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超高齢者に対する抗凝固薬使用のコツ:90歳以上に対するワルファリン使用の効果とリスク:JAMAIM誌

Risk of Bleeding and Thrombosis in Patients 70 Years Or Older Using Vitamin K Antagonists
JAMA Intern Med. Published online July 05, 2016.

疑問:70歳以上,特に90歳以上の超高齢者における抗凝固療法の効果とリスクはどのようなものか?

デザイン,セッティング,参加者:
Certe Thrombosis Service Groningen(オランダ)において2009年〜2012年にビタミンK阻害薬(VKA)を投与した90歳以上の患者1109人。マッチングした80歳代,70歳代(対照群)とする

アウトカム:一次アウトカム=臨床的に問題となる小出血および大出血。二次アウトカム=血栓症,VKAの管理の質

結果:

1)大出血:6419観察年のうち,3313人中713人,1050イベント

2)出血リスク(70代ベース):80代は明らかな増加なし(ハザード比1.07,95%CI0.89〜1.27)。90代は微増(1.26;1.05〜1.50)

3)大出血(死亡含む)(70代ベース):80代,90代は70代と同等
超高齢者に対する抗凝固薬使用のコツ:90歳以上に対するワルファリン使用の効果とリスク:JAMAIM誌_a0119856_20475592.png


4)男性の方が女性より年齢の影響大

5)血栓症:85人(2.6%)

6)血栓リスク(70代ベース):90代(2.14; 1.22-3.75)80代(1.75; 1.002-3.05)は有意に増加

7)VKA管理の質:高齢になるに連れ落ちてくる。90台での出血の増加とは関係。血栓リスクの増加とは関係なし

結論:VKAによる出血リスクは80代以降ゆるやかに増加。塞栓リスクは急峻に増加。

### 従来からの観察研究の治験と同様ですね。高齢になるに連れ確かに出血リスクは上昇しますが,それをかなり上回るペースで血栓塞栓症が増加します。既に同様の報告が多くなされています。

マッチングされているとはいえ,明らかにされないところで,高齢者への適応としてバイアスがかかりますので,高齢者ほどより安全な症例が選ばれているという選択バイアスは当然考える必要があります。

しかしそれを考慮しても,私の経験上も一般に恐れるほど超高齢者の抗凝固薬による出血は少ないというのが実感です。特にワルファリンに関しては,大出血(頭蓋内出血がやはり多い)はここ10年で数例しか経験していません。一方NOACは頭蓋内出血はほど皆無ですが,消化管出血はワルファリンよリ多く経験します。これ実感で統計的な有意性はなしですが。

高齢者でのワルファリン使用のコツは,まずINRは1.6〜2.0くらいに保つこと。2.3を超えたら0.25mg単位でワルファリンを減らすこと,腎機能をこまめに見て,CrCLが低下傾向であれば減量すること。ご家族と密にリスクにつき話し合うこと。これらにつきます。

一方高齢者のNOAC使用のコツは,やはり腎機能が基準値内でもそれに近い場合は,低用量を用いること。ワルファリンにもまして腎機能のチェックを怠らないこと。場合によっては事前に便潜血検査などを行うこと,などを心がけてます。

豆なチェックとできるだけ低用量で行くことが出血回避のコツと思います。いかがでしょうか。

$$$ きょうのニャンコ。どこにいるでしょうか。
超高齢者に対する抗凝固薬使用のコツ:90歳以上に対するワルファリン使用の効果とリスク:JAMAIM誌_a0119856_20455089.jpg

こっちは拙宅のネコ
超高齢者に対する抗凝固薬使用のコツ:90歳以上に対するワルファリン使用の効果とリスク:JAMAIM誌_a0119856_20462250.jpg

by dobashinaika | 2016-07-12 20:51 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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