人気ブログランキング | 話題のタグを見る

心房細動治療ガイドライン2008についての講演~血液サラサラ研究会で~

本日、私が世話人の一人をしています、血液サラサラ研究会(抗凝固療法抗血小板療法研究会)が開催され、話題提供として「新しい心房細動のガイドライン」という演題で講演いたしました。昨年2008年に心房細動の薬物療法ガイドライン(以下GL)が改訂されましたが、抗血栓療法については初めての改訂だと思われ、いくつかの点で今までとはっきり異なっており、自分で講演していても大変興味深かったです。
私はGLを読むときに一般的におおよそ以下の点を注目しています。
1)エビデンスレベルと推奨度に解離がある場合がある。
2)推奨度クラスIIaとIIbとの境に注目する
3)推奨度クラスIIIを見逃さない
1)のエビデンスレベルと推奨度の解離ですが、たとえば今回のGLでは月1回のINR測定はエビデンスレベルはCと低いものの、推奨度はクラスIです。これはエビデンスがなくても一般的に広く行われコンセンサスが十分得られているからです。推奨度はEBMだけでは当然決まらず、GL策定委員会の価値判断を含みます。われわれはその価値判断がどの程度エビデンスに依拠しているのか、それ以外の要素が加味されているのかをエビデンスレベルから判断する必要があります。
2)については、同じクラスIIでもIIaは「有効である可能性が高い」であり、IIbは「有効性がそれほど確立されていない」ですので、かなりお勧め度が違ってしまいます。この境目をよく吟味する必要があります。たとえば今回ワーファリンを投与できない場合の抗血小板薬はお勧め度IIbであり、積極的お勧めはできないといった治療法になっています。ワーファリンを投与しにくい例に安易にアスピリンを処方することはGL上慎重さが必要ということです。
3)は推奨度のI,IIaまでは見て、IIIを読み飛ばしがちになるので(少なくとも私は)そうしないようにしようということです。今回もワーファリンの適応があり禁忌でない例へのアスピリン投与はクラスIIIとなっており、アスピリンをワーファリンの代わりといった感覚で出すことに警鐘が鳴らされています。

いまさらここで強調するのもなんですが、2008年の心房細動GLの特徴は抗血栓療法に限って言えば、CHAD2スコアを尊重したリスク層別化、および原則としてアスピリンでなくワーファリン(しかもINRガイド下)という2点を特に銘記すべき内容となっていると心房細動治療ガイドライン2008についての講演~血液サラサラ研究会で~_a0119856_2358585.jpgいうことです。その他発作性と持続性とに関わらないワーファリン療法、日本のエビデンスを取り入れた心筋症への対応とアスピリンの使用制限等、現時点で内外のエビデンスを十分取り入れ、抗血栓療法のAtoZがほぼ網羅された内容であり、ここだけでも大変読みごたえがありました。一方、抜歯時や手術時のワーファリンの扱いに関しては推奨度クラスIはなく、エビデンスレベルもほとんどBかCであり、この点に関しては、ローカルなコンセンサスの構築が最善であると再認識しました。
以前からできたらいいなあと思っていることにガイドラインを批判的に吟味するジャーナルクラブを仙台で開くことがあります(できれば定期的に)。今後各方面に呼びかけてやりたいなあと思っていますが。。。

by dobashinaika | 2009-05-11 23:59 | 抗凝固療法:ガイドライン


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:疫学・リスク因子
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールドデータ
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
Covid-19
未分類

タグ

(44)
(40)
(35)
(32)
(28)
(28)
(25)
(25)
(24)
(23)
(21)
(21)
(20)
(19)
(18)
(18)
(14)
(14)
(13)
(13)

ブログパーツ

ライフログ

著作
プライマリ・ケア医のための心房細動入門 全面改訂版

もう怖くない 心房細動の抗凝固療法 [PR]


プライマリ・ケア医のための心房細動入門 [PR]

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌] [PR]

最近読んだ本

ケアの本質―生きることの意味 [PR]


ケアリング―倫理と道徳の教育 女性の観点から [PR]


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく) [PR]


健康格差社会への処方箋 [PR]


神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Ν´υξ叢書) [PR]

最新の記事

2024年JCS/JHRS不..
at 2024-03-21 22:45
日本独自の新しい心房細動脳梗..
at 2024-03-17 22:31
心房細動診療に残された大きな..
at 2024-01-03 23:00
東日本大震災と熊本地震におけ..
at 2024-01-02 16:11
脳梗塞発症後の心房細動患者に..
at 2024-01-01 18:41
ACC/AHAなどから202..
at 2023-12-10 23:12
ライフスタイルを重視した新し..
at 2023-11-06 21:31
入院中に心房細動が初めて記録..
at 2023-11-05 11:14
フレイル高齢心房細動患者では..
at 2023-08-30 22:39
左心耳閉鎖術に関するコンセン..
at 2023-06-10 07:29

検索

記事ランキング

最新のコメント

血栓の生成過程が理解でき..
by 河田 at 10:08
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 06:41
突然のコメント失礼致しま..
by シマダ at 21:13
小田倉先生、はじめまして..
by 出口 智基 at 17:11
ワーファリンについてのブ..
by さすけ at 23:46
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
取り上げていただきありが..
by 大塚俊哉 at 09:53
> 11さん ありがと..
by dobashinaika at 03:12
「とつぜんし」が・・・・..
by 11 at 07:29

以前の記事

2024年 03月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 08月
2023年 06月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン