4年ぶり改訂、欧州心臓病学会の心房細動ガイドライン速報;その1

欧州心臓病学会(ESC)から、欧州心胸部外科学会とコラボで心房細動管理ガイドライン2016年版が発表されました。ちょうどローマで開催されている学会に合わせての発表です。
前回の改訂が2012年のフォーカスアップデートですので4年ぶりの改定です。

2016 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation developed in collaboration with EACTS
DOI: http://dx.doi.org/10.1093/eurheartj/ehw210 ehw210 First published online: 27 August 2016


ざっと見の印象ですが、まず抗凝固療法の各論に行き着くまで多数の紙面が総論に割かれている点です。
基本コンセプトは Integrated management(統合的管理)です。

すでにEHRAからシェーマが出ていますが、戦術として心房細動の管理を、急性期、背景因子の管理、脳卒中リスクの評価、レート管理、症状管理の5ステップにまとめ、その根底となる戦略(コンセプト)には、患者の参画、多職種チーム、非専門家の役割、テクノロジーツール、の4アイテムの活用です。また5ステップごとに系統だったゴールが示され、ゴールに向かっての管理というコンセプトも明確化されており、さながらガイドラインが心房細動という大きな山登りの道標の趣を呈しています。

各論では、抗凝固療法の適応や薬剤選択は大筋で変わりないものの、シェーマがシンプルになり、また脳出血後の再開、3剤併用療法、左心耳閉鎖術などが詳述されるようになっています。

まずは知りたさ緊急度優先で抗凝固療法関係の目立ったものをまとめました。総論は膨大かつ重要なので明日以降じっくり紹介します。

抗凝固療法の適応は基本変わっていません。機械弁、僧帽弁狭窄症はVKA(ワルファリン)、バスク0点は抗凝固なし(禁忌)、1点は考慮。2点以上はNOAC、2番手がVKA、抗凝固薬禁忌の場合の左心耳閉鎖術がIIb。
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出血リスクはHAS-BLEDだけでなく、HEMORR2HAGES、 ATRIA、 ORBIT 、ABCの各スコアを網羅しています。
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急性脳梗塞、脳出血後の抗凝固療法についても詳細な投与方法示されています(これは後日熟読したらアップします)。

急性冠症候群時PCI後の抗血栓療法は、
1)低出血リスク例:トリプル(OAC+DAPT)6ヶ月⇨デュアル(OAC+抗血小板薬1剤)6ヶ月⇨1年後以降はOAC単独
2)高出血リスク例:トリプル(OAC+DAPT)1ヶ月⇨デュアル(OAC+抗血小板薬1剤)1年後まで⇨1年後以降はOAC単独
*1年後以降、冠動脈病変が高リスクの場合はアスピリンかクロピドグレルどちらか併用
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待機的PCI後の抗血栓療法は、
1)低出血リスク例:トリプル(OAC+DAPT)1ヶ月⇨デュアル(OAC+抗血小板薬1剤)6ヶ月まで⇨6ヶ月後以降はOAC単独
2)高出血リスク例:トリプル(OAC+DAPT)1ヶ月⇨デュアル(OAC+抗血小板薬1剤)1年後まで⇨1年後以降はOAC単独
*1年後以降、冠動脈病変が高リスクの場合はアスピリンかクロピドグレルどちらか併用
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待機的OCIの場合トリプルは1ヶ月でいいのですね。またほとんどの場合で1年後はOAC単独(冠病変によっては抗血小板薬1剤追加)です。

堅固な石垣を土台とした壮麗な城のような趣(褒めすぎか)ですね。ただ作成方法は完全なGRADE準拠ではなさそうですし、COIが明示されていないように思いました(見落とし?)。
末尾にサマリー17ポイントを記載されているのもありがたいです(これも後日検討)。

追伸:それにしても良い世の中になったものです。学会というのは参加できるセッションは自分が興味あるものばかりになるので,その分野の見聞だけは深まりますが,全体の俯瞰はできにくいですね。一方ネットが普及したので(とくにESCはそうですが),部屋に居ながらにして学会全体のトピックスを俯瞰することができます。特定の分野の深い見識を得たいなら学会参加,広い見識を得たいならむしろネットのほうが良いかもです。
by dobashinaika | 2016-08-28 17:48 | 抗凝固療法:ガイドライン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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