新しい抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインを考える

抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインを入手しました。

学会員しかアクセスできず、ここに全文アップすると叱られそうなので(笑)、個人的に重要とおもわれるポイントをコメントを付けて書き写します。

◎ 総論的ポイント
1)多学会合同、共通のガイドラインである
日本消化器内視鏡学会,日本循環器学会,日本神経学会,日本脳卒中学会,日本血栓止血学会,日本糖尿病学会合同作成

2)コンセンサス重視である
Delphi法による合意形成度の表示あり。ほとんどのステートメントがエビデンスレベルV,VI。推奨度はC1以下

◎ 各論的ポイント
1)内視鏡手技の出血危険度分類と休薬よる血栓塞栓症の高発症群を明確にした。
→手技のリスクと症例それぞれのリスクの2軸で層別化した。

【出血危険度による消化器内視鏡の分類】
1. 通常消化器内視鏡
   上部消化管内視鏡(経鼻内視鏡を含む)
   下部消化管内視鏡
   超音波内視鏡
   カプセル内視鏡
   内視鏡的逆行性膵胆管造影

2. 内視鏡的粘膜生検(超音波内視鏡下穿刺吸引術を除く)

3. 出血低危険度の消化器内視鏡
   バルーン内視鏡
   マーキング(クリップ、高周波、点墨、など)
   消化管、膵管、胆管ステント留置法 (事前の切開手技を伴わない)
   内視鏡的乳頭バルーン拡張術

【休薬による血栓塞栓症の高発症群】
抗血小板薬関連
    冠動脈ステント留置後2ヵ月
    冠動脈薬剤溶出性ステント留置後12ヵ月
    脳血行再建術(頸動脈内膜剥離術、ステント留置)後2ヵ月
    主幹動脈に50%以上の狭窄を伴う脳梗塞または一過性脳虚血発作
    最近発症した虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作
    閉塞性動脈硬化症でFontaine3度(安静時疼痛)以上
    頸動脈超音波検査、頭頚部磁気共鳴血管画像で休薬の危険が高いと判断
    される所見を有する場合

抗凝固薬関連※
    心原性脳塞栓症の既往
    弁膜症を合併する心房細動
    弁膜症を合併していないが脳卒中高リスクの心房細動
    僧帽弁の機械弁置換術後
    機械弁置換術後の血栓塞栓症の既往
    人工弁設置
    抗リン脂質抗体症候群
    深部静脈血栓症・肺塞栓症
※ワルファリン等抗凝固薬療法中の休薬に伴う血栓・塞栓症のリスクは様々であるが、一度発症すると重篤であることが多いことから、抗凝固薬療法中の症例は全例、高危険群として対応することが望ましい


2)画期的なステートメント3
内視鏡的粘膜生検は、アスピリン、アスピリン以外の抗血小板薬、抗凝固薬のいずれか1剤を服用している場合には休薬なく施行してもよい。ワルファリンの場合は、PT-INRが通常の治療域であることを確認して生検する。2剤以上を服用している場合には症例に応じて慎重に対応する。生検では、抗血栓薬服薬の有無にかかわらず一定の頻度で出血を合併する。生検を行った場合には、止血を確認して内視鏡を抜去する。止血が得られない場合には、止血処理を行う。
Delphi法による評価;中央値:8、最低値:7、最高値:9
Evidence level Ⅴ、推奨度 C1

3)画期的なステートメント5
出血高危険度の消化器内視鏡において、血栓塞栓症の発症リスクが高いアスピリン単独服用者では休薬なく施行してもよい。血栓塞栓症の発症リスクが低い場合は3~5日間の休薬を考慮する。
Delphi法による評価;中央値:8、最低値:7、最高値:9
Evidence level Ⅳb、推奨度 C1

◎ 予想される現場の変化
1)患者さんにとって
・これまで生検が必要な場合、2回内視鏡を受けていたのが1回ですむ→これまでは施設によってはヘパリン置換せず休薬または入院の上ヘパリン置換の2通りがあったが、前者は危険、後者は煩雑であった。このジレンマを一挙に解決しうる

2)消化器医にとって
・止血の確認が求められる→内視鏡医の質の担保が求められる
・ 出血高危険度手技ではワーファリンからヘパリン置換が明記されたので、順守する必要がある

3)循環器医にとって
・手技前にPT-INR確認が必要になる
・ 内視鏡医により対応が違うことが予想され混乱する

### ごくおおざぱながら、本ガイドラインの雑感を書いてみました。前のブログに書いたように、これまでのような「循環器医は塞栓症を恐れ、消化器医は出血を恐れる」、そうしたリスク認知のスレ違いが解消され、共通基盤が醸成され、循環器医−消化器医のツンデレ関係が解消されることが期待されます。

エビレベル、推奨レベルとも高くないだけに、今後このガイドラインが広く普及した後には、出血、塞栓についてアウトカムがどう変化したのか(変化はわからなくてもガイドライン発表後の出血、塞栓の頻度など)など検証したいものです。

最後に、、、しつこいようですが、多分野に渡る重要なガイドラインですので、なんびともフリーでアクセス出来るようにしてほしいものです。もちろん患者さんも。
by dobashinaika | 2012-08-11 23:10 | 抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術 | Trackback | Comments(1)
トラックバックURL : http://dobashin.exblog.jp/tb/15952230
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
Commented by ショコラ at 2013-01-27 19:03 x
私の母は今月、バイアスピリン服用で休薬しないで胃のポリープの切除を受けました。退院後わずか1日で真夜中に大量吐血、救急搬送され輸血を受けました。


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

プロフィールを見る
画像一覧

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:疫学、病因ほか
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:疫学、実態調査
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
未分類

タグ

(39)
(24)
(20)
(19)
(19)
(18)
(18)
(18)
(17)
(15)
(14)
(14)
(12)
(12)
(11)
(11)
(10)
(10)
(9)
(9)

ブログパーツ

ライフログ

著作

プライマリ・ケア医のための心房細動入門

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌]

最近読んだ本

批判的思考 (ワードマップ)


シリーズ 新・心の哲学I 認知篇


断片的なものの社会学

最新の記事

Xa阻害薬の中和薬Andex..
at 2016-09-29 22:19
NOACの死亡率がワルファリ..
at 2016-09-27 23:41
アジア人の大規模コホートでも..
at 2016-09-20 23:33
主要評価項目がポジティブ。そ..
at 2016-09-16 23:42
アジア人心房細動大規模データ..
at 2016-09-15 22:12
ワルファリン服用中では,血圧..
at 2016-09-13 19:13
心房細動がある人はない人に比..
at 2016-09-12 18:49
ケアネット連載「週刊誌の「飲..
at 2016-09-09 22:17
カナダの新心房細動ガイドライ..
at 2016-09-08 21:56
欧州心臓病学会の心房細動ガイ..
at 2016-09-07 23:05

検索

記事ランキング

最新のコメント

簡潔なまとめ、有り難うご..
by 櫻井啓一郎 at 23:16
いつも大変勉強になります..
by n kagiyama at 14:39
土橋先生論文を分かりやす..
by ekaigo at 17:41
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 21:03
先生のブログ(共病記)を..
by 大西康雄 at 13:07
コメントありがとうござい..
by 小田倉弘典 at 18:40
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 18:35
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 18:34
はじめまして 心房細動..
by 患者目線 at 08:36
脳梗塞を起こしているから..
by 心配性 at 06:36

以前の記事

2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン