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そもそも心房細動の死亡率はレートコントロールで良くなるのか:Circ誌

Rate-Control Treatment and Mortality in Atrial Fibrillation
Tze-Fan Chao et al
Circulation Published online before print September 17, 2015


目的:レートコントロール薬が予後を改善するかどうか

方法:
・台湾の国民健康保険データベースにおける心房細動症例
・β遮断薬43879例,カルシウム拮抗薬18466例,ジゴキシン38898例,対照例168878例
・エンドポイント:死亡

結果:
1)平均追跡期間:4.9年,全死亡率32.7%

2)死亡率ハザード比:ベースラインリスク補正後
ベータ遮断薬0.76(0.74-0.78)
カルシウム拮抗薬0.93(0.90−0.96)
ジゴキシン1.12(1.10−1.14)

3)この結果はサブ解析やプロペンシティースコアマッチ後も同じ

結論:このNation-wide研究では,ベータ遮断薬,カルシウム拮抗薬によるレートコントロールを施行した症例の死亡率は低い。特にベータ遮断薬によるリスク減少は最大。ジゴキシンは死亡率を増加させた。この所見の確定にはRCTが必要

### これまでレートコントロールvs.リズムコントロールについてはAFFIRMで両者変わらずという大筋がでており両者の選択という観点での研究は多く見られました。今回のように大規模コホートでレートコントロールvs,プラセボというセッティングの研究は殆どなかったように思われます。

ただしβ遮断薬については,最近心不全合併心房細動のメタ解析がでて,洞調律例よりも予後を良くしないことが報告されています。
http://dobashin.exblog.jp/20190111/

Ca拮抗薬については目立った研究はあまり無いように思われます。

ジギタリスに関しては,これまで予後悪化の報告が多かったのですが,最近のメタ解析では,ジギタリスを投与する症例自体に重症例が多いのでその選択バイアスを考えると予後悪化はないとすることが言われています。
http://dobashin.exblog.jp/21600728/

ことほどさように,レートコントロール薬そのものの全体的な効果というのは実はあまりわかっていないということなんだろうと思います。そのことを実証するレビューもでていて,実はレートコントロール−がいいと言うことのエビデンスレベルは全体としても低いらしいとのことです。
http://dobashin.exblog.jp/17967575/

で,今回の研究の患者背景ですが,やはり心不全例はジギタリス群で57%と多く,他は35〜6%程度でした。観察研究ですので例えば初めから徐脈の例は対象から省かれている可能性もあります。こうしたバイアスを考えに入れた上でこの論文を吟味する必要があります。

鉄則として使用しているレートコントロール薬ですが,予後まで考えると実はまだ奥が深いということを思い知らされます。その辺の困った状況を察してくれたのか,Editorialで4つのTake Home memmageがまとめられていますので,引用しておきます。

1)レートコントロール薬は心房細動患者の心拍数コントロール目的に使われる。症状がないまたは軽度な症例はゆるやかな心拍数管理が第一選択。より症状が強いまたは左室機能低下例では厳格な心拍数管理が適用される

2)それらの薬の第2の目的はアウトカムの改善である。この研究は薬剤の種類次第でその効果や有害事象が異なることを追加した

3)RCTが出るまでは,レートコントロール薬は,年齢,ライフスタイル,合併症,心拍数を個別に考えて薬剤を選ぶことを強調したい

4)レートコントロール薬は慎重に処方されるべきであり,用量は合併疾患の進行度合いに応じて調節される,伝導障害が発症したり進行するかもしれない。確かなことは,心房細動のレートコントロールについて多くの学ぶべきことがあるということだ。


$$$ 昨日が十五夜。今日は十六夜。ためらうはずの十六夜ですが,今日はスーパームーン。でも雲がかっていてやっぱりいざよいでした。
そもそも心房細動の死亡率はレートコントロールで良くなるのか:Circ誌_a0119856_2262661.jpg

by dobashinaika | 2015-09-28 22:09 | 心房細動:ダウンストリーム治療 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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