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心房細動アブレーションの結果とその後のQOL改善とには関係がある

ちょっと前の論文になります恐縮ですが、心房細動治療において重要な報告ですので掲載します。
カテーテルアブレーションが成功すれば、その後抗不整脈薬から解放されたり、発作がなくなるため、生活の質いわゆるQOLが改善すると予想されます。アブレーション後2年間という長期にわたるQOL改善につき研究した報告が出ました。(J Am Coll Cardiol, 2010; 55:2308-2316)


目的)心房細動に対するアブレーションの効果と、QOL、それに2年間の心房細動の特有の症状との関係を調べた

背景)アブレーションの第一の目的はQOLの向上だが、この効果を長期的に検討されてはいない。

方法)アブレーションを受けた502人の患者の再発、QOL、症状を追跡した。

結果)
1)332人を2年間追跡したところ、72%の人が抗不整脈薬不要となり、15%の人が抗不整脈薬により(アブレーション前より)心房細動が抑えられるようになった。13%は心房細動が再発した。
2)QOLを表す点数(SF36)は医学的点数(58.8点→76.2点)、精神的要素(65.3点→79.8点)ともにアブレーション後に増加した。アブレーション後のQOLはアブレーションの結果に依存しており、再発例では点数が下がった(12.1点→9.7点)。これらの点数は、抗不整脈薬が全く不要になった群、抗不整脈薬でコントロール良好となった群、再発群の3群の間では統計学的な差はなかった。
3)しかし心房細動特有のQOL評価を103人に行ったところ、抗不整脈薬が全く不要となった群は、抗不整脈薬でコントロール良好となった群は再発群に比べ、点数が明らかに高かった。
4)QOL改善を制限する要素としては、最初からQOLが高いこと、肥満、ワーファリン服用があげられた。
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結論)アブレーション後2年間のQOLは、再発するしないに関わらず改善された。心房細動特有のQOL評価は、アブレーションの結果をより鋭敏に反映していた。

###全く抗不整脈薬がいらなくなった例は、やはりそうでない例や再発例に比べ生活の質に改善が見られるというのはある意味当然の結果と言えます。しかしながらこの論文の大切な点は、そうしたアブレーションの結果以外の要因、つまりワーファリンを飲んでいるかどうか、元々それほど不満を持っていない、そして肥満と言った要素があるとQOL改善の妨げになるということを指摘した点です。ワーファリン服用は様々な点で生活の質を低めることがここでも再認識させられます。現在アブレーション後にワーファリンをやめてよいとの報告も見られており(当ブログ2月18日)、今後注目されます。
by dobashinaika | 2010-06-30 00:15 | 心房細動:アブレーション | Comments(0)

ワーファリンと特殊カテーテルは心房細動アブレーションの合併症としての脳梗塞を減らす

カテーテルアブレーションには脳梗塞という合併症がまれではありますが、存在します。今回それを防ぐ方法についてのかなり大規模な研究が報告されました(Circulation. 2010;121:2550-2556)。

背景)心房細動のカテーテルアブレーションには、脳卒中の合併が1%~5%の頻度でみられる。この合併率を前向きに調査し、アブレーション前後での抗凝固療法とオープンイリゲーションカテーテル(注1)がこの脳梗塞を減らせるかを検討した。

方法と結果)同じカテーテルの方法と抗凝固療法を行っているアメリカの大きな9つの医療機関を選定し、患者さん6454人を以下の3つのグループに分けた。
グループ1)先端が8mmのカテーテル使用。ワーファリンなし。2488例
グループ2)イリゲーションカテーテル、ワーファリンなし。1348例
グループ3)イリゲーションカテーテル、ワーファリンあり。2618例
 アブレーション前後の脳梗塞や一過性脳虚血発作の頻度はグループ1が27例1.1%、グループ2が12例0.9%であった。発作性ではない例やCHADS2スコア(注2)の高い例が多かったにもかかわらず、グループ3で脳卒中を起こした人は一人もいなかった。その他の合併症、大出血や心嚢液はどのグループも同じ頻度であった。

結論)オープンイリゲーションカテーテルとカテーテル前後のワーファリンによる抗凝固療法の組み合わせは、心嚢液や出血と言った合併症を増加させることなく、脳梗塞のリスクを減らした。

(注1)オープンイリゲーションカテーテル:カテーテルの先端に穴があいていて、そこから組織を焼いている最中に生理食塩水を放出させて、カテーテルが過度に高温になることを防ぐことを目的として作られた。
(注2)CHADS2スコア:ワーファリンをのむべきかどうかの判断基準。心不全、高血圧、75歳を超えている、糖尿病、脳梗塞の既往のそれぞれを1点(脳梗塞のみ2点)とし、日本では2点以上で飲むべき、1点以上でも勧められるとされている。

###日本では、ほとんどの施設でアブレーション前後には必ずワーファリンが使われていると思われますので、その点はアメリカよりきめ細かい管理がされていると思われます。今回の注目はイリゲーションカテーテルです。カテーテルの先端が暖まりすぎるとカテーテルと心臓の筋肉との間に一種のこげ(血液や組織の固まり)ができるので、それを回避するこのカテーテルは安全であると思われます。それを裏付ける結果となりました。
by dobashinaika | 2010-06-21 23:49 | 心房細動:アブレーション | Comments(0)

遺伝子診断でワーファリンの初期の副作用による入院を減らすことができる

ワーファリンは通常1日2〜4mg服用される方が多いのですが、ときに1mgで十分な人もいれば、7~9mgくらいのまないと効かない人がいます。
その原因として、ワーファリンの効き目を強める遺伝子と弱める遺伝子が突き止められています。ワーファリンは肝臓でCYP2C9と名付けられ酵素で分解されますが、この酵素を作る遺伝子が足りないためにワーファリンが分解されず、従ってワーファリンが少ない量でも効いてしまう集団がいることが知られています。一方ワーファリンは血液を固まらせる作用のある還元型ビタミンKに作用して固まらないようにするのですが、ビタミンKを酸化型から還元型に変えるビタミンK還元酵素VKORC1を作る遺伝子が発見されており、この遺伝子に変化のある人はワーファリンを大量に必要とすることもわかってきました。これらの遺伝子異常のある人を調べれば、ワーファリンの副作用を予防できると考えられますが、これまでの小規模な研究では、遺伝子を調べても副作用の違いがなかったという結果が報告されていました。
今回、この問題に関して多くの症例を対象にした研究が発表されました
(http://content.onlinejacc.org/cgi/content/full/55/25/2804)。

目的)ワーファリン服用開始時に遺伝子型を調べることが、出血や脳塞栓による入院を減らすことができるか否かを調べる。

背景)CYP2C9とVCORC1の遺伝子のバリエーションの調査で、ワーファリンの量を予測できると言われてきたが、アメリカにおいて大規模な研究はなされていない。

方法)アメリカの各種企業、政府関係機関でこの種の研究の協力メンバーとなっている40歳から75歳の人で、ワーファリン服薬を外来で開始する患者を対象とした。上記遺伝子診断を受けた896名と、他の条件を同じにした対照群2688名との間で、最初の6ヶ月での入院率、ワーファリン治療の変化に月日か期した。

結果)遺伝子診断群の方が対照群より31%入院が少なかった。出血や脳塞栓による入院自体も28%少なかった。

結論)ワーファリンの遺伝子診断はワーファリンを飲み始める患者さんの入院リスクを減らすことができる

###この研究では医師が具体的にどのようにワーファリンを調節したのかの詳細が記載されていませんが、遺伝子の型が変化に富んでいる患者さんほどワーファリンの量をいろいろと変化せざるを得なかったというデータがでています
。しかしながら、例えば当院では、過去3年間で約100名の患者さんに初めてワーファリンを服薬していただいておりますが、最初の半年で出血や脳塞栓を来した例はほとんどありません。当院ではまず最低量の1mgから開始し1週間ごとにPT-INRを検査し、それに応じてゆっくりとワーファリンを増加させていくやり方をとっております。日本の多くの医療機関でも同様の慎重な処方導入がされていると思われますが、日米の医療アクセスの違いから説明できるかもしれません。
また近い将来、このような遺伝子に左右されないタイプの抗凝固薬が開発されつつあり、その意味でも一律な遺伝子診断が、日本で今のところ必要であるかは慎重に考える必要があろうかと思われます。
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by dobashinaika | 2010-06-21 00:10 | 抗凝固療法:ワーファリン | Comments(0)

第25回日本不整脈学会に出席しました

6月10〜11日まで名古屋市で開催された日本不整脈学会に出席して参りました。名古屋は30度を超える蒸し暑さでした。評議員会や心房細動関連のシンポジウムに参加し、特に心房細動に対するカテーテルアブレーションの進歩を実感して、帰って参りました。
2日休診しましたため、昨日12日の外来は大変混雑してしまい、皆様にご迷惑をおかけいたしました。この場をお借りして、お詫び申し上げます。学会で得た情報を診療に生かしていきたいと思います。
by dobashinaika | 2010-06-13 09:18 | 開業医の勉強

肥満と心房細動は関係がある

アメリカでは、大変な速度で心房細動が増加しており、2050年には1200万人の人が心房細動になっているだろうとの予測があります。これを高齢化だけで説明するのは難しく、従来から肥満との関係が報告されていました。今回は肥満と心房細動との関係を前向きに調べた研究です(J Am Coll Cardiol, 2010; 55:2319-2327)。

目的)ボディマスインデックス(BMI=体重÷身長÷身長)と心房細動罹患率との関係を大人数の一般女性を対象に検討する

背景)肥満と心房細動の増加はともに社会問題である。しかしこの2つの関係は未だに不明である。

方法)ハーバードメディカルスクールとその関連施設で、Women’s health 研究に登録された34,309名の女性患者のカルテから、心房細動患者を同定した。それらの患者でアンケートを行い、BMIを確認した。対象者の平均年齢は54.6歳、平均体重は70.2kg。

結果)
1)平均12.9年の期間で、834回の心房細動が確認された。
2)BMIは心房細動リスクと直線的な関係があり、BMIが1ふえるごとに心房細動は4.7%増加した。
3)通常体重(BMI25未満)の人に比べて過体重(BMI25~29) の人は1.22倍、肥満(BMI30以上)の人は1.65倍心房細動になりやすかった。
4)はじめの60ヶ月で肥満になった人は心房細動の新規発症が41%増加し、BMI30未満の人に比べて有意に増加した。
5)肥満や過体重は年々増加して入るが、その増加分を考慮に入れて補正した心房細動発症率は、やはり短期的な大樹増加が原因であるとするに十分であった。


結論)上記のような女性集団では、BMIは短期的にも長期的にも心房細動発症のリスクと関係があった。体重管理戦略が心房細動発症リスクを低める可能性がある。

###欧米の心房細動罹患率や発症率のデータは、日本の2倍近いものもあり、なせなのかと思っていましたが、やはり肥満が関係ありそうです。グラフではBMI25~29と30以上と大きく心房細動の発症率が違うように見えます。日本人でBMI30の人はまだ少なく、その点ではまだ欧米ほど体重を心配する必要はないかもしれません。しかし最近では日本人でもBMI30以上の人が増えています。やはり何事にも肥満は問題のようです。
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by dobashinaika | 2010-06-06 21:41 | 心房細動:リアルワールドデータ | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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