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心房細動の早期発見っていいことなの?偶然見つかった心房細動の予後:T/H誌

Thrombosis and Haemostasis 6月18日オンライン

Adverse prognosis of incidentally detected ambulatory atrial fibrillationA cohort study
C. Martine et al


疑問: ホルターで偶然見つかった心房細動の予後と抗凝固薬への反応はどうか?

P:UK Clinical Practice Research Datalink登録患者(GP通院):3年追跡

E:ホルター心電図で偶然心房細動が見つかった5555例;平均70.9歳、女性38.4%

C:年齢、性別マッチの心房細動無し群24705例

O:脳卒中、全死亡、心筋梗塞、大出血、抗凝固薬の効果

結果:
1)AF群はCHA2DS-VAScスコア平均2.5点、73%以上が2点以上

2)脳卒中:AF群19.4(17.1−21.9)/1000人年 vs. 対照群8.4(7.7−9.1);p<0.001

3)死亡率:AF群40.1(36.8−43.6)/1000人年 vs. 対照群20.9(19.8−22.0);p<0.001

4)心筋梗塞:AF群9.0(7.5−10.8)/1000人年 vs. 対照群6.5(5.9−7.2);p<0.001

5)全アウトカムは年齢とともに増加

6)抗凝固薬±抗血小板薬服薬:51.0%

7)抗凝固薬±抗血小板薬内服のアウトカムに及ぼす影響(ハザード比)
脳卒中0,35、死亡0.56

8)抗血小板薬のみはアウトカムに影響せず。大出血が若干増加

結論:偶然見つかった無症候性心房細動は、明らかに脳卒中や死亡が多かった。抗凝固薬はそれらの抑制に効果があったが抗血小板薬はなし。
この研究は診断されていない心房細動のスクリーニングの費用対効果を正当化する

###除外基準として、心疾患の既往、抗不整脈薬、抗凝固薬の服用、入院中の記録、動悸などの症状のあるときの心電図などがあります。
本当に偶然発見された無症候性の心房細動が対象ということです。

というこで、大変インパクトのある研究ですね。無症候性心房細動のあるなしで、脳卒中、死亡率とも2倍くらい発現率が違っています。さらに抗凝固薬がそのリスクをかなり減らすというものです。

これまで早期発見が大切というデータは同雑誌からいくつか出ておりましが、対照群との比較でアウトカムまでしっかり追った研究は初めてです。

さて、「早期発見」はほんとうに良いことでしょうか?
がん検診については全てのがん検診が一般住民というpopulationにおいて死亡率を減らすわけではないことが示されていますね。がんを早期に発見して早期に手術などを行った場合、その後長期に渡る手術後生活までトータルに考えた場合、必ずしも予後を良くしないという理屈ですね。

心房細動はどうでしょうか?CHADS2スコアが例えば2点以上であれば、出血リスクは梗塞リスクを下回るから、それはできるだけ早く介入して抗凝固薬を飲んだほうがいい。がん検診とはちょっと違う。そういう気もします。本論文はそうした推測を裏付けるデータかもしれません。

ですが、、早期発見には別な問題が横たわります。無症候性の人にハイリスクな抗凝固薬を長期にわたって飲むことに合意形成が得られるかということです。特に若い方。65歳高血圧、ホルターでたまたま心房細動が見つかった。この人に抗凝固薬を出しますかということです。症状がなにもないのに、です。

出血リスクの重大性を聴いて尻込みをする人もいるかもしれません、そのストレスも過小評価できません。
そう考えると、がん検診と同じように、本来は前向きの無作為試験(無理なら前向きコホート)を行ってできるだけバイアスを振り払う必要があると思われます。

早期発見ということに関しては、あくまで慎重なんですねー。私の場合。
by dobashinaika | 2014-06-25 23:01 | 心房細動:診断 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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