<   2014年 01月 ( 21 )   > この月の画像一覧

心房細動アブレショーション成功後も抗凝固療法は続けるべきか?:EP誌

Europace 1月19日付オンライン版より

Incidence of cerebral thromboembolic events during long-term follow-up in patients treated with transcatheter ablation for atrial fibrillation
Europace (2014)doi: 10.1093/europace/eut406


【疑問】心房細動アブレショーション成功後も抗凝固療法は続けるべきか?

P:イタリアの1病院で心房細動アブレーションを受けた患者:3ヶ月後

E:CHADS2スコア1点以下で再発なく、抗凝固療法中止

C;CHADS2スコア2点以上で抗凝固療法継続

O:血栓塞栓イベント、出血イベント

【結果】
1)766人、60.5ヶ月追跡

2)血栓塞栓イベント;継続群2,2%vs. 中止群1%;P=0.145;全員心房細動の再発ありの症例

3)CHADS2スコア及びCHA2DS-VAScスコア2点以上は、高血栓塞栓リスクと関連:各P=0.047,0.020

4)CHADS2スコア1点以下のうち、CHA2DS-VAScスコア2点以上は血栓塞栓イベントの予測因子:P=0.014

5)CHA2DS-VAScスコア2点以上の血栓塞栓イベントは0.6/100人年。出血イベントは7例で全員継続例

【結論】
・アブレショーション施行心房細動例は、抗凝固療法継続の有無にかかわらず、一般心房細動例より血栓塞栓リスクが低い
・再発リスクは予測できないので、CHADS2スコア、CHA2DS-VAScスコア、HAS-BLEDスコアのルーチン使用が抗凝固療法継続するかどうかの意思決定の際には勧められる
・このリズムコントロール治療が持つ血栓塞栓イベント予防の潜在的能力評価にはさらなる無作為化試験が必要

### アブレーション後、CHADS2スコア、1点以下の症例なら抗凝固療法をやめる施設は多いと思われます。やめると5年で1%に血栓塞栓症が起こリ、それはすべて再発例である。
再発の有無にかかわらずCHADS2スコア2点以上で継続した場合は5年下で2,2%で発症する。とのことです。

ROCKET-AFのワーファリン群のイベント発生率が1年間で2,4%、ENGAGE AFが1.80%ですので、アブレーションでだいぶリスクが減ることになります。

全例再発例とのことですが、心房細動の再発はなかなか100%把握できないのがつらいところですが、1点以下で中止、2点以上で継続という方向は間違っていないことを裏付けるデータかもしれません。
by dobashinaika | 2014-01-31 20:24 | 心房細動:アブレーション | Comments(0)

リアルワールドでの抗凝固薬使用はどうなっているのだろうか?(EORP-AF);AHJ誌より

The American Journal of Medicine 1月28日オンライン版より

‘Real-world’ antithrombotic treatment in atrial fibrillation: the EURObservational Research Programme Atrial Fibrillation General Pilot survey
http://dx.doi.org/10.1016/j.amjmed.2013.12.022


【疑問】リアルワールドでの抗凝固薬使用はどうなっているのだろうか?

【対象】EORP-AF予備調査に登録された心房細動3119例:抗凝固療法下、2012年2月〜2013年3月まで、専門施設での外来、入院での連続登録

【結果】
1)薬理学的あるいは電気的除細動、カテーテルアブレーション目的例ではビタミンK阻害薬処方が多数(72.2%)でNOACは7.7%

2)リスク因子は、各抗凝固薬使用例間で同等

3)慢性腎臓病例では比較的使用頻度低い(p=0.0318)

4)HAS-BLEDスコア2点以上では抗血小板薬の使用頻度が高い(p<0.0001)

5)女性で、抗凝固薬の使用頻度が高い

6)弁膜症、心不全、冠動脈疾患、末梢動脈疾患ではNOACの使用頻度は低い

7)冠動脈疾患は抗血小板薬併用の最強理由(OR8.54,p<0.0001)

8)CHA2DS2-VAScスコア使用の場合、1点以上の95.6%が抗凝固薬使用で80.5%が経口抗凝固薬使用

9)2点以上の83.7%が抗凝固薬を使用され、70.9%は経口抗凝固薬:ビタミンK阻害薬は64.1%、NOAC6.9%

【結論】抗凝固薬使用は過去10年で増加しているが、抗血小板薬使用も依然として処方されている。高齢者の抗凝固療法は控えられている。

### 2013年3月までの登録ですので、ダビガトラン発売1年ちょっとでのデータと思われます。

でも、入院患者さんの使用割合しか示されていません。これだと除細動やアブレーション目的のひとですので平均年齢60台で、若い人中心のデータです。
NOACの内訳も示されていません。

女性、抗血小板薬、CHA2DS2-VAScスコア、HAS-BLEDスコアなどはヨーロッパでの特徴と思われます。
日本はアジア太平洋の調査でも、アスピリン使用は他国に比べ少ないという報告がありましたね。
http://dobashin.exblog.jp/16645824/

別の登録では同時期の登録でやはりNAOC使用率6.6%でした。
http://dobashin.exblog.jp/18797882/

日本の、そして今の処方状況はどうなのでしょうか?NOACのシャアは1/4くらいと聞いたこともあります。上記6〜7%よりは2014年のこの時点で多くなっているような印象ですが、

専門施設では多いと思われます。プライマリ・ケアレベルだと、慣れている先生はやはりワーファリン、これから出そうかなと思っている先生は恐る恐る、というところではないかと思います。
by dobashinaika | 2014-01-31 07:09 | 抗凝固療法:リアルワールド | Comments(0)

透析患者へのワルファリン使用は脳卒中リスクを低下させず出血は増やす:Circulation

Circulation 1月22日 オンライン版より

Warfarin Use and the Risk for Stroke and Bleeding in Patients with Atrial Fibrillation Undergoing Dialysisdoi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.113.004777

【疑問】透析施行中の心房細動患者におけるワルファリンと脳卒中及び出血リスクの関係は?

P:カナダ、ケベック州とオンタリオ州で心房細動のために入院した65歳以上の患者(204,210人)のうち透析施行例1,626人(1998年〜2007年);後ろ向きコホート

E:ワルファリン使用例

C:ワルファリン非使用例

O:ワルファリン使用(退院30日以内)による脳卒中と出血の有無

【結果】
1)ワルファリン処方率46%:ワルファリン処方例で非処方例に比べ心不全、糖尿病が多く、先行出血は少ない

2)ワルファリン使用と脳卒中リスクは関連なし(ハザード比1.14;0.78〜1.67)

3)ワルファリン使用例で出血多い(ハザード比1.44:1.13〜1.85)

4)Propensityスコアで補正しても同様結果

【結論】
今回の結果からは、透析施行中の心房細動患者におけるワルファリン使用は脳卒中リスクを減らさず、出血リスクを高めた。

### 透析患者における抗凝固療法のリスク/ベネフィットについては、いいエビデンスがありません。
重症患者さんですので無作為割付は難しい面があるからでしょう。

その辺のことは以前ブログでも取り上げたレビューに詳しいです。
http://dobashin.exblog.jp/12326439/

この研究も後ろ向きコホートですので、バイアスはいっぱいです。
そもそもCHADS2スコア、HAS-BLEDスコアが不明です。非使用例でCHADS2スコアが低く、いきおいHAS-BLEDスコアが低いので出血がより少なかったのかもしれません。

INR管理状況も不明です。

ただし、後ろ向きながらこれまでこのくらいの規模のコホート研究はなかったように思います。
各種ガイドラインな土にも記載はないようです。YpToDateではCHADS2スコア2点以上で一応ワルファリンが推奨となっていたかと思いますが、その推奨にある示唆を与える研究かもしれません。
by dobashinaika | 2014-01-29 23:56 | 抗凝固療法:ワーファリン | Comments(0)

抗凝固療法を行う上で一番気をつけるべきことは?:日経メディカルオンライン連載、更新しました

日経メディカルオンラインに連載させて頂いております「プライマリ・ケア医のための心房細動入門」。久々に更新しました。

今回は
「第15回 血圧管理
抗凝固療法を行う上で一番気をつけるべきことは?」

です。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/odakura/201401/534686.html

抗凝固療法中の出血予防には、じつは血圧管理が最もわれわれプライマリ・ケア医には日頃から慣れ親しみ、かつ重要なアイテムであることを強調させていただきました。この分野、なかなかエビデンスがなく、BAT研究を参考にさせていただきました。最近のJNC8でも触れられてはおらず、昨日発表の日本の新ガイドラインでもやや触れられてはおりますが、目標値や選択薬剤までは言及されていないようです。

抗凝固療法適応者のCHADS2スコアには高血圧が含まれる場合がほとんど思われますので、このことはじつは非常に大切だと思います。抗凝固療法のことは、もう色んな所で散々言われていてうんざりだと思われている先生も多いと思いますが、その他のリスク管理についてはやや盲点になっているように思われます。

そうしたいわゆる広義のアップストリーム治療について以下のm3.comにも記事を書いておりますので、合わせてご高覧いただければ幸に存じます。
http://mrkun.m3.com/mrq/message/JAJabukawa/201312091728078943/viewPrevious.htm?msgSortBy=date&pageNo=&pos=top&pageContext=mrq2.0&mkep=prev&wid=20140128191912593

(どちらも無料登録が必要です)
by dobashinaika | 2014-01-28 19:50 | 心房細動:アップストリーム治療 | Comments(0)

本日発表の心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)を読む:日本循環器学会HP

本日、日本循環器学会のホームページに心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)が発表されました。
http://www.j-circ.or.jp/guideline/
(2014年1月27日、日本循環器学会HP閲覧、最新情報は上記URLをご確認下さい)

2014年に発表ですが、「2013年改訂版」となっているのはさておきまして、、、

序文に当たる「再改訂にあたって」で、旧ガイドラインからの大きな変更点として以下の5つが挙げられています。
1)新規経口抗凝固薬の追加
2)ワルファリンの至適抗凝固レベル
3)CHADS2スコアの採用
4)「弁膜症性」の定義
5)治療方針の解説にあたっては「孤立性心房細動」という用語を原則使用せず


以下、「V.治療編」に絞って個人的に注目した旧GLからの変化を見てみます。

【2.1 心房細動における脳梗塞発症のリスク評価と抗血栓療法】
1)CHADS2スコア2点以上は全抗凝固薬「クラスI」(推奨)だが、1点ではダビとアピが「クラスI」でリバーロ、エド、ワルファリンは「クラスIIa」(考慮可)

2)「心筋症」「65〜74歳」「血管疾患」を「考慮可」とし、「女性」「甲状腺中毒」は省いた

3)INR管理の原則を2.0〜3.0(クラスI)とし(旧GLではリスク1点はクラスIIa)、「70歳以上は1.6〜2.6」もクラスIとした(旧ではIIa)

【2.6抜歯や手術時の対応】
消化器内視鏡による観察時や低出血危険度の内視鏡手技での抗凝固療法や抗血栓療法の継続など、消化器内視鏡ガイドラインと同様の内容となった。

【3.心拍数調節の適応と方法】
1)緩やかな目標心拍数(安静時心拍数 110 拍 /min 未満) で開始し,自覚症状や心機能の改善がみられない場合 はより厳密な目標(安静時心拍数 80 拍 /min 未満,中 等度運動時心拍数 110 拍 /min 未満)とする

2)心不全例の心拍数調節ににアミオダロン、ランジオロール、カルベジロール、ビソプロロールの投与がクラスI

3)「発作性心房細動へのジギタリス投与」がクラスIII(禁忌)

【4.2心房細動の再発予防】
器質的心疾患ありは「アミオダロン」「ソタロール」、なしは従来からの「強力なNa blocker5剤」とよりシンプルになった

【非弁膜症性の定義】
・人工弁置換(機械弁、生体弁とも)とリウマチ性僧帽弁膜症(主に狭窄症)を「弁膜症性」とした。
・「僧帽弁修復術後」は非弁膜症性として扱う。
・リウマチ性でない僧帽弁閉鎖不全症は非弁膜症性に含める。

【孤立性心房細動の定義】
・「臨床上有意な器質的心疾患を認めない心房細動」とする。
・器質的心疾患とは肥大心、不全心、虚血心をさす。

###抗凝固薬と心拍調節が、やはり大きい変化のように思いました。

リバーロとエドは第III相試験にCHADS2スコア1点以下が含まれていないため「考慮可」でした。
若干違和感があるのはダビ、アピとワルファリンとの関係性です。ダビとアピはサブ解析でCHADS2スコア1点以下で重大な出血や頭蓋内出血が明らかに少ないことから「推奨」となっていますが、RE-LYのサブ解析論文を読むと、脳梗塞/全身性塞栓症、大出血、頭蓋内出血とも両用量ともスコア別の交互作用なし、つまりCHADS2スコアは結果に影響しないというふうに読み取れます。
http://annals.org/article.aspx?articleid=1033155

ARISTOTLE試験の本論文にもCHADS2スコア別の差はP=0.40(大出血)で交互作用なしと読めます。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1107039

ですので、もしこれが本当であればCHADS2スコアが1点でも2点以上でもワルファリンは「考慮可」となる、もしくはNOACとワルファリンの関係性はCHADS2スコア何点であれ同じにすべきようにも思いますが。。。ワルファリンのその他の利点が考慮されたのかもしれません。

アウトカムごとによく図表をもう少し見てみたいと思いますが、間違っていたらすみません。ご指摘ください。

<追記>上記文章はガイドライン発表当日に書きましたが、その後読み直しますと図7の脚注に「同等レベルの適応がある場合、新規経口抗凝固薬がワルファリンよりも望ましい」とあり、
本文中にも「腎機能低下がなく、抗凝固薬の適応である場合は、ワルファリンよりも新規経口抗凝固薬のほうがより強く勧められる。」とあります。
これは、CHADS2スコア1点ではワルファリンのネットクリニカルベネフィットは不定なのに対し、NOACのダビとアピは頭蓋内出血が少ない分おそらくNCBが正になるからワルファリンは「考慮可」でNOACは「推奨」とし、2点以上ではワルファリンもNCB正なので「推奨」に格上げするが、NOACはもっとNCBがいいから、2点以上でもできるだけNOACを使うように」というロジックだと思います。
ようするに2点以上ではNOACは「スーパー推奨」または「超イチ推し」といったニュアンスですね。
ゆっくり読んでその意図がわかりました。(2013.2.5追記)

細かい点もいろいろ変わっているところがありますが、全体に最近の知見を反映した堅実な内容という印象です。また、各ポイントや用語の定義がよりシンプルでスッキリしたと思われます。

個人的には、
1)日本の代表的な登録研究のFUSHIMI AF Registryのアウトカム論文が間に合わなかったのが残念
2)広義のアップストリーム治療、つまり心不全の管理、血圧の管理、その他心房細動以外の管理について少し言及しても良かった
というのが、しいて言えばの注文です。

もっと読み込んでみたいと思います。

追記:あと、一番目を引いた点を書き忘れました。日本で、現時点で未承認のエドキサバンが掲載されていますね。
a0119856_23305374.png

by dobashinaika | 2014-01-27 23:32 | 抗凝固療法:ガイドライン | Comments(0)

抗菌薬に関わらず上気道感染はワーファリンの作用を増強させる;米保険会社データベースより:JAMAIM

JAMA Intern Med 1月20日付オンライン版より

Warfarin Interactions With Antibiotics in the Ambulatory Care Setting doi:10.1001/jamainternmed.2013.13957


【疑問】抗菌薬はワーファリン管理にどのように影響するのか?

P:コロラド州のカイザー保険加入者で2005年1月〜2011年3月までにワルファリンを投与された患者

E:抗菌薬投与:5857例48.8%

C:健常でワルファリンのみ(stable control):5579例46.5%、上気道感染ありで抗菌薬なし(sick control):570例4.7%

O:INR5.0以上の患者の割合。登録日前の最後のINR測定とフォローアップINR間の変化

T;後ろ向きコホート

【結果】
1)平均68.3歳。心房細動44.4%

2)INR5.0以上の割合:抗菌薬群3.2%、sick control 2.6%、stable control 1.2%
抗菌薬vs stable;P<0.001, sick vs stable;P<0.017, 抗菌薬vs sick; P=0.44

3)がんの診断、ベースラインINRの上昇、女性はINR5.0以上の予測因子

4)抗菌薬群の中で、ワーファリン代謝に干渉するものはINR5.0以上の大きなリスク

【結論】
急性上気道感染は、抗菌薬使用の有無にかかわらず抗凝固作用過多のリスクを増加させる。抗菌薬もリスクではあるが、それまでワーファリン管理が安定している患者においては、抗菌薬投与あるいは上気道感染がINRを増させることにはならない。

### 抗菌薬使用の有無にかかわらずワーファリン管理には感染症それ自体が影響するとのことです。

一般にマクロライド系やアゾール系抗菌薬はINRを増加させることが知られています。
しかし私自身は、外来で単なる上気道感染に抗菌薬を使うことはほとんどありませんので、抗菌薬で1INRが変動したという経験は殆ど無いというのが実感です。

今回の論文では抗菌薬に関係なく感染そのものが良くないといいう結論ですが、本当なのかなという気がします。
感染症→脱水→腎機能低下→INR増強などの機序が思い浮かびますが。

一番の限界として保険会社のデータベースである点です。上気道感染と言ってもどの程度のものなのか、脱水をきたすような重症なものから単なるかぜまで様々と思われます。また後ろ向きコホートですから、交絡因子多数です。

また抗菌薬で何を使ったかも気になるところです。
ワーファリンと抗菌薬の併用については以下のブログに大変詳しい考察があります。
http://syuichiao.blogspot.jp/2012/12/blog-post.html

まあ上気道感染時はINR管理に注意、特に抗菌薬使用時には更に注意という警告として受け止めておきたいですね。
NOACでさえ、抗菌薬の併用注意はありますので私としては、上気道感染症であれば安易にクラリスなど処方しないことをまず肝に銘じたいです。

上記ブログではアゾール系、セフェム、ST合剤のオッズ比が高いとの報告が紹介されていますが、プライマリケアセッティングでセフェムは殆ど使わないし、アゾール系も無理して使う場面も少ないです。膀胱炎でバクタは重宝しますが、まあ3日間処方ですし。

どうしても使用せざるをえない時はINRをややこまめにモニターしつつペニシリン系などで切り抜けるというスタンスでやっています。
by dobashinaika | 2014-01-24 23:54 | 抗凝固療法:ワーファリン | Comments(0)

抗凝固薬による出血死を経験した医師が、再び薬を処方できるか?

本日、プライマリ・ケア医を対象としたセミナーに講師として参加させていただき、
「プライマリ・ケア医のための心房細動入門〜知っておきたい現実/おさえておきたいエビデンス〜」という演題名で講演させていただきました。

私の講演の骨子は、EHRAのコンセンサスカンファで提示されている心房細動患者のステップワイズ意思決定の手順にそって

1)動悸を訴える、初発の心房細動患者さんが飛び込みで受診した場合の対処法
2)「心房細動診療=リスクマネジメント」のフレームワーク
3)抗凝固療法のリスク評価
4)抗凝固療法におけるリスクコミュニケーション
5)抗凝固療法の意思決定:意思決定のフレームワークと5つの抗凝固薬の使い分け
6)抗凝固療法のリスクヘッジ=特に高齢者の抗凝固療法
7)キラーメッセージ=共通基盤の発見
8)心房細動診療21の心得
というものです。

こうした講演に参加することの最も有意義なところは、質疑応答で多くの示唆に富む知見がえられるからです。
プライマリ・ケア医の先生がたとディスカッションすると、現場で患者さんと日々真摯に向き合っているものでなければ気が付かないような質問に出会います。

今日はこの質問が一番身に応えました。
「ワーファリンを出していて、出血死した患者さんを経験していて以来、抗凝固療法を出しにくい。どう考えたら良いのか?」
厳しい質問です。

ワーファリンの年間大出血NNHは23です。23人出すと1年の間に1人が大出血を起こすことになります。ある調査では死亡のNNHも100〜120前後との報告があります。このようにワーファリンは、プライマリ・ケア医が扱う薬品の中でも段違いにハイリスクの薬です。

しかもそのインパクトも大きい。なんといってもイベントが大出血、頭蓋内出血です。リスクのインパクトもイベントもかなり大きいです。

患者さんひとりひとりに、「年間数%大出血があり、中には死に至ることもあります」ときちんと伝えることが、果たして我々にできているでしょうか?おそらくそんなことを言ってしまった場合、かなりの方が内服を躊躇するのではないでしょうか?

手術であれカテーテルであれ「死ぬこともある治療法です」と話して、すんなり納得するひとはいないでしょう。

このリスクへのおそれに対する対処法としては、それを上回るベネフィット、すなわち飲まない場合のリスク(=脳塞栓症)のインパクトの大出血に勝るとも劣らない大きさを示し、その確率が出血リスクより大きいとこをしっかりわかってもらうことが戦略として考えられます。いわゆるゴールの共有ですね。

ここがわかってもらえるかどうかが、抗凝固薬のリスクコミュニケーションの最大のポイントだと思われます。

この問題、突き詰めて考えると非常に難しいです。「死亡」という有害事象が起こりえる治療法において、そのことをしっかり伝えるべきなのか。ワーファリンの場合その確率もある低くはないですので、伝えるべきと思われますが、そのように説明しても患者さんが躊躇しないだけの情報を提供できるか。また医師に躊躇しないだけの覚悟と自信があるのか?

実際はそこまで、話していない、そんなに深刻には患者さんに話さないよ、という現場が多いかと思います。
ひとつ言えるのは、ワーファリンをしっかり管理していると、NNH23というような頻度では出血しない、ましてやワーファリンによって脳出血で死亡する頻度は報告されているほど高くない、ということを特に日本の循環器医は実感しているということです。
INR1.6〜2.6で管理していると、そうそう大出血は経験しません。

もう1点は大出血から死亡に至るケースは、やはりHAS-BLEDスコアが高い、特に高齢でINR管理の悪い方に多いですので(私の経験上)、そういう方のINR管理は、本当に細心の注意を払う、または、出さないという方向を考えるということです。

つまり抗凝固療法において、致命的な大出血は原理的には不可避であるが、それでもそれを最小限にする努力をする。そういう姿勢を示しながら、患者さん、または家族とのあいだで「重篤な副作用はあるかもしれないけれど」それでも「利益>リスク」なのだということに関しての共通基盤を作り上げる。あるいは「処方しない」場合、そうした結果どうなる可能性があるのかについても理解を共有するということしかないように思います。

そういう難題にある程度光を与えるものとして、出血がワーファリンよりは少ないという点において(適切な症例に限りますが)新規抗凝固薬が寄与する余地はある程度あると思われます。

とりとめなく書きましたが、この問題、これまでも何回となく取り上げて、ちょっとうんざりと思われる方もおられると思います。
要するに、一口に「インフォームドコンセント」といっても、リスクに付随するインパクトと確率の大きさが甚大な場合には合意を得る道のりは、よく考えるとそう簡単ではないということだと思います。

この問題、3.11以来原発リスクの捉え方を巡って散々行われてきた議論です。インパクトが非常に甚大なリスクをどう伝えるのか?たとえ確率が非常に低くても、とてつもなく甚大なインパクトのあるリスクが想定可能な場合、どこまでリスクを許容できるかということですね。どんなに小さいリスクであっても許容できないというひともいます。

現場で日々格闘している先生方とディスカッションできるのが、こうした勉強会の最大の長所です。今のところ製薬会社さんの勉強会がそうした場の主流になっていますが、こうした場を徐々に医師主導で作り上げていく方向へもっていけたらとも思っています。これはまた別の機会に。
by dobashinaika | 2014-01-24 00:39 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)

欧州心臓病学会の”不整脈この1年(2013年)”その2:新しいテクノロジー

Eur Heart J 1月2日付オンライン版より

The Year in Cardiology 2013: arrhythmias
Eur Heart J (2014)doi:10.1093/eurheartj/eht552


一昨日の続きです。
ヨーロッパ心臓病学会による「循環器病学ことしの1年,2013年」の不整脈編”心房細動管理の新しい、未来の技術”

・左房閉鎖術(LAA)は、protect-AF試験において、抗凝固薬に比べ死亡率、心血管死、出血性脳卒中を減らすことが示された。
・特にワーファリン不適患者には有効で、今後普及していくと思われる

・レーザーアブレーションの初の多施設研究の結果が期待できる
・クライオアブレーションの、抗不整脈薬に比べての安全性、有効性がSTOP-AF試験で示された
・Fire and Ice試験が進行中であり、このデバイスのさらなる知見が期待できる
・新しい多電極Spiral RFアブレーションの米国でのreMARQable 試験が進行中である

CONFIRM試験は巣状のインパルスとそのrotorを修飾することによる新しいアブレーションについての有効性に関する最初の試験である
・Man and Machine試験は VisiTag™を使った接触圧をモニターできるカテーテルによるアブレーションは組織との接触やカテーテルの安定性を改善するものと期待される
・もう一つの有望なイノベーションとしてMRIを使ったアブレーションが既に紹介されている
a0119856_19405126.gif


### こうしてみるといろいろありますね。アブレーションテクノロジーの進歩はここまで来ていたんですね。すっかり論文読み飛ばしていました(笑)。
これらのうち、どのデバイスが生き残っていくのか、興味はつきません。
by dobashinaika | 2014-01-22 19:41 | 心房細動:アブレーション | Comments(0)

リバーロキサバン内服者におけるプロトロンビン時間の分布:CJ誌より

Circulation Journal 1月21日付オンライン版より

Rivaroxaban in Clinical Practice for Atrial Fibrillation With Special Reference to Prothrombin Time
http://dx.doi.org/10.1253/circj.CJ-13-1380


【疑問】リバーロキサバン服薬時のプロトロンビン時間(PT)はどのように分布するのか?

【方法】
・心臓血管研究所で2012年5月〜2013年7月までにリバーロキサバンを服薬した115人(非弁膜症性心房細動)のうちPTを測定した94人
・(1)外来間者での任意の時間 (2)入院間者でのピーク時(服薬3時間後) (3)入院患者でのトラフ時(服薬直前)の3ポイントのPTを測定
・試薬はリコンビプラスチン2G

【結果】
1)PT値は患者ごとあるいはピークとトラフトで幅広く分布
・入院患者のピーク値、トラフ値の分布(n=16):各12.9−24.0秒(平均16.3)、10.1−12.3(平均11.1秒)
CCr<50、CCr≧50の各ピーク/トラフ値:18.2/11.6、18.6/10.5
・外来患者(n=75):9.8-28.1
CCr<50、CCr≧50の各ピーク/トラフ値の分布:14.2-24.0(平均18.1)、10.1-24.1(平均16.6)

2)外来での随時採血における時間とPT値の関係は不明

3)有害事象は、PTとの関係を解析するには、あまりに低頻度

【結論】リアルワールドの臨床プラクティスとして、リバーロキサバン内服下の日本人NVAF患者のPT分布につき報告

### 心臓血管研究所からの貴重な報告です。
トロンビン阻害薬はトロンビンが内因系(Xase)にポジティブ・フィードバックするところを抑えますのでaPTTと血中濃度が相関するのは理解できます。

しかしXa阻害薬が阻害するXa因子は共通因子であり、上記のようなフィードバックも確認されておりませんので、PT、aPTT両者とも相関するとおもわれますが、よりPTの方と相関することが知られています(なぜそうなのかは明らかではないと思います)。

ただし、そのPTも試薬によってだいぶ違うことが示されています。
Thromb Haemost 2010; 103: 815 – 825.

心臓血管研究所の試薬はリコンビプラスチンとのことですが、このT/H誌の論文の図を見ると、試薬のISIの違いから同じPTでも様々な値を示すことがわかりますので、Discussionで触れられているように、抗Xa活性を過小評価(試薬によっては過大評価)する可能性があるわけです。

しかし、今回の研究結果を見ますと、PTはだいぶバラついていますねー。そもそも半減期12時間ですから、少しの吸収のタイミングなどで同じ人であっても日によってピーク時間が違うでしょうし、個体差も当然大きいわけです。

ただ、トラフの値はあまりばらつかないように見えますので、採血するならピークで採らないと差がでないようにも思われます。

イベント数が極めて少ないので、カットオフ値は導けませんが、nの積み重ねで見えてくる方向が示されただけでも大変有用と思います。
by dobashinaika | 2014-01-21 22:47 | 抗凝固療法:リバーロキサバン | Comments(0)

欧州心臓病学会の”不整脈この1年(2013年)”

Eur Heart J 1月2日付オンライン版より

The Year in Cardiology 2013: arrhythmias
Eur Heart J (2014)doi:10.1093/eurheartj/eht552


遅ればせながらヨーロッパ心臓病学会による「循環器病学ことしの1年,2013年」の不整脈編
その“心房細動”の章のみ要約します。

【心房細動管理の進歩】
・2013年は、2012年のガイドライン改訂に続いて、特に3つのNOACの二次解析が出された
・入院、QOL。死亡率、コストなどが解析された
・アピキサバンの有効性も示された
・ワルファリンがNOACよりも適する例を予測するSAMe-TT2R2という新しいスコアも提唱されたがその評価は更に検討が必要
http://dobashin.exblog.jp/17817055/

・COMPARE試験はワルファリンを中断せずアブレーションを受けることで脳卒中や塞栓症が減ることを示した
・NOACでも非中断下でのアブレーションの有効性安全性が示されておりスタンダードになりつつある
・NOACの普及に伴い、EHRAはNOACの管理についての実践的ガイドを出した
http://dobashin.exblog.jp/17727424/

・「線維化心房心筋症」の概念が紹介された
・急速に慢性化がする心房細動もあれば、ずっと発作性のままのものもあるので、そうした「進行の促進」という観点からの評価が打大切である
→その観点からの新しい心房細動分類も提唱された
http://dobashin.exblog.jp/18974659/

・SARA試験(無作為化試験)により持続性心房細動において、薬物療法より良いことが示された

・第4回コンセンサスカンファランスにおいて異なるタイプの心房細動の病態生理について理解が深まった

・多職種共同、ナースのコーディネートによる心房細動専門プログラムがヨーロッパ中で取り組まれている
・心房細動患者へのメディカルケアの組織化であり、特殊な教育、ケアの調整、そしてアウトカムの向上を目指すもの
A proposal for interdisciplinary, nurse-coordinated atrial fibrillation expert programmes as a way to structure daily practice. Eur Heart J2013;34:2725-2730

・AFの死因と死亡予測因子がRELY試験のデータから示された
・ダビガトラン群の予後は血管系の死亡率(塞栓または出血)改善により、改善されたが、心臓死については両群間で差はなかった
http://dobashin.exblog.jp/18603453/

###おもにESCからの視点でまとめられた感もありますが、よくまとまったレビューで、昨年1年を概観することが出きます。
New and upcoming technologiesについては明日アップします。
by dobashinaika | 2014-01-20 23:54 | 心房細動診療:根本原理 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

プロフィールを見る
画像一覧

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:リアルワールドデータ
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールド
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
未分類

タグ

(40)
(27)
(26)
(24)
(24)
(23)
(20)
(20)
(19)
(19)
(17)
(17)
(16)
(13)
(12)
(12)
(12)
(12)
(11)
(10)

ブログパーツ

ライフログ

著作

もう怖くない 心房細動の抗凝固療法


プライマリ・ケア医のための心房細動入門

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌]

最近読んだ本

ケアの本質―生きることの意味


ケアリング―倫理と道徳の教育 女性の観点から


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)


健康格差社会への処方箋


神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Ν´υξ叢書)

最新の記事

高齢者の抗血栓薬による血尿関..
at 2017-10-16 18:47
NOACとの併用で特に注意す..
at 2017-10-13 21:20
COMPASS試験に対するB..
at 2017-10-08 01:31
ABCパスウェイ(心房細動管..
at 2017-10-04 23:48
冠動脈疾患安定期にはアスピリ..
at 2017-10-04 01:11
第11回どばし健康カフェ「 ..
at 2017-10-02 21:57
冠動脈疾患における抗血小板薬..
at 2017-10-01 23:52
医師,患者に対する質の高い多..
at 2017-09-21 00:23
抗凝固薬+抗血小板薬併用療法..
at 2017-09-04 22:49
発作性心房細動では無症候性は..
at 2017-08-30 00:00

検索

記事ランキング

最新のコメント

簡潔なまとめ、有り難うご..
by 櫻井啓一郎 at 23:16
いつも大変勉強になります..
by n kagiyama at 14:39
土橋先生論文を分かりやす..
by ekaigo at 17:41
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 21:03
先生のブログ(共病記)を..
by 大西康雄 at 13:07
コメントありがとうござい..
by 小田倉弘典 at 18:40
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 18:35
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 18:34
はじめまして 心房細動..
by 患者目線 at 08:36
脳梗塞を起こしているから..
by 心配性 at 06:36

以前の記事

2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン