「愛の不等式」から考える「抗凝固薬はなぜ出されないのか?」

Secondary Versus Primary Stroke Prevention in Atrial Fibrillation:Insights From the Darlington Atrial Fibrillation Registry

目的:プライマリ・ケア外来で,ガイドライン通りの治療を行った心房細動患者において,一次予防と二次予防でアウトカムに差はあるか

方法:Darlingtonコホート(英国,11GP施設,105,000人)

結果:
1)心房細動患者:2259人,2.15%,うち18.9%は二次予防

2)二次予防患者;ガイドライン準拠=56.3%,過剰治療=18.9%,未治療=24.8%

3)一次予防患者:ガイドライン準拠=49.5.%,過剰治療=11.7%,未治療=38.8%

4)年間脳卒中発症率:二次予防8.6%,一次予防1.6%(P<0.001)

5)全死亡:二次予防9.8%,一次予防9.4%(P=0.79)

6)抗凝固薬無治療(ガイドライン非準拠)の脳卒中オッズ比(一次予防):2.95,95%CI1.26-6.90

7)ガイドライン非準拠の脳卒中再発オッズ比(二次予防): 2.80; 95%CI1.25–6.27; P=0.012(過剰治療対照)

8)ガイドライン非準拠の死亡オッズ比(二次予防): 2.75; 95%CI1.33–5.69; P=0.006(過小治療対照)

結論:約半数の人にしかガイドライン通りの抗凝固療法が施行されていない。ガイドライン準拠の抗凝固療法は,一次予防での脳卒中リスクおよび二次予防での脳卒中および死亡リスクを減少される

### 英国のプライマリケアセッティングでは,一次予防で50%,二次予防でさえ56%しかガイドライン通りの抗凝固薬処方が行われていないとのことです。日本の現状も同じようなものと思われます。前回のブログで考えた心房細動の階層構造でのべた「壁」について,より現実的に考えてみます。

あらゆる薬剤の処方,医療行為をするしないの意思決定は,
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という認識が患者医療者間で共有されたときに達成されるものと考えます(私はこれを「愛の不等式」と読んでいます。なんとなく(笑))。

抗凝固薬では,おおむね,A=抗凝固薬の必要性の認識,B=出血への不安,C=ワルファリンの煩雑さ/NOACのコストになろうかと思われます。ここでもっと細かく言うと,(リスク)=(インパクト)x(確率)ですので,A=(脳梗塞に対するインパクト)x(脳梗塞の予防確率),B=(出血のインパクト)x(出血の確率)で表されます。

さて,現段階で抗凝固薬を医療者側が「出さない」状況には,以下の3パターンくらいがあるように思われます。
1)発作性心房細動なので出さない
2)高齢者で出血リスクが懸念されるので出さない
3)ワルファリンは煩雑だが,NOACも高価で意外と面倒くさいので出さない 

1)は最近の英国プライマリケア医の研究でも示されています。

2)は以前のGARFIELD研究や最近のJAMAの研究からも伺えます。

また伏見AFでもここ5年で処方が増えたのはCHADS2スコアの0,1点例が多かったとのことですので,高リスク高齢者には依然として出されていない実態が見て取れます,

3)も多くの臨床医が持つ実感と思われます。ワルファリンはいろいろと面倒くさい。その欠点が克服されていると思ったNOACだったのに,すごく高いし,モニタリングできないし,中和も難しいし,腎機能や併用薬剤も結構考える必要があるし。。。。というところかと思います。

これまでワルファリンに馴染んでこなかった医師ほど,1),2)の思いが強いと思われます。3)はどの層にも共通でしょうか。
(ときにNOACをすごく出す開業医に遭遇してびっくりしたりします。ただ私も含めてまだ主戦力はワルファリンにしている医師も根強くいると思われます)

1)は上記不等式Aの低下,2)はBの増大,3)はCの増大に当りますが,現実にはこのバランスの乱れはそれこそ患者ー医師ごとに様々なバリエーションをとりうるでしょう。

「抗凝固薬が「必要」なのはわかった。でも依然として出血への不安(特に高齢者)は払拭されないし,NOACは何よりコストが高くて思ったより面倒」,そこで,「超高齢者まではいかない中高年層で,ややリスクの低めな人にまずNOACを提案してみて,コストが問題の場合は,慣れていればワルファリン,そうでなければ出さないか紹介」,このあたりが今の,特に非循環器専門医の感触かもしれません。全くの独断ですが。

$$$ ことしの初茄子。早速焼いて朝食に。
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by dobashinaika | 2017-07-12 23:56 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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