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心房細動には細胞と細胞の間を結びつけるタンパク質の遺伝子変異が原因である可能性がある

時に全く心臓病のない30代、40代の若い方に心房細動を生じることがあります。こうした方には何らかの遺伝子の突然変異があるのではないか、などと以前から推測していたのですが、今回その推測を裏付ける新しい知見が得られました(Circulation. 2010;122:236-244.)。

背景)全く心臓病を持たない方の心房細動(いわゆる孤立性心房細動)は同じ家族の中で発症することはなく。遺伝子異常が原因ではないと考えられてきた。
今回の論文では、孤立性心房細動が突然発症する原因として心房の組織に特異的に関係のある遺伝子の欠如があるという新しい考え方を指示するデータが得られた。

方法と結果)孤立性心房細動患者の肺静脈隔離術のときに採取した心房の筋肉組織とリンパ球10組織において、コネキシン43という細胞と細胞とを結合するタンパク質の遺伝子コードの解読を行った。一人の患者において、ある1個の核酸(36個のアミノ酸を生成することができる)の欠如が、コネキシン43のタンパク質の端のところ(C末端)を切断させるように働くことを確認した。リンパ球のDNAにはこの突然変異はなかった。こうして変異したタンパク質が細胞の中にたまり、コネキシン43や40による細胞と細胞との結合によくない影響を及ぼすことが示された。この変異したタンパク質単独では細胞間の電気的な結合が消失され、元々あるタンパク質と共存しても電気的な結合が減少することが示された。

結論)孤立性心房細動にはコネキシン43の働きを抑える遺伝子の異常が関係していた。このことはこの遺伝子の欠損が孤立性心房細動を引き起こすことを意味しており、心房の中で細胞の結合が乱れ、不整脈の下地を作ることを示唆している。

###これまでも遺伝子の異常が心房細動の原因であるとする報告はありましたが、細胞の間のタンパク質を作る遺伝子についての研究はほとんどありませんでした。将来心房細動の早期発見の実現を期待させてくれる研究です。
by dobashinaika | 2010-07-21 23:50 | 心房細動:リアルワールドデータ | Comments(0)

仙台市特定検診が始まっています

40~74歳の国民健康保険の方へ
7月1日から仙台市特定健診が始まっています
<実施内容>身体測定、血液、尿、心電図、眼底
<実施時期>7月1日~10月31日
     *75歳以上の方、39歳以下の方は、8月~10月です。(4月に申し込んだ方のみ)
<受診方法>
  ・特別な予約は必要ありません
  ・普段、受診したときに受けることができます
  ・6月下旬に送られた「受診券」をご持参ください
  ・朝食(午前受診の方)をとらずにいらして下さい
      *午後希望の方は昼食をとらずにお越しください
<結果>次回の診察の際に結果用紙をお渡しして、説明いたします。

仙台市のこちらのサイトも参考にしてください
by dobashinaika | 2010-07-07 08:05 | インフォメーション

脂質低下療法は心房細動の生命予後を改善する〜AFFIRM試験post hoc解析より〜

心房細動は、心房の筋肉の炎症が原因の一つである、と前のブログでも述べましたが、炎症を抑える薬の代表選手にコレステロールを抑える薬である「スタチン」があります。スタチンが心房細動の発症や再発を抑えると言う報告はありますが、それが心房細動患者さんの寿命(生命予後)まで改善するかどうかは不明でした。
心房細動最大のトピックであるAFFIRM試験を後から解析し、スタチンと心房細動の生命予後の関係を検討した報告が出されました(Am J Cardiol 2010; 105: 1768-1772).

背景)脂質低下療法(スタチンの使用等)はある特定の集団(心筋梗塞など)の死亡率を減らす。その上不整脈を抑える作用があり、心房細動の発症や再発を抑えることが知られている。しかし生命予後の改善まで検討した報告はない。

方法)心房細動の試験中最大のものの一つである4060例を対象としたAFFIRM試験を後付け解析した。AFFIRM試験でスタチンが投与された913例とされなかった3147例の間で、全死亡、心血管死、脳梗塞につきを比較した。別の解析として、死亡、心室頻拍、心室細動、心停止、脳梗塞、大出血、全身塞栓症、肺塞栓、心筋梗塞をまとめてひとつの解析ポイント(複合エンドポイント)とした。

結果)スタチン群はより若く、より他の心臓病薬を服用していたが、心血管の罹患率も高かった。多変量解析により脂質低下療法は、全死亡を減らし(23%減少)、心血管死(29%減少)、脳梗塞(44%減少)、複合エンドポイント(19%減少)をそれぞれを減らした。

結論)死亡率や心血管事故の減少は心房細動例で脂質低下療法を行った例に多く見られた。

###もちろん、あとからの解析であり、いろいろなバイアスがかかっていますが、一応多変量解析を行っており、いろいろなバイアスは排除されていると考えられまし。いろいろな合併症の中でも脳梗塞が一番減っていることが注目されます。AFFIRM試験は持続性心房細動や心疾患を持つ人が多い試験ですが、比較的軽症が多い日本のJ-Rhythm試験でも同様の検討が待たれます。
by dobashinaika | 2010-07-05 23:49 | 心房細動:アップストリーム治療 | Comments(0)

心房細動と慢性腎臓病(CKD)との関係

病気の表す言葉には、いろいろなカテゴリーがあって、たとえば多くの「がん」のように明らかにがん細胞という原因が特定できる病気もあれば、「心不全」のように心筋梗塞など原因はいろいろあるけれどもそれは問わないで、とにかく心臓の働きが低下した状態を指す言葉もあります。厳密には「病名」ではなく「心臓の病的な状態」を指す言葉です。
近年「慢性腎臓病(英語でchronic kidney disease=CKDと略されます)」という病気の概念が普及しています。以前は腎臓病というと尿にタンパクがでる「ネフローゼ症候群」や「慢性腎炎」などを指していましたが、CKDはそうした病気の仕組みや原因は何でもよくて、とにかくタンパク尿が出る、あるいは1分間の腎臓が作り出す尿の量(英語でeGFRと略します)が60cc未満(体格によるため体表面積で補正したもの)であればCKDと定義します。この意味でCKDは心不全と同じような、腎臓の状態を表す言葉と考えてよいと思います。
この1分間の尿生成量が低くなるにつれCKDの重症度(ステージ)が重くなり1段階から5段階まで設定されています。CKDのうちステージが1、2くらいの人(上記の尿生成量が60〜90cc位の人)は実は大変多く、50代後半位からの高血圧の方などほとんどこのステージ1か2(もしくは3)に入ると思われます。
従来より透析が必要なほどの重症腎臓病患者さんでは心房細動がかなり多いことは知られていました。しかしながらこの程度の軽い腎臓病においては心房細動がどれくらいあるのかはデータがありませんでした。それを明らかにした論文が発表されています(Am Heart J 2010; 159:1102-1107)。


背景)腎臓病の末期患者で心房細動がどのくらいあるのかは多くの研究があるが、軽度の腎臓病患者でのデータは少ない。

方法)3267人の慢性腎臓病患者を対象とした(50%がnon-Hispanic black、女性46%)。透析患者はなし。心房細動の有無は心電図記録または自己申告で判断した。

結果)平均のeGFRは43.6。心房細動は18%に認められ、70歳以上では25%以上に認められた。年齢、女性、喫煙、心不全の既往歴、心臓血管病の既往はそれぞれ単独で心房細動の危険因子(それを持っていた方が持っていない場合より心房細動が多い)であった。人種、糖尿病、肥満度(BMI)、身体活動性、教育、高感度CRP(炎症を示す検査数値)、総コレステロール、飲酒は心房細動とは無関係だった。eGFRが45を下回ると心房細動が明らかに増加した。

結論)腎不全の末期患者の心房細動罹患率は正常者の2〜3倍であった。腎不全患者の心房細動危険因子は正常者のそれとはやや違っていた。

この論文の対象はCKDのステージ3すなわち中等度の腎機能低下患者です。糖尿病に高血圧を合併する人、60歳以上の多くの方は自動的にここに入ると思われます。通常心房細動は糖尿病や肥満の人に多いとされていますが、それは腎臓病などのない一般住民を対象にしたデータであり、腎不全患者においては心不全、心臓病の既往など心機能が低下した例でおきやすいことが示唆されています。
CKDも心房細動も最近は全身の動脈硬化、あるいは炎症の結果と考えられてきておりその意味でも興味深いデータです。
by dobashinaika | 2010-07-02 00:03 | 心房細動:リアルワールドデータ | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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