症心房細動例の抗凝固薬開始1年後のNOACとVKAのパーシスタンス(忍容性)を評価

方法:
・抗凝固薬ナイーブの新規発症非弁膜症性心房細動27514例(オーストラリア)
・平均74.2歳、平均追跡期間1.9年
・2011年1月〜2014年5月に登録。2015年1月まで追跡

結果:
1)発症90日以内の抗凝固薬開始:全体の48.1%

2)VKA12307人、NOAC914人(リバーロキサバン、ダビガトラン、アピキサバン)

3)NOAC処方率:0%(2011年1月)→27.0%(2014年1月)

4)CHA2DS-VAScスコア2点以上の抗凝固薬処方率:41.2%→65.5%

5)処方12ヶ月後の継続率:VKA63.6% vs. NOAC79.2%; p<0.0001

6)CHA2DS-VAScスコア2点以上の人の12ヶ月継続率:VKA65.3% vs. NOAC83.0%; p<0.0001

7)各CHA2DS-VAScスコア別でこの傾向は変わらず

結論:NOACの処方継続率はVKAに比べて明らかに高い。この事のみで心原性脳梗塞を減らすことが可能。NOAC推奨のガイドライン順守が心原性脳梗塞を減少させる

### 平均年齢は74歳。平均CHADS2スコアは両群とも1.9点、CHA2DS-VAScスコアは2.8点です。NOACの内訳はダビガトラン347例、リバーロキサバン454例(アピキサバンは記載がないが引き算すると113例)で、継続率はダビガトラン73.1%に対し、リバーロキサバンは83.7%と良好でした。

当院のデータはといいますと、2011年3月から2015年4月までに新規投与したNOAC症例の継続率は、ダビトラン66%、リバーロキサバン77%、アピキサバン91%でした。ただしダビガトランは、発売当初他のNOACがないところで投与していることもあり、現在から振り返ってみれば適応が甘いと思われます。またアピキサバンは症例数が少なく追跡期間も短いため継続率がいまのところ良好にみえると考えてください。

一方当院のワルファリンの新規投与例での継続率はまだ算出しておりませんが、TTRが良好なため(概ね70%以上)ワルファリンからNOACに切り替えずにずっと投与している症例の継続率は86%とかなり良好でした。

思うに、ワルファリンにずっと慣れていてTTRも良好なひとは、アドヒアランスもかなり良い。その理由としてはワルファリンは非常に特殊な薬ですが、そのことがかえって患者さんに飲み忘れてはいけない、特別は薬であるという印象を強く与えるのではないかと思われます。また3.5錠などと多数の錠数を飲むことは、NOACのように1つぶだけ飲むというような軽い感じとは違うわけで、そのことも飲み忘れが少なくなる原因かと思います。

またNOACはワルファリンにくらべて皮下出血が多く、一部消化管出血も結構見られることで変更を余儀なくされることも少なくありません。

一方新規導入の場合は、ワルファリンは食事、採血、併用薬剤など何かと面倒なアイテム満載ですので、そこで挫折する人は多いものと思われます。

旦起動に乗ってしまったら、ワルファリンも非常にアドヒアランスは良好。ただし新規導入ではやはりNOACのほうがやや優れる。さらにただしたとえアドヒアランスが良好なNOACといえども、ワルファリンに戻る症例も少なくない(出血やコストの点で)。いまのところこんなふうに考えています。

$$$ 夏の朝もやの中 、佇む今日のニャンコ
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ここです。
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by dobashinaika | 2015-08-10 22:00 | 抗凝固療法:リアルワールド | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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