新しいビタミンK阻害薬テカルファリンはワルファリン,NOACを超えるか:T/H誌

https://doi.org/10.1160/TH16-10-0815
テカルファリンに関する総説です。

・ワルファリンは60年来使用され効果は高いが治療域の狭い薬である。

・ワルファリンはR-L-光学異性体の混合したラセミ体で、7つのチトクロームP-450アイソザイムにより代謝される。
・このため、多くの食品、薬剤に影響を受ける。
・遺伝子多型(特にCYP2C9)、年齢、併存疾患、腎機能が効果を減弱したり、量の調節を促したりする。特に導入初期は要注意。
・INRの細かな管理の煩雑さが、新規抗凝固薬の開発につながった。

・VKAと違い、DOACは一つの標的のみ(IIaまたはXa)なので、モニタリングなしに一定量処方で良いという点がより使いやすい。
・にも関わらず、緊急手術、急性腎不全時などでは薬物濃度や抗凝固効果の測定は必要となる。

・NOACはNVAFの脳卒中予防においてワルファリンと同等である一方、アビキサバン、ダビガトランは大出血をあきらかにワルファリンよりも減らした。
・アピキサバンに比べ、リバーロキサバンは高出血リスクであった。
・幾つかのNOACでは、消化管出血が多くなったが、半減期が短いため服用中止によりコントロールできる。
・ダビガトランは、人工弁患者ではワルファリンよる効果は劣り出血は増える。

・一般的に、腎機能低下例では減量し、CrCl<15(ダビガトランは<30)では、NOACは禁忌である。

・CKDはそれ自体が抗凝固的な環境と言える。一方ではVTEや心房細動を高頻度に合併する。
・eGFR<60では脳卒中、VTEのリスクが増大する。
・抗凝固薬はCKDでも効果的であり、重症CKDにはVKA使用が勧められるが、安全性に関しては熟慮が必要である。
・他にも塞栓出血リスクを増やす合併症はあり、併用薬、尿毒症はワルファリンの代謝に影響するので、腎機能に応じた用量調節が必要となる。
・これらを考えると、上記にセッティングにおいて、ワルファリンの代替薬が強く求められる。

・テカルファリン(ATI-5923 )はワルファリンと同様の機序と効果時間を持った構造的なアナログである。
・VKOR阻害薬と同様、テカルファリンはビタミンK依存性凝固因子(II,VII,IX,X)をワルファリン同様に阻害し、モニタリングはINRである。
・ワルファリンがCYP450系で代謝されるのとは違い、テカルファリンはヒトカルボキシルエステラーゼ2(hCE-2)により加水分解される。
・単一の不活性化カルボキシル酸代謝物(ATI-5900)を産生し、腎で排泄される。
・hCE-2は腎不全では阻害されず、慢性腎不全はテカルファリンのクリアランスに影響しないと思われるので、特殊な環境下でも安定した抗凝固作用が得られると思われる。
CYP450系で代謝される薬剤との交互作用も排除される

・さらに、テカルファリンはCYP2C9の遺伝子多型に左右されない
・初期用量を減らすことで、出血リスクを減らし合併症を予防できるかもしれない
・CYP2C9ジェノタイプ間での用量調節には差がないけれども、VKORC1ジェノタイプによっては変化する。
・テカルファリンの血中濃度は、VKORC1ジェノタイプと相関する。(AAジェノタイプよりGGの方が2倍の血中濃度)
・INRとテカルファリンの血中濃度とは相関関係がないことは重要。
・ゆえに、テカルファリンはVKORC1が多様性を持つ状況ではワルファリンを凌駕することはなく、ジェノタイプガイドによる初期投与量が有効となる。

・ワルファリンを上回るテカルファリンの効果(を検討した試験)としては以下がある。
・EmbraceAC試験では,テカルファリンはワルファリンを上回るTTRRが得られなかった。
・緊急治療が必要な有害事象は,ワルファリンで88%,テカルファリンで90%
・どちらも同様のTTRを示し,アウトカムはTTRに相関した。
・本試験では,CYP2C9-バリアントの対立遺伝子を持つひとや,CYP2C9が関与する薬剤服用者はテカルファリンのベネフィットがあるかもしれない,と結論している。

・健常人を対象としたテカルファリンの薬物動態に関する試験がある。
・40mgまでの単一用量までは,血中濃度と半減期は用量に相関する。
・INR1.7-2.0を保つ用量が10〜20mg。
INRはテカルファリン中止1〜3日で低下する。
・CKDや人工弁患者での複数用量の試験が必要である。
・不活性化体(ATI-5900)は,腎で排泄され健常者ではもとの薬剤の10%の濃度を示し,CKD患者では2倍の血中濃度を示す。
・より詳しいプロフィールや代謝物の毒性についての解析が必要

・さらに,テカルファリンは少なくともtransfected cellではCYP2C9代謝を阻害することが知られており,CYP450への抑制効果を持つかどうかが問題となる。
潜在的な薬剤相互作用について,テカルファリンも例外ではないことは忘れるべきでない。

・こうした問題への追加試験が検討されれば,テカルファリンは旧き良きワルファリンで満足に治療できなかった患者に,安定した抗凝固作用を達成させる興味深い代替薬となるかもしれない。
a0119856_23031173.png

### クドカンドラマを見ながら論文読んでいたら,知らないうちに全訳してしまっていました(笑)。まとめると

テカルファリンの特徴は,構造,機序,作用時間などはワルファリンと同様で,モニタリングはINR。hCE-2加水分解され腎機能に影響されない。薬物相互作用もなさそう。中止1〜3日でINRが低下する。

というところだそうです。腎不全に使えそうなところが最大のポイントでしょうか。が,もう一つの関心事はもちろんコストですね。
まだとにかくフェーズ I?のようで臨床試験はまだ無し。結論を出すのは早計過ぎます。

もし上梓されたら第2のNOAC,N2OACとでもよばれるのでしょうか?

$$$ これはうっすらじゃじゃ麺味でした。
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by dobashinaika | 2017-10-24 23:11 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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