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抗凝固薬の梗塞と出血を一度に評価するリスクスコア:欧州心臓病学会2013より

今週初めアムステルダムで開催されたESC2013では、色々と興味深いディスカッションが行われてようです。
学会ホームページに主要なトライアルの発表とそのディスカッションが紹介され、日本に居ながらにして最先端の知見が得られるのがありがたいです。
その中空から、主に心房細動関連の治験について少しずつご紹介していきます。

AMADEUS: Development of a novel composite stroke and bleeding risk score in patients with atrial fibrillation

【疑問】梗塞と出血の両方を予測するスコアはないものなのだろうか?

【方法】AMADEUS試験(FXa阻害薬=idraparinuxとワルファリンとの比較試験)ビタミンK阻害薬(VKA)群における各エンドポイントごとの予測因子を測定する
エンドポイント1:脳卒中、非中枢性塞栓、大出血
エンドポイント2:脳卒中、全身性または静脈塞栓、心筋梗塞、心血管死、大出血

【結果】
1)VKA群2293例

2)エンドポイント1(50イベント2.4/100人年)の独立予測因子:年齢(p=0.014)、脳卒中/TIAの既往(p=0.049)、アスピリン使用(p=0.002)、TTR(p=0.007)

3)エンドポイント2(94イベント4.5/人年)の独立予測因子:エンドポイント1の因子+左室収縮能低下(p=0.011)

4)各回帰係数の応じて以下のように主見つけした複合スコア1,2を創出
Composite score 1 = (0.05 x Age)+(0.6 x Previous stroke or TIA)+(0.9 x concomitant aspirin)-(1.8 x TTR)
Composite score 2 = (0.05 x Age)+(0.6 x Previous stroke or TIA)+(0.7 x concomitant aspirin)+(0.6 x LV dysfunction)-(1.4 x TTR)5)各スコアのAUCは他のスコアに比べても良好:スコア1=0.728、スコア2=0.707

【結論】脳卒中/血栓塞栓症/出血のための新しい複合スコアを開発したこ。これまでのスコアは各人の脳卒中/血栓塞栓症と出血のバランスを評価したが、この複合スコアではさらなる研究が必要である。

### ディスカッションレポートが有り、その中で演者のLip先生は
・この研究は血栓塞栓と大出血、そしてよく忘れられる心血管イベント(心筋梗塞)の総合的な指標に関するリスクスコアの評価である
・筆者らはAMADEUS研究というよく定義されたコホートにおいてこの仮説を検証した
・筆者らはアスピリン内服やTTRの質などの心房細動に対して負のリスク因子も取り上げた。アスピリンの追加は利益ではなく出血リスクを増加させる。我々は抗凝固役の管理の質のチェックを迫られ、INR管理の悪いケースでは他のオプション選択を余儀なくされる
・「シンプルイズベスト」:実際我々は日々の臨床では意思決定において、CHADS2スコア、CHA2DS2-VAScスコア、HAS-BLEDスコアを使っている
と述べたとされています。

CHADS2スコア、CHA2DS2-VAScスコア、HAS-BLEDスコアと比べて、予測能を明らかに改善することはしなかったとのことです。年齢、脳卒中の既往、アスピリン使用、TTRですので、要素自体はシンプルですが、係数をかけるので計算機が必要ですし、TTR測定や、左室収縮能評価は面倒そうです。

本来は、このようにコホート内の各危険因子を分析し、回帰係数ごとに重み付けして点数を出すほうが科学的であり、CHADS2スコア、CHA2DS2-VAScスコアのように最初に規定しておいて、あとから発症率と相関したから良しとするという決め方よりは合理的であはあります。

また塞栓症と出血を一括して評価する点では合理的な発想という印象も受けます。

それでもやはりCHADS2スコア、CHA2DS2-VAScスコアなどに一日の長があるのでしょうか。
by dobashinaika | 2013-09-06 23:27 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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