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主要評価項目がポジティブ。それで十分か?:NEJMから論文の読み方指南


The Primary Outcome Is Positive — Is That Good Enough?
N Engl J Med 2016; 375:971-979

NEJMからクリニカルトライアルの結果がポジティブのときどう考えればよいのか,についての指南がでています。

各論で様々な循環器系のトライアルの解釈法が示されており,こちらが圧巻です。製薬企業からのPRや講演会では触れられないような”不都合な真実”が次々と紹介されており,思わず全文読んでしまいました。

ACCのメーリングリストで10のポイントにまとまっていますので,論文紹介を本文から改変挿入し紹介します。
Primary Outcome in Clinical Trials and Clinical Significance
Sep 08, 2016 | Debabrata Mukherjee, MD, FACC

1.主要評価項目が統計的有意差の持つことは,新しい治療法が受け入れられるための典型的な必要条件である。しかし十分ではない。

2.臨床試験の総合的判断は多くのステークホルダー,たとえば(試験の)統制者,読者,雑誌編集者,査読者,専門家,ガイドライン作成委員会,医師,患者,批評家らによって吟味される。

3.提示された所見が実臨床のプラクティスに影響を与えるに十分なエビデンス足り得るかを決めるには,そのデータのより深い解釈と早期の追試験が必要である。
→例:CAST試験では不整脈治療が死亡率を増加させるという予期せぬ有害事象を明らかにした。

4.以下のキークエスチョンに答えることが,どの”ポジティブ”試験が実臨床のプラクティスを向上させるにたるのかの判断の一助となる。

P<0.05は十分に強いエビデンスを提供しているか:P値は偽陽性率を表すので,効果がより疑わしい場合より小さなP値が必要なことあり。
→PARADIGM-HF(sacubitril–valsartan versus enalapril,心血管死または心不全入院):P<0.00001でありsacubitril–valsartanの保険償還が認められた。
→SPAINT I(NXY-059 versus placebo,急性虚血性脳卒中の機能回復):P=0.038,追試では否定(P=0.33)

・治療のベネフィットの大きさはどのくらいか?:相対リスクだけでなく絶対リスクも明らかに改善しているかを検討。
→IMPROVE-IT(ezetimibe vs placebo,ACS患者の予後,スタチンに上乗せ):ハザード比0.94 (95%CI, 0.89 to 0.98; P=0.016)だが,4年間のイベント差は32.7%vs 34.7%で2%しか違わない→FDAは心血管イベント減少ヘの適応拡大を認可せず
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・その主要評価項目は臨床的に重要か?:
<サロゲートアウトカム>
→ACCORD(糖尿病強化療法vs 標準治療):HbA1cは減少,だが心血管イベントは低下せず,死亡率はむしろ上昇
→LIDO(levosimendan vs dobutamine,心不全治療);血行動態の改善があり多くの国で認可されたが,より大規模なSURVIVEでは死亡率に有意差なし。FDAは認可せず。
<複合アウトカム>
→RITA-3(ACSに対するインターベンションvs保存的治療):複合アウトカムは9.6% vs.14.5%, P=0.001.その年のECSでは”インターベンションが命を救う最初の証拠”と紹介されたが,実際有意な改善は狭心症の比率のみ。心筋梗塞,死亡率に差はなし。ただしその後の追跡調査やメタ解析では予後改善効果あり。
→EXPEDITION(cariporide versus placebo,バイパス術後患者):複合アウトカムはP=0.0002。しかしながら心筋梗塞は減ったが(P=0.000005),死亡率,心血管イベントはむしろ増加(P=0.02,P<0.001)

副次評価項目は(主要評価項目を)支持するものか?
→ SAINT I(上記):副次評価項目である機能回復スコアは改善せず
→対象的にEMPA-REG OUTCOME(empagliflozin versus place,糖尿病):複合アウトカムは 0.86 (95% CI, 0.74 to 0.99; P=0.04)でギリギリ.しかしこの結果は心血管イベントのみ(0.62; 95% CI, 0.49 to 0.77; P<0.001),全死亡 (P<0.001),心不全入院(P=0.002)でより効果の増大が見られた。

・主要な所見は,重要なサブグループでも同様か?
→PLATO( ticagrelor than with clopidogrel,ACS);複合アウトカムはチカグレロル>クロピドグレルだが,アスピリン高用量ではチカグレロルが劣位。低用量では優位
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・その試験は信頼するに十分な大きさか?

・安全はポジティブ効果を釣り合っているか?

・リスクベネフィットバランスは患者特異的なものか?

・試験デザインや運用に致命的欠陥はないか?

・その所見は自分音患者に適応できるか?

5.もし効果と安全性の評価項目が説得力のあるものであれば,次のステップとしては全体の質と内的妥当性の評価である。

6.その所見はリアルワールドの治療効果(+ネットクリニカルベネフィット)に応用できるか?

7.異なるタイプのヘルスケアシステムにかかわらず費用対効果を算定することは,(実際の治療への)どの程度寄与するか(その後の新治療適用に影響する)の決定につながる。

8.そのエビデンスがケアの大きな進歩となるか,またはより進んだ試験を必要性を警鐘するようなものかを決めるには,様々なステークホルダーによるエビデンスへの包括的アプローチが必要である。

9.ガイドライン作成委員会は知識ベースの統合と,新治療のためのエビデンスの強度層別化のために重要な役割を担う。その推奨は臨床に強い影響を与える。

10. しかし,結局はポイントオブケアを担う医師が,それぞれの患者に最善の意思決定を追うために,クリニカルトライアルを正確に読み解く責任を負う。また保険上あるいはガイドライン上の推奨を統合する責任を負う。

### もっとたくさん論文実例が紹介されて面白いのですが,個人的労力としてこの辺まで。気が向いたらまた訳します。
一つの論文がポジティブデータだったとしてもそれだけで臨床判断を急ぐべきでない。後人の解釈や追試,ガイドラインなどの評価が最終的には必要,という真っ当な視点かと思います。

$$$ 某施設の横を歩いていたらこの張り紙。全部の窓に貼ってあり,即退散しました。
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by dobashinaika | 2016-09-16 23:42 | EBM | Comments(0)

システマティックレビューの86%で全ての有害事象データが報告されていない:BMJ誌

Selective reporting bias of harm outcomes within studies: findings from a cohort of systematic reviews
Pooja Saini et al
BMJ 2014;349:g6501


疑問:システマティックレビューでの報告バイアスはどのくらいあるのか?

デザイン:2つのデータベースに由来するシステマティックレビューのコホート研究

セティング:Outcome Reporting Bias in Trials (ORBIT) II

対象:92のRCTのシステマティックレビュー:2007.1〜2011.12

方法:有害事象に課するミッシングデータを13段階に分類

結果:
1)コクランコホートの86%(79/92)で主要有害事象の全データが報告されていない

2)有害事象コホートの76% (173/230)

3)単一の一次有害事象の不適切なレポートは76% (705/931)

4)有害事象コホートにおける230のレビューのうち、47%は報告されない

5)一次有害事象が報告されないサンプルでは、精緻な調査により約2/3,63%で報告バイアスが明らかにされた。

結論:少なくともひとつの的確と考えられる研究でも、有害事象の報告は欠如していたり不完全であるケースは多い。有害事象の重要性の報告と、有害事象の報告の質が一次論文でもシステマティックレビューでも要求される。

### 報告バイアスは、ネガテイブなデータが公表されないバイアスですね。例えば喫煙歴などの自己申告は、過少申告の恐れが常にあります。またプロトコールに記載されているのにもかかわらず、ネガテイブデータがでた場合、その項目は完全には報告しないか、または少し形を変えて報告されたりすることは、実は結構やられているのですね。プロトコール論文をくまなく読まないとわからないようなところなのだと思います。

コクランのシステマティックレビューにおいても86%に認められるとのことで、やっぱり論文というのはある意味”虚構”であるかもしれません。

$$$ 近くの和菓子屋さんのねこまんじゅう^^
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by dobashinaika | 2014-11-23 21:57 | EBM | Comments(0)

医学論文のソーシャルメデイアへの紹介はページビュー数に影響せず:Circulation誌

A Randomized Trial of Social Media from Circulation
Caroline S. Fox et al
Circulation 11月18日


疑問:ソーシャルメディアへの紹介は論文にインパクトを与えるのか?

方法:
・フェイスブック、ツイッターに紹介された文献を無作為抽出
・ソーシャルメデイア紹介論文vs. 非紹介論文
・一次エンドポイント:30日間のページビュー

結果:
1)243論文:ソーシャルメディア(SM)群121例、非SM群122例

2)30日以内ページビュー:SM群409、非SM群393:p=0.80

3)論文の種類(集団/臨床/基礎)は無関係

4)エディトリアルの有無、筆者が米国出身かどうかも無関係


結論;心血管系雑誌のソーシャルメディア戦略は論文のヒット数は増えない。ソーシャルメデイアが研究のインパクトを増やす方法解明にさらなる研究が必要


### 現在シカゴ(超寒いようです)で開催されております、米国心臓病学会(AHA)で発表された論考です。
今回のAHA、ネットで眺める限り、あんまりインパクトの大きな発表も少ない感じがしていましたが、これは一番楽しめました。

PDFで原著論文読みましたが、フォロワー数がわからないですが、facebookのフォロワーは25〜35歳が大半とのことです。
30日間のページビューが400前後って少ない感じですが、、、

理由の考察としては、図なども紹介されるので、かえって本論文にアプローチしなくなることが考えられますが、少なくともソーシャルメデイアなしより減ってはいないので、違うかもしれません。ツイッターなどで論文をフォローする層というのは、ずっと前から購読して読んでいるそうとはオーバーラップしないかもしれないと分析されています。

日本の場合はどうでしょうか。日本は学会主導のソーシャルメデイアはあまり見かけませんね。そのかわり、医学系メディアのホームページ、それに関連するツイッター、フェイスブックが非常に沢山目につくと思われます。そして、やはりこうしたサイトで論文要約を見てしまうとオリジナルには行かず、そこで理解したと思い込んでしまいがちです、私の場合は。

えー、それらにくらべて非常にささやかではありますが、私のブログご覧になって、原著に行かずに、済まされる方も多少はおられるかもしれませんですね。えー、特に若い先生方は、一応このブログ自体を批判的吟味して頂いて、特に興味がある論文の場合は自分の目で原著を読むことをおすすめしますね。^^

$$$今日のにゃんこ。どこにいるかわかりますか?左目に障害があるようなんです。ネコは目の病気多いそうですね。治してあげたくなりますね。

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by dobashinaika | 2014-11-19 22:34 | EBM | Comments(0)

心血管診療におけるノンアドヒアランスについての総説:EHJ誌

European Heart Journalの「心血管治療におけるノンアドヒアランス(服薬アドヒアランス不良)」についての総説

Non-adherence to cardiovascular medications* Kumaran Kolandaivelu1,2,
Benjamin B. Leiden, Patrick T. O'Gara, Deepak L. Bhatt
Eur Heart J (2014)doi:10.1093/eurheartj/ehu364


キーポイントは以下

・ノンアドヒアランスは世界的であり治療不良、アウトカム劣化のリスク因子
・ノンアドヒアランスのインパクトは治療による、特定の治療の文脈内で定義され評価される
・ノンアドヒアランスの原因は多要素であり、患者特異的である。スクリーニングツールの適応は不確定で無効と考えられる
・ノンアドヒアランスの治療は多元的で、エネルギーを使う:テーラーメイドでコラボ化されたスクリーニングが必要。それらは患者、プロバイダー、ペイヤーが費用対効果を最大限にするために必要とされる

ノンアドヒアランスはグローバルなもので、REACHレジストリーの服薬アドヒアランスは最も低い中近東で40%くらい、最高のアジアでも70%くらいです。その他主要な心血管系登録研究も、66〜78%くらいのアドヒアランスです。

また一般的にRCTのアドヒアランスは良好で、スタチンの試験で有名なWOSCOPSは75%、4Sは88%でしたが、登録研究のOntariI Databaseでは
30~40% でした。

アドヒアランスがアウトカムに及ぼす影響は薬によっても違うので一律に語れません。半減期の長い薬はそれほど影響されませんが、短い薬は致死的となることがあります。

しかしそうはいっても、トータルとして、ノンアドヒアランスの患者さんは継続して飲むひとよりアウトカムは一般的に悪いです。
PREMIER試験ではノンアドヒアランスの人の死亡率はアスピリンにおいて1.83倍、スタチンで2.86倍でした。

その原因としては、多くのものが関与しており以下が挙げられています。

治療的側面として:副作用、薬の多さ、コスト
患者の要因として:低ヘルスリテラシー、社会経済的地位、年齢、性別、宗教、地域、民族、文化的経験的信仰、メンタルヘルス
ヘルスシステムとして:エビデンスベースと解決策の欠如
プロバイダーの問題として:不敵さつなコミュニケーション、早急な判断、ポリファーマシー、文化的経験的信仰
病院の問題として:適切なスクリーングツールの欠如、サポート体制の欠如、診療時間の短さ、医師がよく変わること
保険上の問題として:医療保険がない

対策としてはこれらの克服となるわけですが、なかなかひと筋なわでは行かないようです。
教育ツールとしては昔ながらのカレンダーや薬箱から、モバイルPCアプリなどによるネットワークシステムまででており、アドヒアランスを評価するバイオマーカーも開発されています。しかしコストや複雑さなどの点から、広く普及するには至っていません。

しかしやはり患者教育はやり方によっては有効で、FAMEというトライアルでは、従来通りの方法と、マルチコンポーネントな方法(ブリスターパックの配布など)を比較し、当初2群とも従来通りの方法では5%のアドヒアランス(本当?)しかなかったのが、マルチコンポーネント法だと98.7%に増加し、それを従来通り戻すと21.7%に減り、戻さない群では97.4%だったとのことです。

まあ教育ばかりでなく、薬そのものへのモチベーション、ゴールの共有、ポリファーマシーや服薬回数の減少などの取り組みも重要と思われます。

しかし登録研究のアドヒアランスが50%未満とか良くて70%というのでは、RCTがそのまま現実世界に適応したくてもできないわけですね。
筆者の言うように、「ノンアドヒアランスはEBMを土台から崩す(undermine)」わけで、エビデンスの批判的吟味と平行して、いやこれまであまり取り組まれてこなかったので、それ以上に今後のメインテーマだろうと思います。
by dobashinaika | 2014-10-08 23:48 | EBM | Comments(0)

われわれはディオバン問題の教えをDPP4阻害薬処方に活かせるのか?

現在アムステルダムで欧州心臓病学会が開催され、NEJMにその速報が連日論文化されています。
その中でDPP4阻害薬のプラゼホ対照RCTが2本発表されていて、非常に大切と思われますのでご紹介いたします。

ひとつはsaxagliptin(オングリザ:協和発酵)で、「2.1年の追跡で心血管イベントを増やさず、減らさず。心不全は1.27倍に増やした」というもの
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1307684?query=featured_home#t=article

もうひとつはalogliprin(ネシーナ」武田薬品)で「中央値18ケ月の非劣性RCTで、心血管イベントを増やさなかった」というもの
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1305889?query=OF#t=article

どちらもHbA1cは0.3くらい下がっていますが、エンドポイントに差がないという結果でした。
追跡期間が短い、下がりが悪い場合併用薬が許されているなどのlimitationがあります。しかしながら、なおかつこの2試験はかなり重要な問題を我々につきつけるように思われます。

DPP4阻害薬は、今や患者ベースでシェア5割を超え新規患者の6割以上に処方されるとも言われています。
https://www.mixonline.jp/Article/tabid/55/artid/44370/Default.aspx

各製薬会社のセールス、講演会その他プロパガンダが非常に目立つことは医療従事者であれば誰もが実感していることと思います。

しかしながら、これまでメタ解析やサブ解析では心血管イベント抑制のアウトカムは認められていたものの、プラセボ対照の前向き試験でのアウトカムはほとんどありませんでした。

今回追跡期間は短いながら、「非劣性しか証明できなかった」「心不全を増やすというadverse effectの可能性が示唆された」ことは、広く医療者が知るべきだと思われます。

確かにDPP4阻害薬は、効果と安全性のバランスは一見取れており、1日1回のものは使いやすく、糖尿病治療においては一定の利用価値はあるのかもしれません。

それでもなお今回のペーパーを読むにつけ、シェア第1位、第1選択薬の地位に値するような信頼性と妥当性を獲得している薬なのかということに関してはもう少し十分な知見の蓄積と時間が必要のように思われます。

DPP4阻害薬について、その一見した使いやすさ、安全なイメージから一歩引いて、われわれはもう少し待ちの姿勢を意識してもいいのではないかと思います。

イメージに惑わされない。広告に惑わされず、自分の頭で考える。
これはつい最近のディオバン問題、あるいはプラザキサのブルーレターの時に我々が学んだばかりのことだと思います。
その教訓を生かしたいものです。
by dobashinaika | 2013-09-03 22:57 | EBM | Comments(0)

プライマリケア医の臨床研究 いつやるか?今でしょ!:医学界新聞(5月6日号)を読んで

5月6日付けの週刊医学界新聞の座談会「いつやるか? “今”でしょ! プライマリ・ケア医への臨床研究のススメ」は大変刺激になりました.(医学書院のサイトへは5月6日にアップされるようです)

プライマリケアの現場でも、というかプライマリケアだからこそ、湧き出てくる臨床上の疑問というのは当然ながらある訳ですが、かならずしもそれに答えてくれるエビデンスがそろっている訳では全然ないです.

たとえば私が関わっている心房細動の抗凝固療法でも、病院勤務医だった頃は、患者さんは月1回の予約となっていて、たとえば腕に青あざ(内出血)が大きく出たとしても、いつでも受診できる開業医よりは受診に対する敷居は病院の方が高いと思われます.そうしたことが、ワーファリンコントロールや出血リスクにどう影響を与えるのだろう、なんて開業したての頃考えたものです.

あるいは、病院勤務とプライマリケアで違う点として、受付事務員や看護師の関与があります.長く開業医にかかっていると、事務員も看護師も顔見知りになっていて、受付のときや、採血のときの世間話を楽しみに来られる人も少なくありません.そうした医師以外のスタッフとのコミュニケーションからたとえば服薬アドヒアランスの低下がわかったり、ご家族内の情報などから血圧上昇の理由がわかったりすることがあります。それが臨床上のアウトカムにまで影響するのだろうか、というふうに考えると、コメディカルの何気ない日常業務が俄然意味や輝きを帯びてくるように思われます。

このような日々の診療から湧き出る、そしてプライマリケアならではの疑問について、それをリサーチという形に結びつけるには、開業医のソロプラクティスではあまりに脆弱でとてもインパクトの高い論文までの成果が望めないのが実情でした(少なくとも私の実感では).まずソロプラクティスでは症例数が少ない.なかなか論文化するのにまとまったnをかせげません。またリサーチデザインや結果のピアレビューもありませんし、なによりリサーチを遂行して行く時間もマンパワーもありません.

私も、上記のような疑問を解決したいと考え、「患者さんの解釈モデルを聞くことが心房細動診療のアウトカム改善につながるか」というリサーチクエスチョンを立て、一応論文まで書きました。本当はここから質的研究などにつなげて行きたいのですが、なかなか時間的人的制約があり、思うように行きませんが.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jse/31/2/31_2_127/_article/-char/ja/

病院勤務医時代ですと、ある疾患に特化してのデータはむしろ大学病院などより取りやすく、またある程度のマンパワーもありましたので、臨床研究は(私の場合)くみしやすかったと思います.学位も心房細動に関する臨床研究で取ったりもしました.こうしたリサーチに適した環境をプライマリケア現場で一人で維持するのはかなりの困難があると思います.

この座談会で紹介されている藤沼康樹先生のCFMD(医療福祉生協家庭医療学開発センター)で立ち上げられたPBRN(Practice Based Research Network)にみられるような、ネットワーク構築がまさしく必要な訳です.
このネットワークをモデルケースとして全国のプライマリケア医が各地で島宇宙のようなネットワークを形成しながら実践的エビデンスを積み上げて行くような状況ができれば素敵だ、と一人わくわくしてしまいました.

自分が携わった、一人一人の顔やご家族まで思い出すことのできる患者さんの直接のデータを用いて、なにがしかのことがわかって行く感覚は、なかなかに得がたく、論文としてまとまったときの達成感は勤務医時代の比ではなかったように思います。そうした成果や、専門医とは違ったプライマリケア医としての視点を医師会の勉強会などで紹介することにしていますが、同じプライマリケア医どうし、あるいは専門医の先生とも視点を共有することで、あらたな臨床上の疑問が生じ、リサーチにつながることもあります。

プライマリケアでのリサーチクエスチョンは、必ずしもアウトカム志向でなくても良いように思います.たとえば、上記のように、採血のときの世間話が血圧管理に一役買った、などというアウトカムは期待しない方が良いかもしれません.そうでなくて、そうした世間話を患者さんがどう思ったのか、どう感じたのか、医師に対する話しとはとどんなところが違うのか、一緒についていらしたご家族はそうした話しをどう思っているのか、などなどのことは生物学的アウトカムとは関係ない、でも私としては知っておきたい気がします.

そうした問いのリサーチはやはり質的研究の手法が大切になると思います.
この座談会にインスパイヤされましたので、老化したリサーチマインドにむち打って、ちょっとまたいろいろやりたいなと思い始めた次第です.
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by dobashinaika | 2013-05-02 00:35 | EBM | Comments(2)

電子カルテ時代のEBM: NEJMの"Perspective"より

NEJM 11月2日オンライン版より

Evidence-Based Medicine in the EMR Era

電子カルテ時代のEBM

・RCTの重要性が強調されるが、その選択および除外基準の厳しさ故に実臨床に適応しにくい場合が多い
・このような時はエビデンズレベルIII~Vの専門家の意見や確かな情報に頼りがち

・例えば13歳女性のSLE/ネフローゼレベルの尿タンパク、抗リン脂質抗体、膵炎あり。このような複雑な症例に対する抗凝固療法のスタディを見つけることはできない

・そこで筆者らは、スタンフォード大学病院の電子カルテ情報を革新的リサーチデータベースとして用いる新しいアプローチを行った
・Stanford Translational Research Integrated Database Environment (STRIDE)と呼ばれるプラットフォームは、同大学のすべての患者の電子カルテ情報を含み、迅速なテキスト検索能力を提供している・筆者らはそのデータベースで、2004年から2009年まで同施設の臨床医によってケアされたSLEコホートのデータを素早く検索することができた
・この小児SLEコホート98人のうち10人が血栓症を発症したことが電子カルテ上に記載されていた。この有病率は蛋白尿を膵炎を持つ患者でより高かった。
・同コホートの血栓症率はネフローゼ合併例で14.7%、膵炎合併例で11.8%だった
・こうしたコホートの検索は4時間で終了し、入院24時間以内に抗凝固療法の意思決定ができた

・こうした新しいプロセスは、より標準化、洗練化されるだろう
・既にいくつかの取り組みも報告されている

###RCTの外的妥当性が乏しくて、実臨床に使えない。この大問題を解くための試みがいわゆるtranslational researchと言われるもので、その中でもRCT→リアルワールドへの橋渡しとなる研究はT2リサーチと呼ばれているそうです。
ここに紹介されたような大きな医療施設での電子カルテデータベースの中からコホートを作成して、これまでのリアルワールドでの実績をエビデンスとして利用するというのはある意味新しい方法ですが、まず症例数に関して、この大学病院のように相当数のnが必要であると思われます。日本では大学病院や大きな総合病院などでは可能と思われますが、中規模市中病院あるいは診療所レベルとなると電子カルテソフトは様々ですし、データの共有化は全くなされていません。
今後こうしたリアルワールドのEBMの蓄積を視野に入れた情報管理、情報共有の必要性を痛感させられます。

もう1点、こうしたデータベースでの治療内容の妥当性をどのように担保するのかが問題かと思います。リアルワールドの治療がどの程度エビデンスに則していたのか、ガイドラインから逸脱していなかったか、そういった検証の更新を継続的にして行くことが要求されるかもしれません。

日本では、私の知る限り、名郷直樹先生の施設ですでに同じような取り組みが始まっています。より多くの施設による情報の蓄積が期待されると思います。
by dobashinaika | 2011-11-03 23:22 | EBM | Comments(0)

医療情報を正しく読むには

11月27日(金)は、心臓血管病の勉強会、第6回東北CVRMフォーラムに出席しました。今日は、琉球大学大学院臨床薬理学教授・植田真一郎先生の講演を拝聴しました。

by dobashinaika | 2009-11-29 14:07 | EBM

ガイドライン~この恣意的なるもの~

宮台真司「日本の難点」を読んだ、といっても発売日と同時に購入し、あちこちつまみ読みしていたので実際は何回読んだかわからないといった方がよい。この本のエッセンスは「はじめに」にある「恣意性からコミットメントへ」である。いわゆるポストモダンといわれる時代においては「みんなとは誰か」「われわれとは誰か」「日本人とは誰か」という線引きが偶発的で便宜的なものにすぎないと認識される(境界線の恣意性)。しかしこのことを百も承知の上で、いかにして境界線の内側へのコミットメント(深いかかわり)が可能になるかを探究することが大切だ(コミットメントの恣意性)。

この「境界性の恣意性」から「コミットメントの恣意性」への視点転換は、そのままわれわれ臨床医への、患者リスク管理の視点転換にすり合わせることができる。血圧に境界線はない、LDLコレステロール値に境界線はない。膨大なる大規模試験の知見は血圧、コレステロール値において”the lower, the better” を明確化した。ここからがよくて、ここからが駄目といった境界線はない。とくにLDLコレステロールは下げれば下げるほど心筋梗塞は減り、いくら下げても自覚症状はない(薬剤介入のための副作用を除けば)。

社会構築主義の立場からすると、あらゆる疾病は恣意的な境界線で囲まれた便宜的な定義から成り立つ。そんなことはない、がんによる腫瘍は体内に確実に存在する、心房細動は動悸という症状に一致した心臓内の電気的な乱れとして存在する、と思われるかもしれない。でもまったくの孤島で一人生活し、外界から隔絶された人間を考えてみるとよい。レントゲンもない、心電計もない世界においては、疾病はいつもの状態とは違う何らかのもの、としてしか認識されないだろう。疾病とはこのように社会的に構築された産物である。

よって疾病の定義、ここからが疾病だよという言説は恣意的である。血圧140の90というのは本来的な意味での根拠はない。LDLコレステロール140に絶対的境界線が引かれるわけではない。われわれ臨床家は、このことを肝に銘じる必要がある。その上であいまいな境界線の内側に患者さんがコミットするように仕向けよ、宮台のメッセージを臨床医学に適用するとさしづめこのようになる。

臨床医はガイドラインの数値など便宜的であるということを深く認識すべきであろう。そのうえでどう患者さんを境界線の内側にコミットメントさせるか、すなわちどのように血圧を下げるのか、ゆっくり下げるのか、どこまで下げるのか、といった日常すでにやっている「コミットメント」により戦略的に取り組むべきであろう。

よく考えると、このようなことを無意識的に実践してきた臨床家は少なくないのではないだろうか。ガイドラインに依拠して薬を出すようにしてはいるものの、どこかでガイドラインなんてと考えている医師は多いであろう。140の90ってホントかいな、であることを分かりながらも積極的に血圧は下げたほうが良いと考え、どう下げるかで悪戦苦闘しているのもわれわれ臨床医である。

我々の日々の診療実践も、気鋭の社会学者による社会分析と背中合わせで考えることもできるかなと思いながら読んでみた。

by dobashinaika | 2009-06-20 00:19 | EBM

第19回医療情報懇話会~プライマリー・ケアにおける臨床決断~

今、実は5月31日です。先週も毎日時間切れで、つい更新をさぼっておりましたが、書き残しておきたいこともたくさんでしたので、さかのぼって書きます(あんまりブログの意味がないですが...)

5月25日は第19回の市内の若手の先生方による医療情報懇話会に講師として参加しました。演題名は「プライマリ・ケアにおける臨床決断(decisin making)-EBM,NBMをどう取り入れるか-」です。

全く壮大なテーマで、自分で決めておいてめまいがする題材でしたが、最近凝っているリスク認知心理学や行動科学をもとに「なぜ患者さんは薬を飲まないか」につきとりとめなく話させていただきました。

エビデンス(根拠)に基づく医療(EBM)は今、目新しくも何でもありませんが、決して陳腐なものではありません。ただし、皆がEBMというものを、意思決定時のあくまでひとつの目安としてとらえられるようになった、そういう共通意識が医療者の間に浸透しつつある、と見るべきでしょう。

大切なのは、どのようなプロセスを経て我々医療者および患者、そして双方が治療を決定するか、です。その際、どのような係数が両者に影響するのか、これを理解することです。EBMはその一つの係数です。ようやく、EBMも尊大な扱いから、この場所に安住の地を見出されたかのように見えます。

それ以外の係数、いわゆる”患者さんの事情”をどうくみ取るか?
「会社で心筋梗塞になった人がいたので薬を飲みたい」「薬は何となく気味が悪い」「自分は心筋梗塞なんかにならない」「薬は飲んでもいいけど、医者にかかるのは億劫」「まだそんなに悪い血圧ではない」
これらの“事情”をどう考えるか。

これには1回5~10分の外来診療ではなんとも時間不足です。当院では昨年から「健康j増進外来」を開設し、患者さんの生活プロフィール、抱えている不安、疑問を看護師が、時間をかけて聞き取ることをはじめました。まだ課題も多いですが、患者さん、コメディカル双方にとって大変意義があると思っています。

もっとも、一番意義があったと思っているのは医者ですが...いろんな面で楽になりますので(笑)

by dobashinaika | 2009-05-31 23:12 | EBM


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

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