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仙台市医師会雑誌 2005年2月号 より

a0119856_1542135.jpg本当のEBMとは?
---エビ(デンス)・スパイスを利かせた日常診療のすすめ---


「腹部エコーで膵臓をきれいに描出するにはどうすればよいか」
「Aさんの発疹は虫刺されで本当に良かったのか」
「75歳心房細動にはワーファリンかアスピリンか?」
「健診で総コレステロール265であった中年女性で耐糖能異常のみ有する場合、 スタチンを投与すべきか?」


まるで研修医のメモのように見えますが、以上は何と、ある日診療が終わった後に私が自分のパソコンに打ち込んだその日生じた疑問の数々です。
循環器専門医であった私にとって他分野では自信のないことが本当に多く、この1年は目の前の受診者を前にしながら頭の中が「????」となる毎日でした。


そこであるセミナーでご一緒した先生からの勧めで、診療した症例のカルテをその日の夜に復習し、疑問点をファイルメーカーに打ち込んでいくことにしました。
(もちろん毎日はしません)
やっていてすぐに気付いたのですが、疑問には2種類あることが判明しました。


(A)経験しないとわからないこと
(B)調べないとわからないこと    の2つです。


そこでファイルメーカーにカテゴリー欄を設定し、各疑問をカテゴリーわけすることにしました。
上記4つの疑問のうち前2者はA、後2者はBでしょうか。
カテゴリーわけをすると、疑問を解決する際に当たるべきリソース選択が容易となります。


Aに属する疑問ならば、教科書やアトラスを見る、エコーや皮膚科の専門家に聞く、講演会・講習会に通う、といった方策が有効と思われます。
その後は経験をひたすら積むだけです。
問題はBです。これらの疑問はいくら受診者をあれこれ診察したり、ない知恵を振り絞っても答えは出ません。


そこでいよいよEBMの登場です!
EBMはこのように先人の集積したデータでしか答えが出せないような疑問について、われわれにありがたい知恵を授けてくれ(る場合があり)ます。


ここで重要なのはエビデンスとして何を採択するかです。
製薬会社主催の講演会、各種のガイドランなどはかなり良く使われるリソースです。
確かにこれらは苦労いらずの手段ですが、かなり手前味噌であったり、「はあ?」と言ってみたくなるガイドライン(特に日本の)も少なくありません。


私はカテゴリーBの解決にはUpToDate、クリニカルエビデンス、infoPOEMsといったネット上で手軽に入手できる二次情報を利用しています。
これらはあまたの論文に対し、批判的吟味を施した上で、コメント付でわかりやすくかつ確かな情報を提供してくれます。
原著論文に当たる労力や、統計の知識も要らない大変便利なツールたちです。


たとえば、「ワーファリンの有効性」などの疑問は、慣れてくれば上記ウェブサイトで1分以内に解決文にたどり着けます。
何かと雑用の多い開業医にとってこれほどありがたいことはありません。
こうして得られたエビ(エビデンスのことをこう呼ぶ人もいる)を解答欄に書いておけば、同じ疑問が生じたとき、たとえば受診者の目の前でちょっとパソコンのその欄を見たりすることも可能です。


と、ここまでさらっと書きましたが、次のような疑念が当然渦巻きます。
すなわち「欧米人のデータがほとんどである」「EBMでは最大公約数的な情報しか得られず、各個人個人には適応できない」「大規模試験といえど信用できないものも多い」これらは機会あるごとに提起されたEBMに対する批判です。


一言で言えば、「目の前の患者にエビをどう適用するか」ということです。
最近このような批判疑念に対しては、「臨床上の意思決定には、エビだけでなくたくさんの要素が絡んでくる」という視点が重要なのだと考えるようになりました。


たとえばワーファリンの適応について考えてみます。
大規模試験などでは、ワーファリンを支持する知見が多くみられます。
しかし受診者の中には納豆が大好きでどうしてもワーファリンは飲みたくない方もおられるでしょう。


このような例では、すぐに結論を急がず、なるべく統計的な数字を言うのは避けて、お互いの合意点を見つけていくようにします。
また長島監督の事を見て、すぐにでも無条件に飲むという方もいるでしょう。
こうした方にはワーファリンの有効性とともに副作用についての情報をある程度の数字を提示しながら説明します。


より困難なのは、「耐糖能異常の女性へのスタチン」のようにはっきりしたエビがないときです。
こんなときはまずはっきりしたエビがないことを納得してもらいます。
このとき医者がわかってないのでなく、医学研究でわかってないということを強調することにしてます。


いずれの場合も大事なことは、受診者の理解度がどのくらいか常に意識しながら説明することです。


あれ?やっぱりまだモヤっとしていますでしょうか?実は私もなんです。
モヤっとの原因は下線をつけたところでしょうか?
それは下線の部分=「エビデンス語り」「エビデンス伝え」が,それこそ人さまざまでクリアカットに記述できないからにほかなりません。
結局「エビの適用」は聴診技術、冠動脈吻合の技術などと同じ、決して万人が手軽に体得できない「暗黙知」の領域だからだと思います。


エビを得るのは易し、伝える(使う)のは難し。
クックブックはそろっているが、エビ・スパイスの利かせ方は一人一人違わせざるをえない。EBMを知れば知るほど、マクドナルド医療から遠ざかっていきます。


EBMの元祖.D.L.Sackett曰く①専門技術②エビ③患者の好み、を統合せよ、とのことですが、そんな難しいこと簡単にできんわい!といいのが医療人みなの正直なところかと思われます。
そもそも説明、語りといったところはこれまで医療者が、個々のセンスの問題などとして、真剣に論じてこなかったところだと思われます。


1月に東京で開かれた全国規模のEBMセミナー(宮城からは私と大河原の河内先生が参加)でも如何にエビを伝えるかに話題が集中しました。
また全国各地でそうした問題を共有するための勉強会が活発に行われているとの報告がありました。


仙台周辺でもそうしたいわゆるジャーナルクラブが数多くできればと思います。
それでも何とかエビ・スパイスを利かせた処方を心がけたい。
利かせ方のレシピを共有したい。そこのところを投げ出さず、時々は皆で考える様にしたい。


毎日MRさんが持ってこられるガイドラインのパンフなどを見るにつけ、ますますそうした必要性を感じます。同じようなお考えの方、連絡お待ちしております。
by dobashinaika | 2005-02-01 08:00 | EBM


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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