科学的実在論、反実在論、社会構成主義

「科学哲学の冒険」(戸田山和久、NHKブックス)は、ここ数週間の、寝床の友であり、昨日夜中またついつい読んでしまった。いつもなるほどと思うのは科学的実在論と社会構成主義との間には、実は様々なphaseがあって、様々な立場が存在するということ。そして世界の存在と秩序を認める独立性テーゼとそれらを科学によって知りうることを認める知識テーゼとが存在するということも、暗きを啓かれる思いである。最近まで一番親和性を覚えるのが、独立性テーゼは認めるが知識テーゼを否定する反実在論の立場である。どちらも認めないとする社会構成主義とは一線を画する。高血圧、脂質異常症からメタボ、CKDに至るまで生活習慣病の類は、反実在論の立場に立つと理解しやすいなあと思う。たしかに病気において何らかのリスクは存在しますけど、それらは我々の取り決め方次第でどうにでも変化します、との見解はその通りだろう。その取り決め方の最右翼としてEBMが喧伝されていると解釈できるかもしれない。
他方社会構成主義の第一人者ガーゲンは「あなたの社会構成主義」(ナカニシヤ出版)で社会構成主義でも多種多様な立場があることを教えてくれる。
こうした立場の差異の議論は専門家に譲るとして、我々医療者はたとえば、「基準からすると高血圧ですよ」と患者さんに言った瞬間から疾患が構成されるのだ、ということを十分考えで行動する必要があろう。その取り決め方は科学者コミュニティの産物であり将来どうとでも変わりうる。にもかかわらず血圧が160/90なのに全然塩分制限をしない人に出会った時など、思わずこの基本的なことを忘れてパターナリズムを発動してしまう。なかなか実在論者の体質からはそうやすやすと抜け出せないのである。それはなぜか?
いうまでもなく、疾患を診断するにつけ、治療方法を決定するにつけ医療者の現場では実在論的立場を取らないと困る場面が多々あるからである。医療現場では実在論者から社会構成主義者までのさまざまな顔を持つことを迫られる。ああ、医療者とは、なんと無理難題の多い仕事であろうか。

# by dobashinaika | 2009-04-06 00:59 | EBM | Comments(0)

仙台市立病院研修医オリエンテーション「EBMによる診断」

本日午後、久しぶりに古巣の仙台市立病院に行き、研修医オリエンテーションの講義をしてまいりました。仙台市立病院では毎年10数人の医師になりたての研修医を採用しますが、初めの1週間は病院や医療保険の仕組みなどの講義に当てられます。私は開業後も「EBMについて」という講義を任され、今年で6回目になります。
講義はこんな感じです。

小田倉(以下O):「43歳男性、3時間前まで胸が痛かったという人が外来を受診しました。この情報だけで狭心症である確率は何%くらいだと思いますか?」
→研修医の先生に何%くらいか紙に書いてもらい、答えてもらう。10~60%と幅広い答えが得られる。
O:「では、問診をして胸の骨の後ろが押されるように痛い、坂を上ると痛い、休むと5分で落ち着く、という情報を得ました。さて狭心症である確率は何%になるでしょうか?」
→この時点でだいたい皆60~80%で一致してくる。
O:「もしこの確率が50%くらいだと考えた場合、次にどんな検査をしますか?また80%と考えた場合はどんな検査をしますか?」
→運動負荷試験、心電図、心臓カテーテル検査など様々な意見が出される。

実際は例えば「胸の骨の後ろあたりが、坂を上ると痛くなる」40代男性の場合、狭心症である確率は何%かという問いには、おおまかにデータベースが存在し、40~50%くらいであることがわかっています。こうしたデータをエビデンスと呼び、これを踏まえて患者さんの検査が計画されるべきです。確率が80%くらいならすぐに確定診断のためにカテーテル検査を考えるべきです。50%くらいであればもう少し診断を絞り込むために、運動負荷心電図など痛くない検査(非侵襲的検査)を計画し、カテーテル検査はその後に考えます。

医師は、このようなエビデンスに基づく診断を行うべきであり、このように順序立てて考えることで、無駄な検査や性急なカテーテル検査を少なくできる、ということを医師になりたての先生たちに伝えてきたつもりです(しかっリ伝わったかどうかは不安ですが、、、)。

今回講義を受けた新人の医師たちは大変熱心に話を聞いてくれ、また以前と違い医学部でしっかり教育されているためか上記のようなEBMの知識も、すでにしっかり身に付いているようで、大変頼もa0119856_23142311.jpgしく思いました。
# by dobashinaika | 2009-04-02 23:15 | EBM

病診連携 ―C型肝炎学術講演会に参加して―

先週の土曜日(3月28日)は、仙台厚生病院の学術講演会に出席しました。今回は肝臓病の権威である武蔵野赤十字病院の泉並木先生によるC型肝炎の治療に関する講演会です。肝臓がんは今や男性では肺がん、胃がんに次いでがん死因の第3位であり。先進国ではトップです。そのなかでもC型肝炎ウイルスによる肝炎が原因であることが多く、C型肝炎を早い段階から見つけて治療することが先決です。C型肝炎にはインターフェロンという有効な治療法があり、最近は短期間で副作用のないものが使われるようになっています。仙台厚生病院の消化器内科では積極的にこの治療に取り組んでおられ、一段落した患者さんのインターフェロン治療をわれわれ開業医の手でもおこなえるようにとのことで、このような勉強会を開催しているとのことです。

このように、病気の初めに大きな病院で治療し、その後の落ち着いた時期を開業医で担当することを病診(病院―診療所)連携と呼び、昨今その重要性が盛んに強調されるようになりました。われわれ開業医は早めに病気を見つけ、専門的な医療が必要な場合は大きな病院に紹介する。これも一つの病診連携です。

病診連携で大切なことは、ひとえに開業医の力量です。病気を早めに発見する力、適切な時期に紹介できる力、ある程度専門的な治療を任せてもらえる力。一つの臓器ばかりでなく、全身のいろいろな病気でこのような力が問われることになります。
最先端の治療技術は、瞬く間に進みますので、大きな病院からその後のフォローアップをまかせていただくには、日々の勉強が必要になります。大変です(笑)。

今後、ますますこのような病診連携が進むようになり、開業医がますます増加していくと、大きな病院から選ばれる開業医とそうでない開業医とに色分けされる時代がやってくると思われます。
土曜日はそうした危機感をひしひしと感じると同時に、逆にやりがいも見いだせるのではとも思いながら帰途につきました。
# by dobashinaika | 2009-03-31 23:47 | 開業医生活

医院からのお知らせ

●仙台市基礎検診およびがん検診の申し込みは4月1日から4月28日までです。ご希望の方は市政だよりのはがきに必要事項ご記入のうえ、ポストに投函してください。
なお、40歳から74歳までの仙台市国民健康保険の方は、基礎検診の申し込みは必要ありません。7月末頃、受診券が送られてくる予定です。

●土橋だより2009年4月号を今週から受診された方に配布中です。

●患者さんに説明した内容を記入した「せつめいシート」作成いたしました。説明の際使用していく予定です。
# by dobashinaika | 2009-03-30 22:55 | インフォメーション

患者さん用説明シート

a0119856_22395975.jpg外来では、ときに患者さんに病気の内容や食事、生活上の注意を紙に書きながら説明します。これまではそこらへんにあるレポート用紙やメモ用紙に乱雑に(?)書いていましたが、それだとかえってからぞんざいに扱われてしまうのではないかと、かねがね心を痛めておりました。
この土日、久しぶりに時間があったので、土橋内科特製の患者さん説明用シート、その名も「せつめいシート」(そのまんまですね)を作成し、今日から使っています。
これまで、検査結果や薬の内容は「私のカルテ」にA5判の紙を使って書いていましたが、病気や生活指導の内容はそれでは収まりきれません。このため「せつめいシート」はA4判の紙を使っています。
今後、皆さんの声を取り入れながらより良いものにしていきたいと考えています。
# by dobashinaika | 2009-03-30 22:42 | 土橋内科医院


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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