新規経口抗凝固薬は消化管出血パターンに違いがある;T/H誌

昨日の続きで、NOACの臓器別出血パターンについて、後半の消化管出血についてです。

Thromb Haemost 2014; 112
Organ-specific bleeding patterns of anticoagulant therapy: lessons from clinical trials
Thomas Vanassche et al


【消化管出血】
・おどろくべきことに3種の(用量の)NOACは消化管出血のリスクを増やし、他の2つは減らす
・消化管に集まる活性化した薬剤が量的にバリエーションのあることが、一つの説明として考えられる

・VKAは消化管で吸収されたあと、肝臓の酵素であるビタミンKエポキシド還元酵素を標的とする
・対照的にNOACは凝固タンパクを直接標的とするので、消化管での吸収が不完全な場合経口摂取量の一部が消化管に残る
・VKAは全身的な抗凝固作用により消化管出血をきたすのに対し、NOACは全身的な作用に加え、消化管の局所での作用も出血の原因となる可能性がある

<異なる薬剤・用量ごとの消化管出血リスクの違い>
・NOACの消化管出血に関する作用の違いは、大出血の差に反映される
・消化管出血を除けば、NOACは出血を明らかに(VKAより)抑制するが、ダビガトラン150とリバーロキサバンは、
消化管出血を増やすため、統計的には大出血を減らしていない

<NOACの消化管出血のメカニズム>
●NAOCごとの異なる吸収
・吸収されない成分の割合は生物学的利用率により、ダビガトランは非常に低く、アドキサバン、リバーロキサバンは60〜70%である
・ダビガトランは不活性体として吸収され、血中でエステラーゼによって活性体に変化する
・しかし、吸収されないダビガトランは消化管内でもやはり活性化される。このため便中では活性体は高レベルであるのに対し消化管内では明確に測定できない
・ゆえに、不活性なプロドラッグの形では消化管での活性体の高レベルな集積を抑えられないことになる
・どこでプロドラッグから活性体へ変化するのかわかっていないが、消化管内の糞便の細菌叢にあるエステラーゼが関与していると推測される
・これが、NOACでは唯一ダビガトランが、上部より下部消化管で出血が多い理由と考えられる

<異なる用量、凝固活性>
・ダビガトラン、エドキサバンでは高用量と低用量で消化管出血リスクが異なる
・1日2回より1日1回のほうが消化管内の血中濃度のピークが高い可能性があり、これがリバーロキサバンとエドキサバンが出血の多い説明となる

<対象患者の違い>
・ENGAGEとROCKET AFの対象患者は他より年齢がやや高くCHADS2スコアも高い
・アピキサバンではVKA群での消化管出血が大出血に占める割合は25%だったのに対し、リバーロキサバンでは40%

【臓器特異的出血パターンの臨床応用】
・2つの考え方
1)頭蓋内出血は致死的なので、これをより減らすNOACは抗凝固薬処方の閾値を下げ、心房細動の生命予後改善に寄与する可能性がある
2)NOACのうち3種の用量は消化管出血を増やすので、 PPI投与の評価のためのRCTが必要だろう。消化管出血をきたしやすい、または既往のある患者は消化管出血の少ない薬剤、用量を選ぶほうが良い。

【結論】
・NOACはVKAに比べ、消化管出血以外の出血、特に頭蓋内出血を著明に減らしたが、3種の用量で消化管出血を増やした
・NOACはひとつの凝固因子のみ抑制する。その結果VKAにくらべ組織因子(TF)関連の凝固活性抑制が弱い。脳血管はTFが豊富であり、これがVKAにくらべNOACが頭蓋内出血を抑える説明になる。
・消化管内の薬剤活性の高低により、NOACの消化管出血の増減が決まる
・こうした出血リスクパターンを認識することは、臨床上、特に消化管出血をきたしやすい患者に対して重要である

### ダビガトランは下部消化管中の便の細菌叢のエステラーゼがプロドラックの活性化に関与しているので、その加減によっては消化管中の活性型ダビガトランが増加してしまうという説明ですね。ほかは1日1回かどうかや、RCTの対象いよっても違ってくるという説明です。

消化管出血のみ取り出しての比較は、主要エンドポイントではないあるひとつのアウトカムだけをとしだしての比較ですので、明確なことは言えませんが、こうしてメカニズムを考察することで、ひとつの参考になるかもしれません。
by dobashinaika | 2014-09-10 22:55 | 抗凝固療法:比較、使い分け | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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