シロスタゾールと認知症の関係についての患者さん説明用パンフレットを作りました。

20日のTV番組(NHKスペシャル)でシロスタゾールやインスリン点鼻薬の認知症予防効果について取り上げられました。

期待を持って見ておられた方も多数おられると思いますが、今後問い合わせが多くなることも予想されるため、現時点でこの点に関し患者さんに質問された場合に当院で使うパンフレット(シロスタゾール編)を作ってみました。ご批評いただければ幸いです。

多少、冗長で難しい感じになってしまったかもしれません。使ってみた上で、改定していきたいと思います。

今後、当院で使用している患者さんとの合意をつくる上での資料を各疾患ごとに順次公開していきたいと思いますので、ご批評を仰げれば幸いと思います。

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シロスタゾールは認知症に効果があるのでしょうか?

Q1.NHKの番組で「シロスタゾール」が認知症に効果のあるお薬として紹介されていましたが、シロスタゾールとはどんな薬なのでしょうか?

A1.シロスタゾール(商品名プレタール他)は、血液が血管の中で固まり、血栓(血の塊)ができるのを抑える薬です。動脈の壁に血栓ができるときには、そこにたくさんの血小板が集まってきます。シロスタゾールは、この血小板の働きを弱めることで、血栓をできにくくし(血液をサラサラにし)、主に脳の血管が詰まる脳梗塞の再発を予防する薬として、現在使われています。

Q2.もともとは血液をサラサラにする薬であるシロスタゾールが、どうして認知症に効くと言われるようになったのでしょうか?

A2.日本の病院から発表された論文が根拠になっています。この論文は、過去約17年間、洲本伊月病院の外来に通った患者さんで、認知症の薬のドネペジル(商品名アリセプトなど)を飲んでいた人のカルテを見なおして、その人たちをシロスタゾールを飲んでいたひとと飲まなかったひととに区別し、認知機能や記憶力の検査であるミニメンタルステート検査の結果を比べたものです。

Q3.結果はどうだったのですか?

A3.ミニメンタルステート検査は1年以上の間隔で2回行いました。30点満点で22点未満の、中くらいから重い人を対象にした場合は、シロスタゾールを飲んだひとも飲まないひとと同じくらい認知機能が下がりました。

 一方、点数が22点から26点の比較的認知症が軽いひとでは、シロスタゾールを飲まないひと36人の点数は30ヶ月の間に平均2.2点下がったのに対し、シロスタゾールを飲んだひと34人の点数は平均0.5点しか下がりませんでした。

Q4.ということは、やはりシロスタゾールが認知症の進行を防いだと考えて良いのではないでしょうか?

A4.認知症の程度が軽いひとについては、その可能性はあるといえるかもしれません。ただし、こうした研究を考える場合、必ず「バイアス(偏り)」がどのくらいかかっているかを考える必要があります。

 たとえば、この研究の場合、シロスタゾールを処方した理由が明らかにされていません。医師がこの人は脳梗塞の再発の危険性があるからなどの理由で処方することが多いため、シロスタゾールを飲んだひとのほうが脳梗塞のリスクの高い可能性が考えられます。この研究では、シロスタゾールを飲んだひとのほうが、脳のMRI(画像)で、記憶をつかさどる海馬というところが小さく萎縮している傾向が認められています。

 あとから振り返ってカルテを見なおしたこのような研究では、比較の対象となる患者さんのもともとの病気の重さや、合併している病気などが違うため、公平な薬の効果判定ができないことがよくあります。

 また、この研究では、対象となった人数が30人台と少ないことも、偶然などが入り込む可能性があると思われます。

Q5.そうすると、患者としてはどう考えればよいのでしょうか?

A5.シロスタゾールが、軽い認知症の進行を遅くする可能性が示された点は、大変明るい材料だと思います。

 ただし、まだ全面的に今回の研究結果を信頼して、シロスタゾールを服用することにはやや時期が早いかもしれません。
 
 ちなみに、まだシロスタゾールには、認知症の人に処方して良いという医療保険の適用がなく、認知症というだけで処方することはできません。また、副作用も少なからずあります。

 本当に、効果があると言うには、認知症の方がシロスタゾールを飲むか飲まないかをくじびきのような方法で割り振って、数年後に認知症の進行に差があったかどうかを比べる研究が理想です。あるいはそこまでの研究でなくても、今後多くの施設で多数の人を対象にしての追加の研究結果が出てから、飲むかどうかを考えるという姿勢で良いのではかと思います。

Q6.シロスタゾールの副作用にはどんなものがありますか?

A6.代表的なものに頭痛と動悸があります。どちらも飲んだひとの5〜10%の頻度で起こると言われています。これらの副作用は、飲むのをやめればすみやかに改善します。
また血栓を出きにくくする薬なので、出血も少ない頻度ですが注意する必要があります。

認知症の進行を抑えるには、まず薬物療法がありますが、そのほかにも心理学的なのもの、認知訓練的なもの、運動他音楽芸術的なものなど薬によらない治療法などさまざまなものがあります。よくお話し合いをした上で、納得の行く治療を考えていきたいと思います。
by dobashinaika | 2014-07-22 01:19 | 患者さん向けパンフレット | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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