冠動脈疾患安定期にはアスピリン単独よりNOAC+アスピリン併用が良い?COMPASS試験を読み解く


疑問:NOAC(+/−抗血小板薬)は,アスピリン単独に比べて冠動脈疾患の二次予防により有効なのか

方法:
・ランダム化比較試験
・冠動脈疾患患者(90%)または末梢動脈疾患(27%),または両者合併(DAPT,抗凝固薬内服例などは除く)
・3群(リバーロキサバン2.5mg1日2回+低用量アスピリン,リバーロキサバン5mg1日2回,低用量アスピリンのみ)
・導入期にリバーロキサバンのプラセボおよびアスピリン100mgを30日投与し忍容性を見た
・上記3群に,pantoprazole(PPI)投与の有無での比較試験も進行中
・33カ国,602施設。27395例(日本の登録患者数は1556例で第2位)

結果:
1)主要エンドポイント:併用群が有意にアスピリン単独群より優れる
併用群4.1% vs. アスピリン単独群5.4% (ハザード比:0.76,95%CI:0.66-0.86)
リバーロキサバン単独群4.9%vs アスピリン単独群5.4%(ハザード比:0.90,95%CI:0.79-1.03)

2)大出血:併用群で多い
併用群3.1% vs. アスピリン単独群1.9%(ハザード比:1.70,95%CI:1.40-2.05)

3)死亡率:併用群で少ない
併用群3.4% vs. アスピリン単独群4.1%(ハザード比:0.82,95%CI:0.71-0.96)

4)中間解析で併用群の有効性が明らかとなったため,本試験は早期中止となった。
a0119856_01094600.jpeg

結論:安定心血管疾患患者においては,リバーロキサバン2.5mg1日2回+低用量アスピリンはアスピリン単独群に比べ,心血管イベントを減らしたが,大出血は増加させた。リバーロキサバン単独群(5mg1日2回)はアスピリン単独群に比べ,心血管イベントは減らさず,大出血を増やした

ファンド: Bayer

### 既に超話題のCOMPASS試験です。
これまで,冠動脈疾患慢性期は抗血小板薬が必須とされ,抗凝固薬はAF+PCI後の患者さんのみで推奨されていました。
この試験はそうした常識を見直し,抗凝固薬が冠動脈疾患慢性期にも有効であることを示そうとした非常にchallengingな試験に思えます。

従来よりワルファリンの抗血小板作用は指摘されており,二次予防における有効性はアスピリンと同等であることは示されていました(出血が多いので抗血小板薬が推奨されているわけですが)。

一方NOACですが,ACS対象にリバーロキサバンを投与したATLAS ACS TIMI 51で,同薬(このとき使用されたのが2,5mgまたは5mg1日2回)がプラセボよりMACEを抑制したことから,二次予防でも有効である可能性はあったわけです。今回はプラセボではなくアスピリン対象で,なおかつリバーロキサバン+アスピリン併用群を設定したことが最大の特徴と思われます。

結果は上記のようなわけで,なんと筆者らによれば併用群のほうがアスピリン単独よりもMACEを減らすという,ある意味衝撃的なものでしたが,しかし幾つか確認事項があります。
1.主要エンドポイントは,心血管死,脳卒中,心筋梗塞であり,併用群がアスピリン単独群より勝ったのは,その中の脳卒中と心血管死である(心筋梗塞は同等)
2.出血で併用群が多かったのは,部位別では消化管出血である。頭蓋内出血は同等。小出血も多かった。
3,65歳未満での有効性は認められたが,75歳以上では有意差がなかった

これまで虚血性心疾患予防(動脈系)は抗血小板薬,心房細動(左心耳=血行動態上の静脈系)は抗凝固薬に色分けされ,二分表で覚えるよう教えられてきました。その常識が危ういものとなりそうな(?)結果かもしれません。もともと抗凝固薬自体に抗血小板作用があることは知られており,これは抗血小板作用をもつトロンビンを阻害する間接的効果と,抗凝固薬の直接の抗血小板作用の2つがあると言われています。その意味ではワルファリンもトロンビン阻害薬も,またXa阻害薬においてもその可能性は予想されるところでした。今回の試験は,その予想を裏付けるためのものかもしれません。また併用することでの相乗効果などもあるのかもしれないと思わせます。あるいは,NOACで言われている抗炎症作用が効いたのか,はたまた動脈血栓であっても凝固因子の関与が強い場面があって,そこに効いたのか?

メカニズムの推測については,考えだすと興味がつきませんが,所詮専門家ではないので,ぜひ専門家の先生のご教示を受けたいところです。

ただし,一方で問題点も多く指摘できます。
1.上記とダブりますが,MACEと言っても冠動脈イベントでなく,strokeで差がついている
2.出血はやはり併用群で多い
3.リバーロキサバン2.5mgは,日本人でも有効なのか
4.アスピリンなら1日1回だったところ,1日2回となることでアドヒアランスはどうなのか?
5.そもそもなぜクロピドグレルではないのか
6.コストをどう考えるか(2.5mgがいくら位になるのか)

この試験は,とくにプライマリ・ケアの立場で重要な意味を持ちます。冠動脈疾患の慢性期管理はプライマリ・ケア医の仕事であり,特に急性期DAPTから単独に切り替えるとき,この辺の知識がないと専門医とともに(あるいは専門医の指示で)切り替えや継続が十分できないことになるからです。

解釈についてははまだ慎重に考えたいと思います。追加のエビデンスの集積が望まれます。



by dobashinaika | 2017-10-04 01:11 | 虚血性心疾患 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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