カテゴリ:虚血性心疾患( 22 )

スタチンのエビデンスをどう解釈するか:Lancetの総説より


Interpretation of the evidence for the efficacy and safety of statin therapy
Lancet DOI: http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(16)31357-5


Lancetにスタチン療法の有効性安全性に関するエビデンスの解釈に関する総説が掲載されています。
週刊誌などでも,その適応が話題となっており,この際整理したいと思います。
例によってACCのメルマガで9ポイントにまとめてくれていますので,それを訳します。

1.RCTはアウトカムの違いを明確化し,治療と効果の因果関係を明らかにする。

2.多数の異なるタイプの患者対象に異なるクライテリアで行われるRCTは,治療法に対する信頼できる情報を提供し,異なる集団への適応を可能にする。

3.データベースに基づく大規模観察研究は,稀な例においても効果を確認することができる

4.RCTから得られる特異的なアウトカムの平均的効果を観察研究での絶対リスクに当てはめるには,絶対リスクの総合的評価が必要

5.
・RCTではLDLコレステロールを40mg/dl下げるごとに大血管イベント(冠動脈死,心筋梗塞,脳卒中,冠動脈再建術)を25%減らす
スタチン療法の絶対的効果は各例における心血管イベントの絶対リスクとLDLCの減少度とに依存する
・たとえば,LDLCを低コストスタチン(アトルバスタチン40mg/日;月4ドル,80mg/dl)を5年間10,000人に使うと,二次予防患者では1,000人(10%絶対効果),一次予防では500人(5%絶対効果)
・より長期間使用したほうが大きな効果が得られる

6.   
・長期間のスタチン使用には重大な副作用がある。
・アトルバスタチン40mg/日は10,000例5年間でミオパチー5例(CPK上昇,やめないと横紋筋融解症)
・50〜100例で新規糖尿病発症
・5〜10例で脳出血

7.スタチン療法は,5年間10,000人に50−100人に症候性の有害事象(筋肉痛,脱力)を起こす。しかしながらRCTでは,それらの有害事象がスタチンに起因するとは結論付けられない(小田倉注:統計的有意差がつかないなど)

8.・RCTに基づけば,有害事象が効果と副作用のバランスを超えて多いという事はできない。
・有害事象が過大評価されるために,高リスク患者がアンダーユーズになるかもしれない。
・筋肉関連症状は服用中止で速やかに改善する一方,薬を飲まないことによる心筋梗塞や脳卒中は重大な結果をもたらす

9.今後の見通し:著者らは動脈効果疾患の予防と治療に関する国際的専門集団であり,多くの高リスク患者がまれな副作用た恐れのためにスタチンをやめたり,効果のはっきりしない高価な代替治療を求めることに警鐘を鳴らしている

### すでに週刊誌記事に対する幾つかのブログでかねがね述べてきたことが,ここにも凝縮されています。

私が一番,危惧することがが上記「8」のなかで「有害事象が過大評価されるために,高リスク患者がアンダーユーズになるかもしれない」としっかり書かれていました。
ただし,特に一次予防での絶対リスク減少は,日本人の場合欧米人よりかなり低いので,上記のことは当てはまらないと思われますでの注意が必要です。
(日本人の適応については一応まとめたのでこちらを参照ください)

#### こうした論文を目にするたびに,医療に限らず人生における意思決定について考えさせられます。以下意思決定に関する談笑,もとい断章

〜未来の自分の行動を決定するには,世界(リスク)を認知する必要がある。

〜世界の認知には正しいリテラシーが必要である。だから私たち医療者は。日々学習するのである。

〜世界とは,そしてリスクとは連続変数であり,行動決定は「する」「しない」の離散変数である。

〜連続変数から離散変数を導くには,必ず飛躍が必要になる。

〜飛躍の幅を決定するのはリテラシーの他に,リスクを語る者に対する信頼度,個人に依存した経験や価値観などの因子が入り込む。

〜飛躍の幅をなるべく狭めるためにリテラシーを磨く必要がある。

$$$ 連休は近場を散策。ひさしぶりに行きました。ポケモンたくさんいました。
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by dobashinaika | 2016-10-11 21:54 | 虚血性心疾患 | Comments(0)

「実地臨床における抗血小板薬選択のポイント」ケアネットにサイトアップされました

以前,雑誌「CardioVascular Contemporary」に掲載された「実地臨床における抗血小板薬選択のポイント」がケアネット上で公開されています。

http://www.carenet.com/report/series/cardiology/cvc/004/02/02.html
(要無料登録)

・抗血小板薬でおさえるべき薬理学的知識
・虚血性心疾患のエビデンス・ガイドライン
・脳卒中(非心原性脳梗塞)のエビデンス・ガイドライン
・末梢血管疾患のエビデンス・ガイドライン
・現時点における抗血小板薬の使い方の実際

の5点について整理しました,
ご興味があったら,お読みください。
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by dobashinaika | 2016-02-05 22:08 | 虚血性心疾患 | Comments(0)

長いTV鑑賞時間と心血管疾患は関連あり:日本人対象の大規模コホート研究:CJ誌

Television Viewing Time and Mortality From Stroke and Coronary Artery Disease Among Japanese Men and Women – The Japan Collaborative Cohort Study –
Satoyo Ikehara et al
Circulation Journal, 2015/9/07


背景:日本人におけるテレビ鑑賞時間と脳卒中,冠動脈疾患との関係に関する研究はない

方法:
・1988−1999年から2009年まで追跡した心血管イベントとがんのない40−79歳の男性35959人,女性49949人

結果:
1)平均19.2年の追跡期間

2)脳卒中2553例,冠動脈疾患1206例,全心血管イベント5835例

3)テレビ鑑賞6時間以上の人は,2時間未満の人にくらべ冠動脈疾患,心血管イベントが多い
・脳卒中ハザード比:1.158 (0.96–1.37)
・冠動脈疾患:1.33 (1.03–1.72)
・全心血管イベント・1.19 (1.06–1.34)

4)テレビ鑑賞時間が1時間増すごとに脳卒中,冠動脈疾患,心血管イベントはそれぞれ1.01 (0.99–1.04), 1.04 (1.01–1.08) ,1.02 (1.01–1.04)倍増加

5)さらなる因子(高血圧の既往,糖尿病)で補正すると冠動脈疾患,心血管イベントのハザード比は減少した
・冠動脈疾患ハザード比: 1.24 (0.96–1.61)
・心血管イベント:1.14 (1.02–1.28)

6)さらなる補正後の視聴時間に時間増すことのイベント増加:冠動脈疾患1.03 (1.00–1.07) ,心血管イベント1.01 (1.00–1.03)

結論:長いテレビ鑑賞時間は,わずかだが明らかな冠動脈疾患と心血管イベントの増加に関連がある

### 文部省が企画したhe Japan Collaborative Cohort Study for Evaluation of Cancer Risk sponsored by Monbusho (JACC Study) コホート研究です。参加者10万人と大規模ですので,少しの差であっても統計的に有意差がつけば明らかなな差と考えて良いと思われます。

ただ表を見ると5時間テレビを見る人当たりからイベント率がはっきり多くなり始める感じですね。6時間以上テレビを見るというのはかなり見ている人のように思われます。

コホート研究ですので,交絡因子を考える必要がありますが,BMI,喫煙,アルコール,運動時間,メンタルテスト,魚類摂取,教育レベル,睡眠時間,うつなどかなりの項目で補正されていました。

視聴時間や補正因子の多くは自己申告ですし,登録研究なりの限界は当然ありとした上で,生活習慣と心血管イベントとの密接な関係がある
と受け止めておきます。

$$$ 昨夜来,仙台では大雨となリ,各地で被害が発生しました。幸い当院は被害もなく,診療を行うことが出来ました。1日も早い復興をお祈り申し上げます。
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この絵はヘレン・シャルフベックの「快復期」
by dobashinaika | 2015-09-11 18:41 | 虚血性心疾患 | Comments(0)

週55時間以上労働は脳卒中や冠動脈疾患リスクを高める:Lancet誌

Long working hours and risk of coronary heart disease and stroke: a systematic review and meta-analysis of published and unpublished data for 603 838 individuals
Mika Kivimäki et al
Lancet Published Online: 19 August 2015


目的;長時間労働は心血管イベントリスクを高めるのか?

方法:メタ解析

結果:
1)25研究。虚血性心疾患アウトカム603,838例、脳卒中アウトカム528,908例

2)虚血性心疾患4768件(8.5年)、脳卒中1722件(7.2年)

3)長時間労働(55時間/週)は標準労働(35〜40時間/週)に比べ、虚血性心疾患1,13倍(1.02〜1.26, p=0.02)、脳卒中1.33倍(1.11〜1.61, p=0.002)

4)他の因子で補正ても脳卒中リスクは変化なし

5)労働時間とリスクには量ー反応関係あり:ハザード比=労働時間41〜48時間1.10、49〜54時間1.27、55時間以上1.33

結論;長時間労働は、標準労働に比べ脳卒中のリスクを高める。その相関は冠動脈疾患では弱まる。長時間労働ではより血管リスクの管理に注意が必要

### 週55時間だと、週休2日として1日11時間労働です。多くの医療者はこれに引っかかりそうですね。特に脳卒中に関係有りということは、血圧がやはり絡んでるのかと思われます。またストレスもより直接的には脳血管に悪影響があるのかもしれません。

気をつけないと

$$$ 今日のにゃんこ。
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by dobashinaika | 2015-08-20 23:18 | 虚血性心疾患 | Comments(0)

メンタルストレスによる心筋虚血は運動誘発性よりも多く、女性、未婚男性、独居者で特に多い(再掲)

ここ数日、かなり以前(2013年2月14日)に書いたブログへのアクセス数が急増しておりますので
改めて再掲させていただきます。

狭心症は、運動で誘発されるのは言わずもがなのことですが、メンタルストレスのほうが誘因としては多いということが示唆されています。

(2013年2月14日 ブログ再掲)
メンタルストレスによる心筋虚血は運動誘発性よりも多く、女性、未婚男性、独居者で特に多い

JACC 2月19日号より

Prevalence and Clinical Characteristics of Mental Stress–Induced Myocardial Ischemia in Patients With Coronary Heart Disease
J Am Coll Cardiol. 2013;61(7):714-722. doi:10.1016/j.jacc.2012.11.037

心房細動の話題ではないのですが、興味深い論文だったのでさらっと紹介します。

【疑問】メンタルストレスによって誘発される心筋虚血の有病率と臨床的特徴は何か?

【方法】
・ 安定狭心症患者310人
・ 3つのメンタルストレステスト:1)暗算 2)鏡に映った画像を書き写す 3)怒りを誘発するような演説を連続施行後にトレッドミルテスト施行
・ メンタルストレステスト前β遮断薬は中止
・ 各テスト後にエコーおよび心電図で真菌虚血を評価

【結果】
1)メンタルストレスによる心筋虚血:43.45%vs. 運動による虚血33.79%(p=0.002)

2)女性(オッズ比1.88)、独身(オッズ比1.99)、一人暮らし(オッズ比2.24)においてメンタルストレス誘発性虚血多し

3)多変量解析では、未婚男性(オッズ比2.57)、既婚女性(3.18)、一人暮らしにおいてメンタルストレス誘発性虚血多し

【結論】メンタルストレス誘発性心筋虚血は、運動誘発性虚血よりも一般的。女性、未婚男性、一人暮らしで特に多い。

### 非常に説得力ある内容ですね。特に一人暮らし、独身男性で心筋梗塞が多いことは、循環器専門医の共通認識かと思います。原因がメンタルストレスであることが科学的にも示され納得することしきりです。

暗算とか鏡に映った像の書写など等で、イライラしやすい、怒りっぽいというのはやはり要注意ですね。このような方にはβ遮断薬が有効なのでしょう.
by dobashinaika | 2015-08-14 22:57 | 虚血性心疾患 | Comments(0)

安定狭心症では患者との情報共有が進むほどカテーテル検査を受けない人が増える:JAMAIM誌

Informed Decision Making for Percutaneous Coronary Intervention for Stable Coronary DiseaseMichael B. Rothberg et al
JAMA Intern Med. doi:10.1001/jamainternmed.2015.1657
Published onlineMay 18, 2015


休みの日なので、心房細動以外で最近目についた論文について。

目的:安定狭心症の冠動脈形成術をするかどうかの意思決定の際、どの程度情報共通下での意思決定が行われているかを検討

方法:
・the Verilogue Point-of-Practice Databaseという米国のデータベースに登録している600人の医師のうち、研究に協力してくれる循環器科医の外来対象
・安定狭心症患者のPCI(経皮的冠動脈形成術)の意思決定の際の患者との会話を記録
・以下の7項目が会話に含まれているかを研究委員会内の2つのチームが評価
1)患者の役割の検討 2)臨床的な問題や(疾患の)自然経過を提示 3)代替案を検討 4)代替案の長所欠点を検討 5)意思決定の不確かさを検討 6)患者の理解度の検討 7)患者の好みの検討

結果:
1)23の医師、59の会話

2)全7項目を満たすケース:2例3%。

4)冠動脈造影及びPCIを施行しない方向に働く項目
・不確かさ:オッズ比20.5
・患者の役割:5.3
・代替案:9.5
・患者の好みの評価:4.8

5)胸痛の存在や重症度は検査およびPCIの施行には無関係

6)項目が多くなるほど冠動脈造影やOCIを施行しない方向に傾く:1つの項目増加ごとにオッズ比3.2増加

結論:安定狭心症における医師と患者の会話において、情報共通下での意思決定はしばしば不十分。より詳しい意思決定を行うほど、血管造影やPCIはしない方向に傾く。

### 各項目の会話例が示されており、例えば「不確かさ」を伝えるというのは、穿刺や造影剤によるリスクを確率で示すような会話です。「役割」では、「まず薬を飲んで症状が落ち着けばそのままだし、落ち着かなければその症状を言っていただいた上でカテーテルになります」といった具合です。

こういうことを言われればまず患者さんは、カテーテルより薬剤でということになるのは、当然かもしれません。上記7項目のうち「(カテーテルをしなかった場合の)自然経過」だけがカテーテルをすることのオッズ比が大きかったとのことです。

ちょっと不思議に思ったのは、「カテーテルをしないリスクとした場合のリスクの比較」という項目がないことですね。これが一番大切なように思われますが。例えば心房細動の抗凝固薬では、この情報が意思決定に最も大きい項目と思われます。安定狭心症患者ではPCIの薬物療法に対するベネフィットは確立されていませんので、このような結果は納得ですが、抗凝固療法ではどうなのかが知りたいところです。

$$$ 久々に休みの朝はゆっくり広瀬川まで散歩しました。街なかからすぐのところにこういう自然があるのは、考えてみれば幸せかもしれないなあと思います。
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by dobashinaika | 2015-05-31 22:48 | 虚血性心疾患 | Comments(0)

PCI前の出血リスク評価が出血回避策施行と出血率低下につながる:BMJのある意味画期的な論文

Precision medicine to improve use of bleeding avoidance strategies and reduce bleeding in patients undergoing percutaneous coronary intervention: prospective cohort study before and after implementation of personalized bleeding risks.
John A Spertus et al
BMJ (Clinical research ed.). 2015;350;h1302. doi: 10.1136/bmj.h1302.


目的:経皮的冠動脈形成術(PCI)施行患者において事前の出血リスク評価が、出血回避策実施の改善及び出血減少につながるかどうかを検証

デザイン:リスク層別化前後で、出血回避策施行の有無と出血率を比較する前向きコホート研究

セッティング:米国の9病院

参加者:ST上昇型心筋梗塞(STEMI)でPCI予定の患者

主要評価項目:出血リスク層別化ごとに出血回避策としてbivalirudin投与、撓骨動脈アプローチ、血管閉鎖デバイスの使用。周術期の出血率。対照群はリスク層別化を思考していない1135病院のプールデータ。出血回避策についても病院レベル、医師のレベルの多様性も評価

結果:
1)術前評価非施行例7408例、施行例3529例

2)手術部位出血回避策実施率:評価施行例の日施行例に対するオッズ比:1.81 (1.44-2.27)

3)高リスク患者の実施率増加(オッズ比2.03)は低リスク患者(オッズ比1.41)より有意に大

4)手術部位の出血:評価施行例1.0% vs. 非施行令1,7%:オッズ比0.56(0.40〜0.78)
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5)出血率低下は高リスク例ほど顕著

6)出血回避策は病院間、医師間でばらつきが大きい。

結論:事前の前向きで個別の出血リスク評価は出血回避策施行率上昇及び出血率低下に関連した。病院間、医師間の格差はそれの是正、安全性、ケアの室改善の重要性を示唆している。

### あえてPCI関連の論文を取り上げましたが、この論文、ある意味画期的でおそらく最近では最もインパクトのある論文と言っても過言ではないと個人的に考えましたので、取り上げました(日本循環器学会で香坂先生も"記念碑的"とおっしゃっておられました)。

さらっと読むと、出血リスクの評価をしたほうが、しない場合に比べて、出血への対策をきちんとするので出血率も下がるというもので、当然かと思われます。しかしよく考えますと、実際に、事前のリスク評価を行う群と行わなかった群とを比較して、その評価が医師の行動変容を促し、なおかつアウトカムを良くしたというような検証研究はこれまでそうそうないと思われます。

たとえば心房細動。CHADS2スコアあるいは出血リスクですとHAS-BLEDスコアですが、こうしたスコアは各種ガイドラインでも全面的に推奨されていますが、実際は点数別の塞栓率とか出血率しか明らかではありません。しかも対象は元論文のコホートのみです。実際にCHADS2スコアを使った群と使わずに経験的に行った群とを比較して、抗凝固療法の施行実施率及び塞栓、出血率などのアウトカムを比較した研究は皆無と思われます。

CHADS2スコアを無視して抗凝固をしたら、絶対塞栓症も出血率も増えると思われるかもしれませんが、しかしながら、最近のの日本の大規模コホートでは、必ずしも低リスク例の血栓塞栓率が高くないことが示されています。昔のデータで算出されたCHADS2スコアが、今の日本でどの程度アウトカムに寄与しているのか、実はわかっていないとも思われます。

高血圧ガイドラインにしても、血清脂質のガイドラインにしても同じで、血圧やLDLコレステロール値がこのくらいの集団の予後はどの程度というのは算出されていますし、また降圧薬やスタチンでここまで下げるとアウトカムはこのくらいというのもエビデンスとして出されることはあります。しかしながら、治療前のリスク評価が医師の処方内容に影響し、しかもアウトカムを良くしたという、リスク評価の有効性の検証が行われたことは稀有のように思われます。

それにしてもこのグラフは非常に印象的です。リスクをきちんと評価した場合は、低リスクで抗凝固薬を使用せず高リスクで使用する医師が増えている一方、最初から最後まで全く使わない、あるいはかならず使う医師が一定数いることも示しています。
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実際問題として、この病院間、医師間のばらつきが最大の問題かと思われます。

最近特にCHADS2スコアの特に低リスクでの(日本での)妥当性に問題意識を持っているところなので、こうしたリスク層別化の検証は大切であるなあと再認識しました。

$$$ こちら今日昭和の日のあおば通。いよいよ新緑。杜の都が一番輝く季節がやって来ました。
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by dobashinaika | 2015-04-29 22:12 | 虚血性心疾患 | Comments(0)

循環器の全国学会中の心不全、心停止例死亡率は学会期間中以外よりも低い:JAMAIM誌

Mortality and Treatment Patterns Among Patients Hospitalized With Acute Cardiovascular Conditions During Dates of National Cardiology Meetings
Anupam B. Jena et al
JAMA Intern Med. Published online December 22, 2014. doi:10.1001/jamainternmed.2014.6781


重要性:多くの医師が毎年学術会議に出席する。病院医師の人員や構成に影響があると思われるが、学会期間中の患者アウトカムと治療法については知られていない。

目的;(米国の)全国的な学会期間中に急性心疾患で入院した患者の死亡率と治療法を非学会期と比較する
デザイン、セッティング、対象:
・メディケアデータから、急性心筋梗塞、心不全、心停止で2002〜2011年の2つの全国的循環器学会中に入院した患者の30日間死亡率を、非学会期間(学会前後3週間での学会と同じ日数)のと比較する。
・発症数は急性心筋梗塞8570(学会期間82日で8570例、非学会期間492日で57471例)、心不全(学会期間19282例、非学会期間114591例)、心停止
(学会期間1546例、非学会期間9580例)
・教育病院=非教育病院、低リスク=高リスク別に多変量解析
・治療法の違いを解析

介入:循環器学会機関の入院

主要アウトカム:30日間死亡率、手技率、費用、在院日数

結果:
1)患者背景同じ

2)教育病院:心不全、心停止の補正後死亡率は高リスク例では、学会期間中のほうが非学会期間中より低い
心不全:7.5% [95% CI, 13.7%-21.2%] vs 24.8% [95% CI, 22.9%-26.6%]; P < .001     心停止:59.1% [95% CI, 51.4%-66.8%] vs 69.4% [95% CI, 66.2%-72.6%];P = .01)

3)心筋梗塞は同等:39.2% [95% CI, 31.8%-46.6%] vs 38.5% [95% CI, 35.0%-42.0%]; P = .86

4)PCI施行率は学会期間中のほうが少ない:20.8% vs 28.2%; P = .02

5)教育病院での低リスク例、及び非教育病院での低/高リスク例では死亡率、施行率の差はなし

6)感度分析では心死亡率はがん学会、消化器学会、整形外科学会期間においても差はなく、循環器系学会中の消化管出血、骨盤骨折の死亡率も変化なし

結論:教育病院での高リスク患者の心不全あるいは心停止入院患者の30日間死亡率は、循環器学会期間中のほうが、非学会期間中より低かった。教育病院においては学会期間中の心筋梗塞の高リスク患者は、死亡率には差がないが、PCI施行率は非学会期間により少なくなる

###これは驚きというか、面白い論文です。研修医がいるような教育病院では、心不全と心停止の死亡率が学会期間中のほうが低かったという、ある意味想定外の結果です。また心筋梗塞へのPCIの施行率はまあ当然少なくなりはしますが、それでも死亡率に差がなかったというのも、興味深い点です。心臓病になるなら大きな学会期間中に教育病院に入院するのが良い?とまで極論したくなるかもしれません。

理由は何でしょうか。教育病院なので、学会期間中は指導医は学会に行くでしょうからスタッフ的には手薄になると思いがちですが。たしかに教授や部長クラスは期間中べったり行くのかもしれませんが、その下の実働部隊は日替わりで帰ってきたり、また留守番組にも中堅の先生が配されたするかもしれません。

またスタッフが手薄ということで、心不全や心停止回復例のような非侵襲的治療では残された医師が返って一生懸命献身的にやるからなどが推測されますかね。

まあ、後ろ向き研究であり、メディケアのデータですのでリスクの定義、教育病院への入院患者背景の違いなど様々なバイアスは想定されます。
心不全死亡率など7.5%と24.8%とかなり違うのにもびっくりします。症例数の桁が違うとはいえ。

2つの学会はAHAとACCですが、日本最大級の学会である日本循環器学会はどうなのか、ぜひとも知りたいですね。

$$$クリスマスだったんですね。今気が付きました(笑)。ふさわしい写真がないので雪の柿の木でお茶濁し。
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by dobashinaika | 2014-12-24 22:23 | 虚血性心疾患 | Comments(0)

JAMA誌の高齢者の脂質異常症診療に関する総説。参考になります。

JAMA 2014;312:1136-1144.
Evaluation and Treatment of Older Patients With Hypercholesterolemia: A Clinical Review


JAMAに高齢者の脂質異常症診療に関する総説が掲載されています。
さいわいJournal scanというサイトで、10の要点にまとめていますので、ご紹介します。

1.西洋では多くのひとが平均80歳を超えるライフスパンを持つ。OECD2010のデータでは米国の80歳男子はあと8.1年、女性は9.7年余命がある。

2.動脈硬化性心血管疾患の予防は遅いと効果が無いか低い

3.現時点で、80歳以上の人にスタチンを処方するか否かを決める際、冠動脈カルシウムスコアや頸動脈MITからの情報に追加するデータはない

4.現在、血漿ホモシステイン値が高齢者の動脈硬化性心疾患予防と関連ありとのデータが有る。70〜82歳の人対象にプラセボとプラバスタチンを無作為化比較したPROSPER試験では、高コレステロールの人で1つの冠動脈イベントに対すNNTは14.8(3,2年)だが、低コレステロールでは64.5

5.現在、80歳以上のひとでスタチンあるいは他の脂質低下薬の使用を支持するRCTはない。75〜80歳のRSTや登録研究からは、二次予防や糖尿病のひとには有効との所見あり

6.75〜80歳の動脈硬化性心血管疾患減少を示すRCTはある。そのためACC/AHAガイドラインでは既にスタチンを服用している75歳上のひとは同薬を継続することを支持している

7.75歳以上の人に、一次予防としてスタチンを初めて処方することは推奨されない

8.高齢者では特にモニタリングは推奨されない。しかしながら、加齢、合併症、薬剤多用、脆弱性増加に伴いイベントリスクは増加する。肝逸脱酵素、CK、血糖の閾値は低くするよう求められる

9.高齢者ではスタチンによる有害事象は増えないので、一次予防としての使用は可能ではある。80歳以上のひとは余命の差に応じて生物学的に多様であり、脆弱性、多剤併用なので、スタチン仕様の決定は個別的であるべき

10. 高齢者にスタチンを考える際は様々な因子を考えるべき。余命、合併症、心血管疾患のリスク、多剤併用を考えるべき

### これは勉強になります。80歳以上の方にスタチンを処方すべきかどうか。これまでずっと出しているひとをどうするか。ある意味アポリア(難問)だったんですが、クリアカットに教えてもらった感じです。

・75〜80歳のひとは、これまで出している場合は継続で良い。一次予防で新たに出す必要はない。

・80歳以上のひとで、二次予防や糖尿病の人ではスタチンを出しても良い

・出す場合のチェックポイントは、「余命、合併症、他のリスク、多剤併用」


このパール群自体守ることで多剤併用を防げそうです。
by dobashinaika | 2014-09-26 11:28 | 虚血性心疾患 | Comments(0)

心臓以外の手術時における心電図や心機能評価に関するガイドライン(米国):Circulation誌

米国の心臓関係の学会(ACC/AHA)から、心臓手術以外の手術時に心臓をどの程度評価すべきかについてのガイドラインが発表されました。

2014 ACC/AHA Guideline on Perioperative Cardiovascular Evaluation and Management of Patients Undergoing Noncardiac Surgery: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines

とかく小さな手術であれ、心電図や場合によっては心エコーなどを施行されることがよくありますが、どこまでが必要なのか迷うこともよくあります。そうした場合の指針として読みたいと思います。
とりあえずエッセンスの表を紹介します。

<前提>
・推奨度:クラスI=「すべき」、クラスIIa=「推奨」、クラスIIb=「考慮してよい」、クラスIII=「利益なし、または害」
・エビレンスレベル:A=多数の対象での評価(多数のRCTまたはメタ解析)、B=限定的な対象での評価(一つのRCTまたは非無作為化試験)、C=非常な対象での評価(専門会の意見、ケーススタディ、標準的ケア)
・「低リスク手術」:心イベントあるいは死亡リスクが1%未満、例として白内障手術、形成術
「上昇リスク=中〜高リスク」:上記リスク1%以上、上記以外の手術

<12誘導心電図>
・既知の冠動脈疾患あるいは器質的心疾患のある人。ただし低リスク手術をのぞく:推奨度 IIa、エビデンスレベルB
・無症候性患者。ただし低リスク手術をのぞく:推奨度 IIb、レベルB
・低リスク手術における常習的な12誘導心電図:推奨度 III(利益なし)、レベルB

<左室機能評価(心エコーなど)>
・原因不明の息切れ。推奨度IIa、レベルC
・悪化する呼吸困難あるいは臨床状態の変化する心不全を有する患者:推奨度IIa、レベルC
・臨床的に安定している患者の再評価:推奨度IIb、レベルC
・常習的な左室機能評価:推奨度III(利益なし)、レベルB

<運動負荷心電図>
・高リスクで心機能のよい患者:推奨度IIa、レベルB
・高リスクで心機能不明患者(管理法が変わる場合):推奨度IIb、レベルB
・高リスクで心機能中〜良:推奨度IIb、レベルB
・高リスクで心機能低下または不明(心筋虚血評価のための画像診断);推奨度IIb、レベルC
・低リスク手術への常習的な運動負荷心電図:推奨度III(利益なし)、レベルB

<心肺負荷試験>
・高リスク患者:推奨度IIb、レベルB

<非侵襲的薬物負荷試験>
・高リスクで低心機能(ドブタミン負荷、心筋シンチ):推奨度Iia、レベルB
・低リスク手術での常習的は薬物負荷:推奨度III(利益なし)、レベルB

<冠動脈造影>
・常習的冠動脈造影:推奨度III(利益なし)、レベルC

### 昨今話題の”Choosing Wisely"に通じるガイドラインですね。特に白内障や皮膚形成術のような低リスク手術では心電図を取らない。画一的に心エコーや運動負荷をしない、ということが一番注目したい点だと思います。

しかしながら日本の現場では、こうした「念のため」あるいは「何かあったときのため」あるいは「昔からやっているから」などなどの理由から、まさに常習的画一的に、手術前に心電図や心エコーなどを施行してるケースは莫大かと思われます。こうした検査を省くことによるコスト減も結構莫大ではないでしょうか。

低リスク手術時に相談をする医師、あるいはそれを受ける開業医も含めたすべての医師に、再考を促すものかと思います。

(サマリーの図がいいのですがPDFのため、後日アップします)
by dobashinaika | 2014-08-25 15:46 | 虚血性心疾患 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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