カテゴリ:抗凝固療法:適応、スコア評価( 75 )

心房細動は血栓塞栓症の原因ではなくCHA2DS2-VAScスコアで2点相当のリスク因子のひとつにすぎない:JACC誌


疑問:心房細動自体は本当に脳卒中の主要なリスク因子なのか?

背景:
・CHA2DS2-VAScスコアは心房細動患者におけるリスク評価ツールとして確立されている。
・心房細動それ自体が脳卒中の原因となる因子なのかはわかっていない
・大多数(80〜90%)の脳卒中患者では心房細動は記録されていない。

方法:
the U.K. Biobank cohort登録患者502353例
・40〜69歳の患者,英国のGPによる登録。2006〜2010年

結果:
1)平均57+/-8歳:81%が65歳未満,19%が65〜74歳,46%が女性,平均追跡期間2.2年

2)高血圧29%,脳卒中/TIAの既往2%,血栓塞栓症の既往3%,心不全1%,血管疾患3%,糖尿病5%

3)心房細動例における血栓塞栓症発症率:0.86(95%CI;0.74-1.01)/100人年

4)非心房細動例における血栓塞栓症発症率:0.14(95%CI;0.13-0.15)/100人年

5)CHA2DS2-VAScスコアは心房細動例の脳卒中を予測した:N = 9,947; p < 0.001; C-statistic: 0.64

6)同様に非心房細動例の脳卒中も予測可能だった:N = 492,406; p < 0.001; C-statistic: 0.64

7)CHA2DS2-VAScスコア2点未満の心房細動例の血栓塞栓症発症率:0.48 (0.35-0.67)

8)CHA2DS2-VAScスコア4点未満の非心房細動例の血栓塞栓症発症率:0.12(0.11−0.13)

9)CHA2DS2-VAScスコア2点の心房細動例における血栓塞栓症発症率:0.80 (0.59-1.08)

10)CHA2DS2-VAScスコア4点の非心房細動例における血栓塞栓症発症率:0.76 (0.64-0.91)

11)CHA2DS2-VASc-A2スコア(CHA2DS2-VAScスコア+心房細動あり2点/心房細動なし0点)は一般住民における血栓塞栓症を十分便予測しえた:N = 502,353; C-statistic: 0.67
a0119856_23265084.gif
結論:CHA2DS2-VAScスコアは心房細動のない例でも血栓塞栓症の予測に役立つ。このスコアに心房細動2点として別に追加したスコアを一般住民に当てはめる新しくてより深いスコアを考案した。CHA2DS2-VASc-A2スコア4点以上に抗凝固薬を詳報すべきかどうかは,このデータだけからは結論できない。さらなる研究を提案したい。

### なるほどねー。心房細動クラスタ(そんなのあるのか?)にとってはまさに発想の転換ですね。
心房細動を特別視せず,他の因子と並列に捉えた場合,心房細動はCHA2DS2-VAScスコアで2点程度の寄与危険なんですね。まあCHA2DS2-VAScスコア0点では心房細動があっても投与しなくてよかったので,ある意味2点相当というのはうなづけますが,改めてこういたデータを突きつけられると,心房細動がまずあってそっからリスク評価を考えるという従来の発想法をリセットし,心房細動も一つの危険因子としてとらえたくなるわけです。

ただ,では心房細動なしでもCHA2DS2-VAScスコアが4点以上なら抗凝固薬かというとことは単純ではないですね。たとえば,75歳以上,糖尿病,高血圧の人は4点ですが,全員抗凝固薬かという話になります。こういう患者さんはものすごくいますので,高血圧や糖尿病の重症度その他をよく考える必要があります。出血リスクも考える必要があるし,また85歳以上でもそうかというと,当然まだ何も言えないと思われます。

ただ従来からも脳卒中のリスクスコアはいくつかありますが,その中では簡便なものと考えられます。追加試験を待ちましょう。

$$$ 今日の収穫
a0119856_23273785.jpg

by dobashinaika | 2017-08-01 23:29 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)

プライマリ・ケア外来でも発作性心房細動への抗凝固薬処方率は非発作性に比べて低い:Heart誌


疑問;英国のプライマリ・ケアでの心房細動管理は,ガイドラインとどの程度合致しているか?

方法:
・英国プライマリ・ケアデータベース(2000−2015年)から発作性心房細動の管理についての情報を得る
・主要エンドポイントは抗凝固薬処方

結果:
1)心房細動患者179,343人

2)発作性心房細動患者数の推移(2000→2015年):心房細動全体の7.4%→14%に増加

3)発作性心房細動患者への抗凝固薬の処方率の推移:16%→50.7%

4)非発作性心房細動患者への抗凝固薬の処方率の推移;33.5%→67.1%

5)発作性心房細動でCHADS2スコア1点以上の人の抗凝固薬の処方率の推移:18.8%→56.2%

6)非発作性心房細動でCHADS2スコア1点以上の人の抗凝固薬の処方率の推移:34.2% →69.4%

結論:心房細動患者への抗凝固薬処方率は過去15年で増加したが,適応患者の多くの層,特に発作性の例で抗凝固療法が施行されていない

### CHADS2スコア1点以上の抗凝固療法適応例でも,実際の処方率は発作性56%,非発作性69%ということで,「発作性は軽症」というバイアスが根強いようです。ただ最近は,抗凝固療法を施行しているひとでは発作性より非発作性のほうが塞栓症リスクが高いという報告も相次いでおり,一口に「発作性」と言ってもその中をさらに低リスク発作性,高リスク発作性くらいに分けて考えたほうが良いかもしれません。

15年前は発作性の抗凝固薬の処方率が16%というのも驚きですが,まあたしかにアスピリンでかなり逃げていましたね。自分自分で振り返っても。たしかにあの頃より心原性脳塞栓は少なくなったという印象はあります。ただし,今この時点を15年後に振り返ったとき,「あの頃は心原性塞栓症が多かった」と思えるかどうか。上記処方率50%が100%になれば当然出血率も増加しますので,現状のガイドラインが真のリスクを表しているのかもまだまだ検証の余地があると思われます。

### 玄関先で
a0119856_22201253.jpg


by dobashinaika | 2017-06-26 22:22 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)

抗凝固薬の適応と使い分けのシンプルなアルゴリズム:ESC誌より

Stroke prevention in Atrial Fibrillation
Gregory Y. H. LipEur Heart J (2017) 38 (1): 4-5. DOI:https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehw584

ESCでLip先生の抗凝固薬に関するわかりやすいアルゴリズムが提唱されました。
3ステップとしていますが,どう考えてもCHA2DS2-VAScスコアとSAMe-TT2R2スコアの2ステップと思われますので,私なりにもっとシンプル化して図にしてみました。

解説は以下の通り

・心房細動があると脳卒中リスク5倍
・リスクファクターはホモジーニアス(各項目均一)ではない
・年間1%以上の脳卒中発症率が抗凝固薬投与の閾値
・アスピリンのNCB(ネットクリニカルベネフィト)は負の値
・CHADS2,CHA2DS2-VAScスコアの予測能は中有等:Cインデックス0.6くらい)
・CHA2DS2-VAScスコアは低リスク抽出に有効
・各種バイオマーカーを追加すれば予測能は上がるが,臨床での迅速性も考慮
・ステップ1:低リスクの同定
・ステップ2:CHA2DS2-VAScスコアの評価
・ステップ3:SAMe-TT2R2スコアの評価
a0119856_21241830.jpg
※ 男性1点以上,女性2点以上の場合,HAS-BLEDスコア3点以上であれば,出血の原因となる因子に注意し頻回のフォローアップを要す。

CHADS2スコア,CHA2DS2-VAScスコア,HAS-BLEDスコアは以下を参照

SAMe-TT2R2スコアは:女性,60歳未満,2つ以上の合併症,ワルファリンに影響ある薬剤(各1点),喫煙(2点),エスニックマイナリティー(2点)です。

### 私からコメントすると,
1.CHA2DS2-VAScスコアは日本人の低リスク患者同定には間口が広すぎる。(私見では65−69歳くらいの血圧,血糖安定時患者は保留?)
2.NOACオンリーでなく,ワルファリンを重視している点は非常に親近感を持つ
3.SAMe-TT2R2スコアが2てん以下の人は少ない(60歳以上の男性は既に2点以上)ということを踏まえて考えたいと思います。

ただ,かなりこのアルゴリズムでイケルと思います。このあとステップ4としてNOACの使い分けとなるととたんに面倒になりますが。。。

by dobashinaika | 2017-01-24 19:10 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)

抗凝固薬の新しいTIMI-AFスコアはワルファリンかNOACかの選択に有効か:ESC誌

A novel risk prediction score in atrial fibrillation for a net clinical outcome from the ENGAGE AF-TIMI 48 randomized clinical trial
Eur Heat J http://dx.doi.org/10.1093/eurheartj/ehw565


目的:抗凝固薬の適応に関する新しいリスクスコアを創出する

方法:
・ENGAGE AF-TIMI試験のワルファリンナイーブ(初回使用)患者対象
・重篤な脳卒中,生命を脅かす出血,全死亡をもとにしたネットクリニカルアウトカム(NCO)に基づいて統合的なリスクスコアを作成
・C統計量とbookstrappongによるバリデーションを施行

結果:
1)NCOイベント;7545.9イベント(6.05%)/2898例中,平均2.7年追跡

2)最高17点のリスクスコア (TIMIT-AFスコア)を低,中,高リスクの3レベルに分類:各イベントリスクは3.5%, 9.9%, and 20.8%

3)C統計量:0.693

4)エドキサバン高用量,低用量ともに,高リスク群,中リスク群ではワルファリンよりベネフィットがあり,低リスク群では同等だった(P-interaction 0.008および 0.014)。

結論:心房細動のワルファリンナイーブ例では,TIMI-AFスコアは複合アウトカムの予測やNOACとワルファリンの選択に際し助けとなる

資金:第一三共からのグラント

### これまでのリスクスコアをまとめますと
・CHADS2, CHA2DS2VASc, R2CHADS, ATRIA, ABCの各スコアは脳卒中(虚血性脳梗塞)
・HEMORR2HAGES, HAS-BLED, ATRIA, ABC, ORBITスコアは出血
・SAMe-TT2R2スコアはワルファリン管理の予測
とそれぞれアウトカムが異なっていました。

本来は梗塞と出血量者を統合したスコアがベストなはずですがこれまで決定的なものがないことがむしろ不思議でした。
今回のスコアはENGAGE AF-TIMI48試験の二次ネットクリニカルアウトカムとして特に設定した「重篤な脳卒中,生命を脅かす出血,全死亡」をアウトカムに採用しています。(定義がややはっきり記載されていないのが残念)。

TIMI−AFスコアとは:年齢(66〜74才2点,75以上3点),左室駆出分画(<30%3点,30〜49 %2点, 不明1),ヘモグロビン13未満2点,非白人(アジア2点,黒人2点,他2点),持続性1点,脳梗塞既往1点,クレアチン110 umol/L以上1点,女性1点,糖尿病1点,頸動脈疾患の既往1点,心筋梗塞の既往1点
と大変細かいです。

このスコアの特徴は低リスク(0〜6点)ではイベント発生率がワルファリン=NOACなのに対し,中〜高リスク(7点以上)ではワルファリン>NOACであるということです。ワルファリンだとどの項目がよりイベントを起こしやすいのかまで明らかにされてはいません。
a0119856_1134148.gif


いきなりこのスコアを使うのではなく,中〜高リスクのときの薬剤選択に用いるように勧めています。なんか,NOAC時にエドキサバンが番宣の趣もあるスコアですが,細かい項目などを確認してからちょっと使ってみようかとも思います。
a0119856_11341615.gif


CHA2DS2-VAScスコア2点前後で,抗凝固薬行くか行かないかの選択に外挿できるかと思いましたが,どうかな。
by dobashinaika | 2017-01-08 11:35 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)

アジア人心房細動大規模データべースでは50歳以上から抗凝固薬の適応:Stroke誌


Validation of a Modified CHA2DS2-VASc Score for Stroke Risk Stratification in Asian Patients With Atrial Fibrillation
A Nationwide Cohort Study
Stroke. 2016;STROKEAHA.116.013880, published online before print September 13, 2016


台湾の国内データベースに基づく興味深い検討がでています。

目的:CHA2DS2-VAScスコアの年齢部分を現行の65〜74歳から50〜74歳に広げた場合,予測能はどうなるか?

方法:
・新規の心房細動と診断された224866人対象
・抗凝固療法をしていない124,271人において,CHA2DS2-VAScスコアとmCHA2DS2-VAScスコア(50〜74歳)の予測能を比較

結果;
1)mCHA2DS2-VAScスコア1点(男性)または2点(女性)にすると,ワルファリンの使用で虚血性脳卒中が30%減少

2)頭蓋内出血は不変

3)ネットクリニカルベネフィットもmCHA2DS2-VAScスコアのほうが良好

結論:アジア人心房細動コホートでは,mCHA2DS2-VAScスコアは,もともとのCHA2DS2-VAScスコアよりパフォーマンス良好。より多くのネットクリニカルベネフィット陽性患者を抽出できる。

### 台湾のコホートではこうなるのですね。同様の研究は以下でも垣間見えます。
http://dobashin.exblog.jp/20904993/
http://dobashin.exblog.jp/20288437/

一方日本は3大コホートでの脳塞栓発症率自体かなり低く,65歳〜74歳でさえ危険因子とはなりえませんでした。
http://dobashin.exblog.jp/20541922/
伏見でも,75歳以上としています。
http://dobashin.exblog.jp/21820445/

この差は何でしょうか。血圧その他の周辺管理の違いか。選択バイアスか。
流石に50歳からNOACを出す気にはなれません。
日本もビッグデータはよ,って言いたいところです。

$$$ 月は見えなかったけどお月見
a0119856_22111982.jpg

by dobashinaika | 2016-09-15 22:12 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)

左房径>45mmは心房細動脳塞栓の予測因子:Fushimi AFレジストリーより

Left atrial enlargement is an independent predictor of stroke and systemic embolism in patients with non-valvular atrial fibrillation
Sci Rep. 2016 Aug 3;6:31042. doi: 10.1038/srep31042


疑問:左房径は心房細動塞栓症の予測因子となるのか

方法:
・Fushimi AF レジストリー登録患者のうち2015年までにベースラインで心エコーを施行した2713例対象
・左房径45mm超の群(左房拡大群)とそれ以下の群とで,背景やイベント発生率を比較
・平均追跡期間976.5日

結果:
1)左房拡大群は全体の39%

2)拡大群ほど:高齢,心房細動持続期間が長い,非発作性が多い,CHADS2/CHA2DS2-VAScスコア高値,抗凝固薬使用多い

3)脳卒中/全身性塞栓症発症リスク(拡大群,対比拡大群):
      全コホート1.92(95%CI:1.40〜2.64;p<0.01)
      抗凝固薬使用例 1.97(95%CI:1.18〜3.25;p<0.01)
      抗凝固薬非使用例 1.83(95% CI: 1.21-2.82; p < 0.01)
a0119856_22403426.png


4)CHA2DS2-VAScスコア,抗凝固薬使用で補正後 1.74 (95% CI: 1.21-2.82; p < 0.01)

結論:左房拡大は心房細動の大規模コホートにおける脳卒中/全身性塞栓症発症率の独立予測因子

### 左房径は直感的に考えれば,大きいほど左房内血流の遅延をきたし,左心耳血栓が増え,心原性脳塞栓の予測因子として確実のように思われますが,これまでのスタディーでは予測因子にはならないとするものも多数ありました。

測定方法が均一でない,左房容積や左房内血流を必ずしも反映しない,抗凝固薬使用例を対象とした研究が多い,などの因子が影響するようですが,最近は,以下のブログなどもそうですが,やはり予測因子として考えられそうという研究が増えていました。
http://dobashin.exblog.jp/13511523/

今回はあのFushimi レジストリーの日本人多数例での綺麗なデータであり,抗凝固薬使用の意思決定の上で大変参考になります。

CHADS2スコア1点でやや若くて,血圧もしっかり管理されているような例などで抗凝固開始に迷いますが,そんなとき参考にしたいと思います。

CHADS2,CHA2DS2-VAScの予測精度が上がるのか,ROC曲線だと45mmがやはり最適なのか,追加の検討が楽しみになります。

$$$ 本日大収穫祭り! このところ毎日見にトマトとナス三昧です。
by dobashinaika | 2016-08-09 22:37 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)

超高齢者に対する抗凝固薬使用のコツ:90歳以上に対するワルファリン使用の効果とリスク:JAMAIM誌

Risk of Bleeding and Thrombosis in Patients 70 Years Or Older Using Vitamin K Antagonists
JAMA Intern Med. Published online July 05, 2016.

疑問:70歳以上,特に90歳以上の超高齢者における抗凝固療法の効果とリスクはどのようなものか?

デザイン,セッティング,参加者:
Certe Thrombosis Service Groningen(オランダ)において2009年〜2012年にビタミンK阻害薬(VKA)を投与した90歳以上の患者1109人。マッチングした80歳代,70歳代(対照群)とする

アウトカム:一次アウトカム=臨床的に問題となる小出血および大出血。二次アウトカム=血栓症,VKAの管理の質

結果:

1)大出血:6419観察年のうち,3313人中713人,1050イベント

2)出血リスク(70代ベース):80代は明らかな増加なし(ハザード比1.07,95%CI0.89〜1.27)。90代は微増(1.26;1.05〜1.50)

3)大出血(死亡含む)(70代ベース):80代,90代は70代と同等
a0119856_20475592.png


4)男性の方が女性より年齢の影響大

5)血栓症:85人(2.6%)

6)血栓リスク(70代ベース):90代(2.14; 1.22-3.75)80代(1.75; 1.002-3.05)は有意に増加

7)VKA管理の質:高齢になるに連れ落ちてくる。90台での出血の増加とは関係。血栓リスクの増加とは関係なし

結論:VKAによる出血リスクは80代以降ゆるやかに増加。塞栓リスクは急峻に増加。

### 従来からの観察研究の治験と同様ですね。高齢になるに連れ確かに出血リスクは上昇しますが,それをかなり上回るペースで血栓塞栓症が増加します。既に同様の報告が多くなされています。

マッチングされているとはいえ,明らかにされないところで,高齢者への適応としてバイアスがかかりますので,高齢者ほどより安全な症例が選ばれているという選択バイアスは当然考える必要があります。

しかしそれを考慮しても,私の経験上も一般に恐れるほど超高齢者の抗凝固薬による出血は少ないというのが実感です。特にワルファリンに関しては,大出血(頭蓋内出血がやはり多い)はここ10年で数例しか経験していません。一方NOACは頭蓋内出血はほど皆無ですが,消化管出血はワルファリンよリ多く経験します。これ実感で統計的な有意性はなしですが。

高齢者でのワルファリン使用のコツは,まずINRは1.6〜2.0くらいに保つこと。2.3を超えたら0.25mg単位でワルファリンを減らすこと,腎機能をこまめに見て,CrCLが低下傾向であれば減量すること。ご家族と密にリスクにつき話し合うこと。これらにつきます。

一方高齢者のNOAC使用のコツは,やはり腎機能が基準値内でもそれに近い場合は,低用量を用いること。ワルファリンにもまして腎機能のチェックを怠らないこと。場合によっては事前に便潜血検査などを行うこと,などを心がけてます。

豆なチェックとできるだけ低用量で行くことが出血回避のコツと思います。いかがでしょうか。

$$$ きょうのニャンコ。どこにいるでしょうか。
a0119856_20455089.jpg

こっちは拙宅のネコ
a0119856_20462250.jpg

by dobashinaika | 2016-07-12 20:51 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)

脳卒中低リスクの人への抗凝固薬はこう考える:Stroke誌

Should Atrial Fibrillation Patients With Only 1 Nongender-Related CHA2DS2-VASc Risk Factor Be Anticoagulated?
Stroike;Mya 26;Epub ahead of print


疑問:性差に関係しない脳塞栓危険因子1つ(CHA2DS2-VAScスコア男性1点,女性2点)の人に抗凝固薬は必要か?

方法:
・一般住民対象
・2つの方法(Singer,Connolly)でネットクリニカルベネフィットを算出
・対象8962人:性差に関係しない危険因子0または1つ=25%。うち45%は抗凝固薬なし

結果:
1)平均追跡期間:1,028 ± 1,189日

2)脳卒中/全身性塞栓症年間発症率:危険因子なし0.68%vs.危険因子1つ2.09%(補正後2.82%)

3)危険因子1つの人のネットクリニカルベネフィット:ビタミンK阻害薬>無治療。抗血小板薬は無治療と差なし

結論:性差に関係しない危険因子を1つのみを持つひとにおいて,抗凝固薬の血栓塞栓症におけるネットクリニカルベネフィットは良好。

### 周知のように日本の代表的データベースでは,CHADS2スコア0〜1の人の年間脳卒中発症率は1%に満たないことが示されているわけです。
http://dobashin.exblog.jp/20541922/

1%以下の塞栓症に比べ大出血は1%以上といわれていますので,であれば抗凝固薬は適応にならないはずです。しかし現実にはJ-RHTYMレジストリーでも多くの低リスク患者さんに処方されています。また実際脳血管専門施設に搬送される脳塞栓症例の30%はCHADS2スコア0〜1の低リスク例であり,やはり救うべき対象として考えねばなりません。

どう考えたら良いか。
まあこれまでもさんざん言ってきてはいますが,CHADS2にしてもCHA2DS2-VAScにしても,低スコア層の患者プロフィールには相当の幅があるのです。例えばCHADS2スコア4点となると,糖尿病,高血圧,75歳以上,心不全の4つを合併する例というのは,相当絞られた患者集団です。一方,1点で高血圧だけなどとなると,相当に色々なレベルの人が含まれてしまう。「低リスク層ほど「リスク評価がアバウトになってしまう」。これこそがこうしたスコア化の宿命とも言える原理だと思われます。

ですので,低リスク層には,特に日本人のように欧米よりさらに低リスクの集団を扱う場合は,もう少し別の「サブスコア」みたいなものを考えないと,何でもかんでも適応になってしまうのではないでしょうか。

例えば年齢を70歳でさらに分けるとか,腎機能,左房径,血圧,糖尿病の重症度など,あまり煩雑でないしかし塞栓症に係る指標を新たに見出すことが必要とも思われます。指当り当院では,血圧,糖尿病は少ない薬剤で管理良好な例には1点では処方しないですね。一方,70歳以上でCCrが50前後,あるいは高血圧,糖尿病に複数の薬剤を使用してもやや管理不良などの例には積極的に処方します。左房径はエビデンス待ちです。

ただ指標を多くしてしまうと漏れも出てくるし,評価も煩雑になるというジレンマがある。これまだまだ難題です。

$$$ なぜに郵便局で冷やし中華?ゆうパックのサービスみたいです。
a0119856_21311892.jpg

by dobashinaika | 2016-06-17 21:35 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)

60歳,CHADS2スコア1点の無症候性心房細動に抗凝固薬は必要か:Circ誌のケーススタディ

How to Manage Occult Atrial Fibrillation Detected on Long-Term Monitoring
Gregory Y.H. Lip
Circulation. 2016;133:1290-1295


Circulation誌から,Lip先生による症例検討です。

症例:60歳,男性。無症状。拡張型心筋症。CRT-D装着
デバイス点検の際,30%の時間帯で高レートエピソードあり。
血圧124/80。糖尿病始め他の心血管リスク無し。左室駆出分画40%。左房径42mm
CHA2DS2-VAScスコア1点。HAS−BLEDスコア0点
アスピリン,ACE阻害薬,スタチン,β遮断薬服用
この患者をどう管理するか?抗凝固すべきか?心房細動は負担となるか?

原因不明の脳塞栓症をcryptgenic strokeと呼びますが,その多くが無症候性心房細動由来と考えられており,様々なモニターデバイスを用いることで,明らかになる可能性が示唆されています。

それを裏付けるエビデンスが数多く紹介されています。

Take−home Messagesは以下のとおり
・無症候性心房細動はよくあるもので,かつ症候性心房細動よりも予後が悪い
・デバイス(植込み型ループレコーダーあるいは最新のペースメーカー)で診断される心房細動もよく認められ,無症候性で短いエピソードの心房性不整脈が明らかとなる
・最近エビデンスはそうした潜在性の心房頻脈が脳卒中/全身性塞栓症のリスクを増加させることを強く示唆する
・脳卒中のリスク因子がある場合,ビタミンK阻害薬(TTR70%以上)またはNOACが良い。

この症例の対処としては,
・CHA2DS2-VAScスコア1点なので,2014年ACC/AHAガイドラインからは抗凝固薬,アスピリン,抗凝固なしのいずれかが勧められる。これに対しESCガイドラインでは患者の好みを考慮の上で抗凝固薬が勧められている(推奨度IIa)。

討論と相談の末,この患者は脳卒中防止を切望しNOAC,とくにアピキサバン5mg1日2回による治療が開始された。アスピリンは中止となった。
a0119856_2334441.gif


### 60歳,CHA2DS2-VAScスコア1点,CHADS2スコア1点,無症状,拡張型心筋症(CRT-D植え込み)で心房細動が見つかったケースです。日本のガイドラインではダビガトラン,アピキサバンなら推奨,リバーロキサバン,エドキサバン,ワルファリンなら考慮可となります。こうした場合は,スコアに現れないリスクをもう少し細かく診るというのが私の方針です。心不全でも拡張型心筋症で,EFや左房径こそまずまずですが,将来的にも心機能低下が予想されます。また心房細動が1日の30%と多くの負担となっています。

私が主治医であればやはり一応ワルファリンまたはNOACについて患者さんに提案すると思います。いかがでしょうか?

$$$ 近くの小学校校庭を悠々と散歩するネコ
a0119856_235299.jpg

a0119856_2352770.jpg

by dobashinaika | 2016-03-30 23:08 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)

やはり心房細動患者の脳卒中予測にはATRIAスコアが最適:EHJ誌

Comparison of the ATRIA, CHADS2, and CHA2DS2-VASc stroke risk scores in predicting ischaemic stroke in a large Swedish cohort of patients with atrial fibrillation
Eur Heart J DOI: http://dx.doi.org/10.1093/eurheartj/ehw077 ehw077 First published online: 3 March 2016

以前も英国から同じような研究が発表されていましたが、今回はスウェーデンのより大規模なコホーと研究です。

似たような内容ですので、要約のみ

対象はスウェーデンの病院またはクリニックで心房細動と診断されていて、ワーファリンが投与されていない152153人。
年間脳卒中発症率は年3.4%でATRIAスコアの元になっているカリフォルニアのコホートより上

結果は、予測能を示すC統計量はATRIAスコア0.708、CHADS2スコア0.690、CHA2DS2VAScスコア0.694でATRIAが最良。

###以前紹介した英国の研究はこちらです。ATRIAスコアの内容も記載してあるので参考にしてください。
http://dobashin.exblog.jp/21893263/

ATRIAスコア、いいのでしょうが、eGFRがあって、採血が必要なのと、項目が多いのが気になります。項目が多くても予測能があがるとは限りませんが、ATRIAの場合は比較的適切な項目なのでしょう。

CHADS2スコア1点などで迷っているときに使うとよいかもしれません。

### 一冬見えなかった野良猫の”クロニャン”。大丈夫かなと思っていましたが、昨日顔を出してくれました。安心。
a0119856_7415317.jpg

by dobashinaika | 2016-03-15 07:40 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:リアルワールドデータ
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールド
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
未分類

タグ

(40)
(27)
(26)
(24)
(24)
(23)
(20)
(20)
(19)
(19)
(17)
(17)
(16)
(13)
(12)
(12)
(12)
(12)
(11)
(10)

ブログパーツ

ライフログ

著作

もう怖くない 心房細動の抗凝固療法


プライマリ・ケア医のための心房細動入門

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌]

最近読んだ本

ケアの本質―生きることの意味


ケアリング―倫理と道徳の教育 女性の観点から


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)


健康格差社会への処方箋


神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Ν´υξ叢書)

最新の記事

高齢者の抗血栓薬による血尿関..
at 2017-10-16 18:47
NOACとの併用で特に注意す..
at 2017-10-13 21:20
COMPASS試験に対するB..
at 2017-10-08 01:31
ABCパスウェイ(心房細動管..
at 2017-10-04 23:48
冠動脈疾患安定期にはアスピリ..
at 2017-10-04 01:11
第11回どばし健康カフェ「 ..
at 2017-10-02 21:57
冠動脈疾患における抗血小板薬..
at 2017-10-01 23:52
医師,患者に対する質の高い多..
at 2017-09-21 00:23
抗凝固薬+抗血小板薬併用療法..
at 2017-09-04 22:49
発作性心房細動では無症候性は..
at 2017-08-30 00:00

検索

記事ランキング

最新のコメント

簡潔なまとめ、有り難うご..
by 櫻井啓一郎 at 23:16
いつも大変勉強になります..
by n kagiyama at 14:39
土橋先生論文を分かりやす..
by ekaigo at 17:41
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 21:03
先生のブログ(共病記)を..
by 大西康雄 at 13:07
コメントありがとうござい..
by 小田倉弘典 at 18:40
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 18:35
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 18:34
はじめまして 心房細動..
by 患者目線 at 08:36
脳梗塞を起こしているから..
by 心配性 at 06:36

以前の記事

2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン