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手術時のヘパリンブリッジングに関する10のポイント:JACC誌

Bridging Anticoagulation: Primum Non Nocere.
Stephen J. Rechenmacher, MD; James C. Fang, MD
J Am Coll Cardiol 2015;66:1392-1403


JACCから手術時の抗凝固薬ブリッジングに関する総説がでています。
また,ありがたいことにACC.org Weekly Journal Scanというメールマガジンで10個のポイントにまとめてあるので,これをご紹介します。

Bridging Anticoagulation: Review
Geoffrey D. Barnes, MD, FACC

1)毎年,抗凝固療法を受ける人の15〜20%が,抗凝固薬中断を必要とする侵襲的手技や手術を受けている

2)ほとんどのガイドラインが以下の3つの原則を推奨している
・抗凝固薬は低リスク手技の場合,中断すべきでない
・血栓塞栓症のリスクが高く,出血リスクが過度でない場合に,ブリッジングが考慮される。反対に血栓塞栓症リスクが低い場合は施行すべきでない
・中等度のリスクの場合、個々の患者及びその手技ごとに出血リスクと血栓塞栓症リスクを管理すべき

3)第一の重要なステップは抗凝固薬の適応を確認すること。いくつかの例では抗凝固薬は全く必要ないことがある。最近生じた血栓塞栓症例(急性の深部静脈血栓など)では,抗凝固薬の中断は避けるか延期すべき

4)抗凝固薬を中断しなくて良いような低出血リスク手技:皮膚手術,整形外科的手術,ペースメーカー,ICD植えこみ,血管内手技,白内障手術,歯科手技

5)周術期の血栓塞栓症及び出血の頻度は,適応と抗凝固薬の選択により異なる。一般的に抗凝固薬ブリッジング無しでの血栓塞栓症リスクは非常に低い(ある評価では0,53%)。機械弁患者ですら,近年の研究では低い頻度である。左室補助心臓患者では抗凝固薬が一般的であるが,血栓よりも出血のほうが多い。

6)最近のブリッジングに関する研究は非常に多彩で時に血栓塞栓リスクへの考慮のないものもある。「真に安全な」ブリッジングとは血栓塞栓なしで,出血の副作用も予防することである

7)最近のBRIDGE trial (N Engl J Med 2015;373:823-33)では心房細動におけるブリッジングは血栓塞栓症を防げず(0.3〜0.4%),大出血は増やし(3.2% vs. 1.3%, p = 0.005),小出血も増やす(20.9% vs. 12%, p = 0.001)。しかし,この研究ではCHADS2スコア5〜6点の最高リスク患者や心房細動以外に適応のある疾患は含まれていない

8)機械弁かつ心房細動患者対象のPERIOP2 (NCT00432796)が進行中

9)臨床家は,出血(血栓塞栓)リスクを評価するのに,BleedMAP(出血の既往,機械弁,活動性のがん,低血小板数)を使うことが可能

10)DOACは半減期が短いため,ヘパリンブリッジを必要としない。DOACはヘパリンに変わりうるものかもしれない。しかしその研究はまだ少ない


### 低血栓塞栓リスク,低出血手技ではブリッジしない。血栓塞栓リスクが高く,出血リスクが低い場合に考慮というのがこれまでのガイドラインですが,近年の研究では,止めてブリッジすべき例はそれほど多くないことが示されていますね。

BRIDGE trial も多くは低出血リスク手技を扱っていますし,CHADS2スコア高点は含まれていませんので本当に迷うような高リスク例については解決はされていないのが現状でしょう。

そうした例では適応を慎重に考えた上で,手術前にDOAC切り替えで,ヘパリンでつなぐ期間をできるだけ短くする方法が最近はとられていて,今後も増えるものと思われます。このときよくDOACの適応,用量につき注意する必要はあると思われます。

表題の”Primum Non Nocere”はご存知ヒポクラテスの名言とされる"First, do no harm"(まず患者に害をあたえてはならない)ですが,ヒポクラテスが言った言葉ではないというのがほんとうのところのようですね。

$$$ 今日のにゃんこ
手術時のヘパリンブリッジングに関する10のポイント:JACC誌_a0119856_2223794.jpg

by dobashinaika | 2015-10-13 22:25 | 抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術 | Comments(0)


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