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「リアルワールド」におけるダビガトランとワルファリンの心筋梗塞イベント比較:AJM誌

The American Journal of Medicine 4月号より

Myocardial Ischemic Events in ‘Real World’ Patients with Atrial Fibrillation Treated with Dabigatran or Warfarin
http://dx.doi.org/10.1016/j.amjmed.2013.12.005


【疑問】心筋梗塞予防の点で、ダビガトランのVKAに比べての実力はどうなのか?

P:デンマークの国民的登録研究登録心房細動患者

E:VKAナイーブのダビガトラン内服例/VKA経験者のダビガトランへのスイッチ

C:ワルファリン

O:心筋梗塞。追跡期間平均16.0ヶ月

【結果】
1)VAKナイーブダビガトラン服用群は、ワルファリン群に比べて心筋梗塞を統計的に明らかでないが低下させる傾向。
110㎎:HR0.71(0.47~1.07)。150㎎:HR0.94 (0.62~1.41)

2)VAK経験ダビガトラン服用群は、ワルファリン群に比べて心筋梗塞を統計的に明らかでないが増加させる傾向。
110㎎:HR0.45(0.98~2.15)。150㎎:HR0.30 (0.84~2.01)

3)VKA経験者ダビガトラン服用群の心筋梗塞増加は投与60日未満初期で明らか
110mg:HR3.01(1.48-6.10)。150mg:HR2.97 (1.31-6.73)

4)同様結果は複合エンドポイント(心筋梗塞、不安定狭心症、心停止)でも見られた

【結論】
大規模コホート試験では、ワルファリン服用者がダビガトランへのスイッチする初期に、ワルファリン継続者に比べ心筋梗塞が多くなることが認められた。VKA服用者がダビガトランにスイッチする場合は特に注意喚起がなされるべきである。

### 以前BMJ openで同様のことが報告されており、おそらく同じコホートと思われます。
http://dobashin.exblog.jp/17767149/

通常ワーファリンナイーブ者は抗凝固療法に慣れておらず、出血予防の知識もないため出血イベントが多いことが知られています。心筋梗塞においても抗凝固療法への意識やスキルが豊富な分イベントは少ないことが考えられます。

ところがリアル・ワールドは逆のようです。上記のBMJの考察にもあるように、リアルワールドではスイッチする患者はもともとワルファリンのアドヒアランスが悪かったり、高リスクである方が多いことが予想されます。またスイッチングの初期に多いことからオーバーラップの仕方が不十分だったりした可能性もあると思われます。

また、ダビガトランそのものが持つ冠動脈血栓に対しての弱い面があるのかもしれません。
その辺のことは以下のブログでまとめてあります。
http://dobashin.exblog.jp/18709455/

一方、同じデンマークでも以下のコホートでは心筋梗塞は減っています。
http://dobashin.exblog.jp/17599884/

観察研究は交絡因子がどうしても介在し、患者背景がそれぞれ異なってしまうため、結果がまちまちに出るものと思われますが、スイッチング時要注意ということは、気にしたほうが良いと思われます。
by dobashinaika | 2014-03-31 19:47 | 抗凝固療法:ダビガトラン | Comments(0)

米国(AHA/ACC/HRS)の2014年版心房細動患者管理ガイドライン:JACC誌

AHA/ACC/HRSの心房細動患者管理ガイドラインが改訂され、サマリーが発表になっています。
簡単に目に付いた点をまとめます。

2014 AHA/ACC/HRS Guideline for the Management of Patients With Atrial Fibrillation: Executive SummaryA Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society
J Am Coll Cardiol. 2014;():. doi:10.1016/j.jacc.2014.03.021


【序文】
・推奨度をリスクとベネフィットのバランスで決定した
・推奨度IIIを「利益なし」と「害あり」に分けた
・ベネフィット>リスクを3分(日本で有効性がそれほど確立されてないとされるIIbはここでは考慮してもよいになっているのに注意)
  クラスI:ベネフィット>>>リスク:「すべきである=should」
  クラスIIa:ベネフィット>>リスク:「合理的である=it is reasovable」
  クラスIIb:ベネフィット≧リスク:「考慮してもよい=may be considered」
・エビデンスレベルは複数のRCTかメタ解析があればA、単一のRCTまたはRCTなしで限られた対象の場合はB、非常に限られた対象の場合でコンセンサスのみの場合Cとなっています。

【リスクに基づく抗凝固療法】(全部)

<クラスI>
1.心房細動患者においては、抗凝固療法は脳卒中と出血の絶対及び相対リスク、患者の価値、好みを協議した上でshared decision makingに基づいて個別化されるべきである。(レベルC)

2.発作性、持続性、永続性に関わらない(C)

3.CHA2DS2-VAScスコアをリスク評価に推奨(B)

4.人工弁はワルファリン。INRを2.0〜3.0または2.5〜3.5目標(B)

5.脳卒中/TIAの既往もしくはCHA2DS2-VAScスコア2点以上は抗凝固療法。以下を含む:ワルファリン(A)、ダビガトラン(B)、リバーロキサバン(B)、アピキサバン(B)

6.ワルファリン服用者は、INRを導入時は少なくとも週単位、安定期は月単位で測定すべき(A)
7.INRが治療域を保てない非弁膜症性心房細動患者ではダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン(A)

8.抗凝固薬の必要性と選択のための脳卒中、出血リスク周期的な再評価(C)

9.人工弁患者におけるワルファリン中断時の未分画ヘパリン、低分子ヘパリン投与。リスクベネフィットバランスを考慮の上(C)

10. 非人工弁患者におけるワルファリンやNOAC中断時のブリッジング治療はリスクベネフットバランスと中断期間を考慮(C)

11.トロンビン阻害薬、FXa阻害薬導入前は腎機能をチェックし、臨床上必要なときおよび少なくとも年1回は再評価(B)

12.心房粗動患者は心房細動患者と同様のリスクプロファイルによる治療を推奨(C)

<クラスIIa>
1.非弁膜症性心房細動でCHA2DS2-VAScスコア0点に対しては、抗凝固薬をしない(B)

2.非弁膜症性心房細動でCHA2DS2-VAScスコア2点以上の終末期CKD (CrCl<15または透析中)はワルファリン(B)

<クラスIIb>
1.非弁膜症性心房細動でCHA2DS2-VAScスコア1点に対しては、抗凝固療法なし、または抗凝固療法、またはアスピリン考慮(C)

2.中等度〜高度CKDでCHA2DS2-VAScスコア2点以上の場合、トロンビン阻害薬またはFXa阻害薬の原料を考える。しかし安全性有効性は確立していない(C)

3.PCI施行心房細動患者において、ベアメタルステントは抗血小板薬2剤併用期間を最小限にするために考慮したほうがよい。末梢動脈穿刺部の出血リスク軽減のため、手技時の抗凝固療法は中断したほうが良い

4.冠動脈血行再建後の心房細動患者でCHA2DS2-VAScスコア2点以上ではアスピリン無しで、クロピドグレル75mg1日1回の使用は合理的かもしれない

<クラスIII:利益なし>
1.ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンは末期CKDや透析患者には、エビデンス欠如のため、勧められない

<クラスIII;害あり>
1.ダビガトランは機械弁に使用すべきではない

【レートコントロール】
<クラスIIa>
1.症候性心房細動において安静時心拍数80未満は合理的(B)

<クラスIIb>
1.無症候及び左室機能保持者においては、安静時心拍数110未満のゆるやかなコントロールは合理的(C)

【肥大型心筋症】
<クラスI>
1.CHA2DS2-VAScスコアにかかわらず抗凝固療法の適応(B)

### これまでと変わってCHA2DS2-VAScスコアがついに採用されています。
アメリカらしく非常にクリアカットですが、CHA2DS2-VAScスコア1点は「抗凝固療法なし」もIIbにしているのがやや驚きです。
これだと「68歳女性」は推奨度Iで「68歳男性」は抗凝固療法なしでもいいということになるように思いますが。

ただ、CHA2DS2-VAScスコアのスコア一つ一つについて突っ込むとキリがない。たとえばきわめて軽度の高血圧を含めて良いのか、食事療法だけでコントロール良好な糖尿病はどうするのか。そう考えると、とりあえずCHA2DS2-VAScスコアの点数ごとの脳卒中中発症率がわかっていてCHA2DS2-VAScスコア1点は1.3%で、CHADS2スコア0点よりも低いので、女性は外すとかしないでバスク1点はそれほど推奨しないよ、ということなのかもしれません(単なる憶測ですが)。

他に日本のガイドラインとの違いは大きいのものとして、NOACごとに区別していない。エドキサバンは入っていない、ということでしょうか。

またレートコントロールでは、まだ80未満(症状のある人)を推奨しているようです。
抗血小板薬併用でクロピドグレル1剤を勧めているのも目を引きました。

また、ワルファリンのエビデンスレベルをA、NOACはBとなっています。ここも日本と違っています(日本はダビガトランのみB)

個人的にはクラスIの最初に「患者の価値観、好みを協議した後のshared dicision making」という理念が宣言されていることを高く評価したいと思います。
by dobashinaika | 2014-03-30 23:51 | 抗凝固療法:ガイドライン | Comments(0)

日経メディカルオンライン私の処方:若年者に見られる夜間の心房細動への対処

日経メディカルオンラインの「私の処方」のコーナーで、若年者に多い迷走神経依存型心房細動に対する私の処方を紹介しています。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201403/535556.html

夜間から早朝にかけてよく発作が起こる心房細動は、若年者〜中年者で比較的よく見られますが、基本的には発作性心房細動ですので、I群抗不整脈薬、特にフレカナイド、ピルシカイニド、プロパフェノンなどのIcも大変有効と思います。

ただ、私、抗不整脈薬には少々こだわりがあって、とくにジソピラミドにはもう研修医の時から深くこの薬には関わっており、愛着も多いのです。

この薬にはさんざん痛い目にも会わされてきましたが、助けられても来ました。抗コリン作用がかなり強いので、個人的には夜間型の心房細動に好んで使います。エビデンスもまああるにはあるし、I群薬については機序にこだわりを持って使いたいと思っておりますので。

β遮断薬の少量併用は全然セオリーではないかもしれませんが、ジソピラミドで頻脈傾向になるのを抑え、また発作自体にも効いているような印象を持つ症例が時に見られます。

自律神経が心房細動に及ぼす影響は一筋縄ではいかないひとつの証だと思っていますが、広くおすすめできるかと言われるとやや心もとないのですが。
by dobashinaika | 2014-03-27 23:44 | 心房細動:ダウンストリーム治療 | Comments(0)

リバーロキサバン服用者の大出血後のアウトカムはワルファリン出血と同等;EHJ誌

EHJ 3月21日オンライン板により

Management of major bleeding events in patients treated with rivaroxaban vs. warfarin: results from the ROCKET AF trialdoi:10.1093/eurheartj/ehu083

【疑問】Xa阻害薬による大出血時の管理はどうすればよいのか?

【方法】
・ROCKET-AF登録患者対象
・大出血時の対処法につき解析

【結果】
1)平均追跡期間1.9年。大出血例779例5.5%・113.2イベント/100人年:リバーロ群ワル群とも同等

2)イベント毎の濃厚赤血球輸血数:中間位両群とも2単位:25th2単位、75th4単位

3)輸血患者は少ない:全血14例、血小板輸血10例、クレオプレシピテート2例

4)新鮮凍結血漿:リバーロ群で有意に少なかった:45単位vs. 81単位:オッズ比0.43 (0.29-0.66); P<0.0001

5)プロトロンビン複合体製剤;リバーロ群で少なかった:4例vs. 9例

6)大出血後のアウトカム(脳卒中、全身性塞栓含む):リバーロ群4.7%vs. ワル群5.4%;HR0.89(0.42-1.88)

7)全死亡:リバーロ群20.4%vs. ワル群25.6%・HR0.69 (0.46-1.04) :交互作用はリバーロ群P=0.51,ワル群P=0.11

【結論】ROCKET AFにおける大出血既往のハイリスク患者においては、FFPとPCCの使用はワルファリン群に比べて、リバーロキサバン群で少なかった。
しかし、濃厚赤血球の使用と出血後のアウトカムには差はなかった。

### Xa阻害薬使用時の大出血に対しては、FFPやPCCはあまり使われなかったにも関わらず、出血後のアウトカムはワルファリンと同等であったというのが主要メッセージです。

リバーロキサバンの中和薬は以下のブログで紹介したように開発中だと思われますが、ワルファリンのようにPCCが効果的とのデータは限定的でした。
http://dobashin.exblog.jp/17716782/

また抗凝固因子自体の投与例は大変少なかったとのことです。

特殊な中和薬がなくても、その後の輸血や一般的な出血管理でワルファリンの出血とアウトカムが変わらないとなれば、一生懸命中和薬を開発しなくても良いような気もします。おそらくすみやかに体内から排泄されるからか、または消化管出血などが多く、中和薬無しでも輸血だけで対処できたからかもしれません。あるいは頭蓋内出血でもNOACにおいては出血量が少ないというレポートを最近良く聞きます。そうしたことが影響しているかもしれません。

あくまであとづけ解析であり、また救急医にはINRがわかっており、治療時にはバイアスがかかっていると思われます。
by dobashinaika | 2014-03-26 22:58 | 抗凝固療法:中和方法 | Comments(0)

日経メディカルオンライン連載「新規抗凝固薬、どう使い分ければいい?」更新いたしました

連載させて頂いております日経メディカルオンラインのプライマリケア医のための心房細動入門。第17回が更新されました。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/odakura/201403/535432_4.html
(無料登録必要)

今回は「新規抗凝固薬、どう使い分ければいい?」です。
現在、最も注目度の高いテーマかもしれませんが、それだけいろいろな意見のあるテーマかと思います。

NOACはそれぞれ個性的でクラスエフェクト以上の差異があると思われます。薬剤特性、特に代謝排泄経路と服薬回数に大きな違いがあり、それぞれの大規模試験のアウトカム、サブグループ解析の傾向が異なっています。

これらのうちどのポイントにこだわるべきなのか。使われて日の浅い薬だけに、たくさん使っている医師でさえ、まだ手探りの状態かと思います。

今回提示したのは、現時点での私見であり、当然別の考え方もあると思われます。3ヶ月先、半年先にはまた違う見解が出てくるかもしれません。

ただ診療所診療の立場からは、開業医にとっては例えば院内処方の診療所だと、これほど高価な薬剤を3種類も4種類も仕入れておけない状況があります。また院外処方であっても、近所に門前薬局が1つだけという状況では(当院もそう)、そうそう「使い分け」できるわけではありません。ARBもDPP-4もそれほどこだわりのない、または患者さんが多くない診療所ではせいぜい1〜2種類しか仕入れていないと思われます。

そうした状況の立場と、全種類制約なく使えるような大きな施設とでは状況がかなり異なることは考慮すべきと思います。
by dobashinaika | 2014-03-25 18:48 | 抗凝固療法:比較、使い分け | Comments(0)

NOACは”新規経口抗凝固薬”ではなく、”非ビタミンK阻害経口抗凝固薬”の略語に変更の提言:T/H誌

日本循環器学会の最中に、ESCからNOACの略し方についての変更声明がでたようです。

Non-vitamin K antagonist oral anticoagulants (NOACs): No longer new or novelThrombosis and Haemostasis 
http://dx.doi.org/10.1160/TH14-03-0228


もう市販後2,3年たっているし今後ずっと"New""Novel"と言い続けるわけにも行かない、しかしながらNOAC以外の略し方に変更すると混乱する。
というわけで"Non-vitamin K antagonist oral anticoagulants"の略であるとしようとの提言のようです。

なるほどですが、日本語に訳すとなると「非ビタミンK阻害経口抗凝固薬」となるでしょうか。ちょっと長い感じですね。

それにしても、今回の循環器学会。NOACのセッションはどこも満員。ランチョンセミナーも3日とも一番大きな会場にも関わらず、満杯の大盛況でした。
それだけ、「出さなければいけないんだけど、よくわからない事が多い薬」というように多くの医師が認識しているというのと同時に、業界的に重要なターゲットであるということもあると思います。

さすがにあの場にいますと、NOAC,もうお腹いっぱいという感じになります。
で、なんかもうNOACじゃなければダメ、みたいな空気が醸成されているのを今回感じました。

前のブログでも触れましたが、RCTの外的妥当性の不備を補完する観察研究が不十分である現時点では、諸手を上げてNOAC礼賛という状況ではまだないわけですね。これまで幾多の薬で、RCTでわからなかった害が観察研究から出てきたことか。

今一度、この時点でよく思い起こす必要があるかもしれません。
by dobashinaika | 2014-03-23 23:40 | 抗凝固療法:全般 | Comments(1)

大規模臨床試験とリアルワールドのはざま:一口にリアル・ワールドと言うが。。

3日間の日本循環器学会に参加してまいりました。
今回は2日目に発表する機会を与えていただいたこともあり、詳しく見聞録を書く余裕がありませんでした。

その発表ですが「大規模臨床試験とリアルワールドのはざま」というお題を頂いた時点で危惧していたのですが、
とても15分では扱えない壮大なテーマでした。
当初作成したスライドが50枚以上になってしまい、それでも半分に減らすのが精一杯でした。

ただし、スライドをまとめていく中で、かなりいろいろなことを学習したように思います。
RCTはその内的妥当性を保つために選択基準、除外基準を設けるわけですが、これがリアル・ワールドとの差異を生む、いわゆる選択バイアスが介在するわけです。この選択バイアスが少ないほど、RCTの真実がリアル・ワールドの真実に近づくことができる。つまり外的妥当性が担保されるということになります。

ここまで疫学の教科書に載っている基本事項ですね。

実際、NOACのRCTではCHADS2スコア0または1点以下、超高齢者、高度腎機能障害、人工弁、僧帽弁狭窄その他日常よく遭遇するケースは含まれないまたは非常に少ないです。のみならず、RCT対象者は、医学の試験に協力的で健康意識の高い、アドヒアランスも低くない集団であることが一般的です。

ということで、実際の通院患者の50〜60%の人しか選択基準、除外基準にマッチしていないということになるわけです。

このギャップを埋めるのが観察研究なわけですが、現在までにダビガトランでいくつかの登録研究などが報告され、RE-LYとは異なる結果が認められていたりします。ただしまだ追跡期間が少なく交絡因子も多く、RCTへとフィードバックされるような情報を提示するには至っていないようです。

さらに、通常、予期せぬ副作用、極めてまれな副作用に関しての検出力はRCTには要求されておりませんので、幸い今までのところPMSその他でそうした「害」は認められてはいませんが、だからといってたかだか最高で3年程度のキャリアでは、私自身は50年選手のワルファリンと同等の信頼を置くことはまだできないのです(今更?と言われそうですが)。

で、通常RCT-リアル・ワールド間のギャップは観察研究の積み重ねで埋めていきましょう、で終わりになるわけですが、抗凝固薬の場合これで終わりというわけに行きません。もう一つのリアル・ワールド、つまり「抗凝固療法の適応があるにもかかわらず処方されていない患者さん」が大多数存在するからです。

FUSHIMI AF RegistryではCHADS2スコア、2点以上でも50%の処方率であることはよく知られていますね。ガイドラインであれほど2点以上、1点以上といわれていても、リアルワールドではせいぜい50%の処方率。なぜか?患者さんも医療者も出血を恐れているからです。それと表裏一体のことですが、高齢者にはいくらCHADS2スコア高点でも躊躇するからです。「85歳、高血圧、糖尿病、心不全、認知症あり、転倒の既往あり」の人にCHADS2スコア4点だからはいNOAC飲みましょうとはいかない、という話ですね。

そこのギャプ、いわゆるアンダーユーズのギャップをどうするかーーーこれは今のところソリューションなきアポリア(難題)ですねー。
比較的若いが、CHADS2スコアは2点以上、というどまんなか症例へのアンダーユーズに関しては、医療者への啓蒙で事足りるかもしれませんが、高齢者へのアンダーユーズをどうするか、というのは難しいですね。

というより、これはアンダーユーズと言っていいのかという地点から考え直す必要もあります。がん患者にCHADS2スコアの適応が難しいという総説を紹介しましたが、同様に超高齢者にCHADS2スコアをそのまま適応することには、いま一度考え直す必要があるのかもしれません。

さて高齢者アンダーユーズ(とひとまずは言っておきます)の解決策のひとつは、患者さん、家族とのリスクコミュニケーションを密にして、INRに十分注意し、アドヒアランス、転倒に留意しながらワルファリンを使っていくという方法があります。
もう一つは、例えばアピキサバンやその他NOACのリアル・ワールドの経験知の蓄積を待つということがあります。
更にもう一つは、「抗凝固薬はのまない」という合意形成を患者さん、患者家族と医療者で行うという選択肢です。

どの解決策にしてもまだ発展途上または非常に骨が折れる作業ですね。このギャップというのはそのまま「患者さんと医療者とのギャップ」でもあるし、「理性と恐怖心との心の隙間」かもしれません。

そしてさらに、その外側のリアル・ワールドまで思いを馳せる必要があるかもしれません。
「心房細動があるのに無症候性のひと、または症状があるのに医療機関に来ないひと」です。ここまで範囲を広げればリアルワールドとはイコール「地球上のひと全員」ということになります。ここまで想定すると、時々最近もブログでで取り上げている「隠れ心房細動」探し=心房細動のスクリーニングをどうするかという問題まで話題を広げねばなりません。

いろんな論文、いろんな場所で「リアルワールド、リアルワールド」っていわれますが、最近食傷気味な感じもあったのですが、「リアルワールド」はこのように特に抗凝固療法の領域では、重層的なひろがりをもっており、想定する概念によってその対象となるpopulationがかわり、浮かび上がる問題も違うわけです。今回まとめてみて、そうしたことにきづきました。(Fretcherの臨床疫学の教科書には"All patients with the condition of interest"と既に書いてありますね)

えー、それで実はさらにもう一つの、リアルワールドを考えなければならないわけですが、何かというと、目の前の一人の患者さんですね。
”The Patient's World" 

ということで、ここまで論じないとこのギャップを論じたことにならないということになり、とても15分ではお伝えできなかったのでちょっと補足してみました。

時期を見て当日のスライドもご紹介したいと思います。
by dobashinaika | 2014-03-23 22:42 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)

第78回日本循環器学会1日目参加しました

第78回日本循環器学会学術集会1日目に参加しました。
朝のLate Breaking Clinical Trials1の「ENGAGE AF-TIMI48の東アジアにおけるサブ解析」を聞きました。

・全21105例中東アジアは1943例、うち日本人1010例
・用量減量をしたのは40.9%
・日本人のTTR72.3% (日本のガイドラインに則しても75.9%)

アウトカムたくさんありメモしきれませんでしたが、
・虚血性脳卒中はエドキサバン30mgで多かった
・グローバルで見られた消化管出血増加は、東アジアでは認められない

などが目に止まりました。
エドキサバン15mgに減量した例の解析も進行しているとのことです。

エドキサバン30mgの位置づけはどうかなと思っていましたが、減量した例の転帰はどうなのか、しなかった例では、アウトカムはよかったのか?そうしたデータが今後待たれます。

PMDAへの申請用量の情報もあったようですね。

午後は会長特別企画の「我が国の地域医療の新展開にむけて」と題した企画を聞きました。
コミュニティーヘルスケアシステムの視点での企画は、日循では初めてではないでしょうか?会長の永井先生の慧眼かと思います。
「地域の中の循環器診療」
すべての医師、循環器専門医もこの視点を持つべきだろうと思います。

あと、拙著が2,3の書店の店頭に並んでいて、うれしい限りです。
手に取ってみていただければ幸いです。
22日は午後からのラウンドテーブルディスカッションでちょっとしゃべる予定です。
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by dobashinaika | 2014-03-22 00:47 | 循環器疾患その他 | Comments(0)

ケアネット連載:年齢別に見たアピキサバンの対ワルファリンの有効性と安全性はどうか?

ケアネットの「心房細動な日々〜ダイジェスト版〜更新いたしましいた。

第2回は「年齢別に見たアピキサバンの対ワルファリンの有効性と安全性はどうか?」
というタイトルで、EHJに先日発表されました、アリストテレス試験のサブ解析を紹介しています。

http://www.carenet.com/series/afjournal/cg001089_0002.html
(無料登録必要)

NOACのサブ解析について、以前のブログでも述べたことをまとめましたのでご参照いただければ幸に存じます。
http://dobashin.exblog.jp/19492060/

明後日から、日本循環器学会ですね。

私、今年は2日目午後に発表する機会をいただきました。
なかなか大きなテーマでまだスライド完成していません(笑)。

例年、見聞記をブログに書いておりますが、今年も面白かったものをここで紹介できればと思っています。
by dobashinaika | 2014-03-19 19:03 | 抗凝固療法:アピキサバン | Comments(0)

植え込み型デバイスによる”隠れ心房細動”の同定2題:Circ誌、EHJ誌

植込み型デバイスによるsubclinical AFいわゆる隠れ心房細動に関する報告が2つ上がっています。
簡単にまとめます。

一つは3月14日付けCirculationオンライン版

Temporal Relationship between Subclinical Atrial Fibrillation and Embolic EventsMichela Brambatti et al
doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.113.007825


・以前もNEJMで報告があったASSERT研究から
・65歳以上の2580人(ペースメーカー、ICD);高血圧あり。心房細動既往なし
・6分超の心房細動記録例と脳卒中/全身性塞栓症は関連あり
・脳卒中/全身性塞栓症症例51例のうち26例51%が潜在性(無症候性)心房細動
・18例35%は脳卒中/全身性塞栓症前に潜在性心房細動を記録
・4例8%はイベント前30日以内に記録されていた
・4例は脳卒中発症時に記録された
・イベント30日以上前に記録された無症候性心房細動14例において、最近の心房細動エピソードは平均339日前
・8例16%では脳卒中後にのみ記録:イベント前平均228日間モニターにもかかわらず

【結論】
潜在性心房細動と脳卒中/全身性塞栓症は相関するが、イベント前1ヶ月以内の心房細動は非常に少ない

もう一つはEuropean Heart Journal 2月21日号より

Device-detected atrial fibrillation and risk for stroke: an analysis of >10 000 patients from the SOS AF project (Stroke preventiOn Strategies based on Atrial Fibrillation information from implanted devices)
Giuseppe Boriani et al
Eur Heart J (2014) 35 (8): 508-516.doi: 10.1093/eurheartj/eht491


・5つの研究のメタ解析
・3ヶ月以上追跡できたペースメーカーまたはICD例。慢性心房細動は除く
・10,016例。平均70歳、平均24ヶ月追跡
・少なくとも1日以上5分以上〜最大6ヶ月(中間4分位1.3−1.4)における心房細動検出率:10,016例43%
・心房細動累積時間は虚血性脳卒中の予測因子
・心房細動累積時間の閾値を検討すると、虚血性脳卒中のハザード比は1時間で最大:HR2.11(1.22-3.64) ,p=0.008

【結論】
デバイスで同定される心房細動累積時間と虚血性脳卒中リスクは相関。抗凝固療法意思決定の参考になる。

###いずれも興味深いですね。ASSERTのほうでは、イベント発症前に心房細動が出現するのは8%の症例にしかすぎないとのことですね。あとは、1年位前に記録されている例が多いとのことで、心原性脳塞栓を予測することの困難さを改めて知る思いです。
以前の同研究についてのブログはこちら
http://dobashin.exblog.jp/pg/blog_view.asp?srl=14403465&nid=dobashin

メタ解析では、心房細動累積1時間を超えてくると塞栓症を起こしやすくなるということで、従来考えられているより抗凝固療法は早めに行うべきかもしれません。NOACはその点有利かも。
またデバイス植え込み例というバイアスはあるにしても、43%の症例で心房細動が記録されるというのも”隠れ心房細動”の多さを感じさせます。

今週末は日本循環器学会があり、発表の予定もあるので、ブログはあっさりいきます。
by dobashinaika | 2014-03-18 20:11 | 心房細動:診断 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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