ここへ来ていろいろと手詰まり感のある抗凝固療法ー患者階層構造モデルからその解消法を考える。

<心房細動抗凝固療法の現状>
最近あまり心房細動関連のブログが更新できていません。
いくつか理由がありますが,「心房細動の抗凝固療法についての現在のパラダイムがそろそろ行き詰まりつつある」というのが最大の理由だということに最近気が付きました。

NOACが市場に出てから6年。この6年で抗凝固療法の世界は変わったでしょうか?最近のいくつかのコホート研究によると,米国のPINNACLEレジストリやプライマリ・ケアネットワークのデータベース,そして日本の伏見AFレジストリ,いずれも申し合わせたように,抗凝固薬の処方率はNOAC前50%程度が5-6年で60%程度に上昇したに過ぎません。

では肝腎の脳卒中/全身性塞栓症や大出血と言ったアウトカムはどうでしょう。おびただしい数のいわゆるリアルワールドデータが報告されていますが,以前まとめましたようにhttp://dobashin.exblog.jp/23662074/
「NOACはワルファリンに比べて。脳卒中/全身性塞栓症,死亡に関しては同等かやや少なめ,大出血は同等か少ない,頭蓋内出血は明らかに少ないが消化管出血は同等が多い」
というところが,ざっくりとした現状かと思います。ただし,伏見AFレジストリでは脳卒中/全身性塞栓症,大出血ともNOACとワルファリンとで明らかな違いはなかったという衝撃的なデータも発表されていますhttp://dobashin.exblog.jp/23826455/

リアルワールドデータ自体の選択バイアスなどを考慮する必要はありますが,誤解を恐れずにいれば,現時点では,
「NOAC発売後6年たった今でも,ガイドライン通りに処方されていない症例が40%もおり,一方でアウトカムも劇的に改善されたわけではない
と言えます。
NOAC発売前のあの高揚感(誰が?はおいておいて)を考えると,森課長ではありませんがここへ来ていろいろと手詰まりになってきた感があります(森課長についてはググってください。私の大好きなキャラです)。

<心房細動患者の階層構造>
ではこの手詰まり感をどう克服していけばよいのか。ここでは,以前雑誌「心臓」に拙文を書いた際紹介しました心房細動患者の階層構造モデルで考えてみます。http://dobashin.exblog.jp/20932952/
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理想的な患者像をRCTでの登録症例(レベル0)と規定しますと,リアルワールドではRCTの組み入れ基準から逸脱した高齢者,高リスク者,服薬アドヒアランス不良者など多彩な症例に抗凝固療法が施行されています。これら実際に臨床の現場で服用している患者のうち,特にアウトカムに大きな影響を及ぼすと考えられる服薬アドヒアランス良好患者をでレベル1,不良患者をレベル2とします。レベル0と1の間には「選択バイアス」という壁があります。同様にレベル1と2の間の壁は「服薬アドヒアランス」です。

さらに,先に述べましたように,適応があるにも関わらずガイドライン通りに処方されていない,かつ医療機関には受診している患者層をレベル3とします。レベル2と3の間の壁は,非常に議論の余地がありますが,私は患者,医療者双方の「出血に対する不安」と「必要性に対する認識不足」が主な因子であると考えています(これについては以前の服薬アドヒアランスに関するブログにも書きましたので詳細はそちらをご覧くださいhttp://dobashin.exblog.jp/21908119/)。

そして最後のレベル4は,未だに診断されていない心房細動=Subclinical AFです。レベル3と4の間の壁は無症候性であることや動悸を感じたり健診でチェックされても受診しないなどの受診の遅れがその背景にあると思われます。

<階層間の壁解消対策>
上記5つの患者階層は,心房細動に限らず多くの疾患で当てはまる構造と思われます。私たちは常々,主にレベル1(あるいは2)の中だけで抗凝固薬は何が良いのか,手術やPCIのときはどうするのか,出血したらどうするのかといった抗凝固薬にまつわる諸問題を議論しています。しかしながらこのレベル1内だけの論議では,手詰まり感から逃れられません。

レベル1〜2間の服薬アドヒアランス,さらにレベル2−3間の抗凝固薬の「出血に対する不安」と「必要性に対する認識不足」という各レベル間の壁に介入した研究や再検討こそが手詰まり感解消,およびさらなるアウトカム改善への高みへと登る鍵のように思われます。

さらにレベル1,2を規定しているガイドラインについても再評価,再検討が迫られます。高齢者および低リスク者の,特に日本人での適応が今のCHADS2スコアベースで良いのか。大きな問題です。

まとめますと,抗凝固薬の「何」を選ぶべきかから「誰に」,「どのように」処方するかへのパラダイムシフトが求められる時期に来ていると言えます。

<「である」「すべき」から「する」への跳躍を考える>
このことを別の言い方で考えると,レベル0のRCTやエビデンスは,抗凝固療法の世界を説明するもの,いわゆる「である」を理解する装置といえます。一方ガイドライン(遵守しているとすれば上記レベル1)は「〜すべき」という枠組みで語られる規範です。「である」から「すべき」は自動的に導かれるわけではなく,ガイドライン作成者の「価値判断」が必ず入り込みます。

さらに「である」「すべき」を前提に,患者ー医師間の価値観のすり合わせによる「する」という意思決定に至ることになります。こうした「である」「すべき」「する」の視点から上記の患者階層間の壁解消策を考えてみると以下のようになります。

である→すべきの間の壁:ガイドライン作成者の「価値観」,すなわち現状のガイドラインが妥当かを再検証する。

すべき→するの間の壁:抗凝固薬の服薬アドヒアランス,必要性,出血への不安につき対策を再検討する。

丸山真男ではありませんが「である」ことから「すべき」を経て「する」に至る壁を埋める作業が,抗凝固療法の今後に求められる課題だと思います。

なお,アドヒアランス改善や患者ー医師の認知バイアス解消に関する具体的な対策についてはこれまでいろいろとブログにも書いてきましたので,あちこち参照していただければ幸いです。

$$$ いよいよ取り立ての野菜をその場で食すという人生最大の幸せを味わえる時期になりました^^。


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by dobashinaika | 2017-07-03 00:40 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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