新しい「消化器内視鏡診療ガイドライン」ではワーファリン休薬せずに生検して良いとなる見込み

本日はプラザキザの全国講演会が東京でありました。

演者6人で、2時間のブリーフィング形式。こうしたスタイルはアメリカの学会のサテライトなどでよく見られるもので、知識を総ざらいするのに最適ですが、今日のは本当にためになりました。

何しろ演者、座長は日本でこれ以上ないと思われるくらいのそうそうたるメンバーです。
しかも内容も「消化器内視鏡ガイドライン」「血栓止血学」「プラザキサ投与時の凝固線溶系分子マーカー」「APTTチェックのコツ」「プラザキサの位置づけ」と今、臨床家が渇望している知識知見が目白押しでした。とくに前半2題の循環器領域以外の知見は非常にわれわれにとってありがたいものとなりました。

今日は、東京大学医学部附属病院光学医療診療部部長、藤城光弘先生による「消化器内視鏡ガイドラインupdate」の内容を要約するにとどめます。内容は今後の業界に大きな影響を間違い無く与える大切な物を含んでいました。以下箇条書きで。(なお、内容についての責任は小田倉にあります。メモに基づくもので発表内容と異なる点がある可能性をご勘案いただければ幸いです)

【概要】
・新しい「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」は改訂作業が終わり早ければ7月にも世に出る。今回循環器内科、神経内科からも作成委員が加わった。

・これまでは学会の「指針」しかなく、低リスク手技でアスピリン3日休薬、チクロピジン5日休薬、両者併用で7日休薬というのはin vitroでの実験結果から算出したものに過ぎなかった。

・低リスク手技とは生検、バルーン内視鏡、マーキング、ステンと留置など。高リスク手技とは焼灼術、ポリペク、EMR、ESDなど・

・米国のガイドライン2009ではワーファリンは低危険手技では止めない。高危険手技で止める。アスピリン単剤は低危険手技で止めない。クロピド、チクロピジンはアスピリンに変更。

・日本では学会ごとに統一がとれていなかった。今回統一を目指した。

・エビデンス重視、Delphi法による合意、Mindsに基づくエビデンスレベルと推奨度設定を基本とした→ほとんどはエビデンスレベルVかVI、推奨度はC1が多い。

【新しい点】
・抗凝固薬:低リスク手技(生検)=休薬不要で可能、高リスク手技=ワーファリン3〜5日休薬(抗血栓リスクはヘパリン置換考慮)

・抗血小板薬:低リスク手技=休薬不要で可能、高リスク手技=アスピリン:休薬不要、チェノピリジン系:5〜7日休薬(アスピリン、シロスタゾールへの変更考慮)、それ以外:1日休薬

・高危険度手技はそれぞれにリスクが異なり、今度さらに細分化される可能性アリ

【ステートメント】
1.休薬可能性のある場合は処方医と相談の上検討。患者家族とは明確な同意のもとに行う
2,通常の消化器内視鏡はいずれも休薬なく施行可能
3.内視鏡的粘膜生検はアスピリン、アスピリン以外の抗血小板薬、抗凝固薬のいずれか1剤を服用している場合には休薬なく施行して良い。ワルファリンはPT-INRが通常治療域であることを確認、2剤以上服用の場合は慎重に対応:東京大学附属病院で行った小型カップの生検鉗子を使用した登録研究では後出血や貧血の進行への影響はなさそうだった。
5.出血高危険度の消化器内視鏡において、血栓塞栓症リスクが高いアスピリン単独服用者では休薬なく施行して良い。発症リスクが低い場合は3〜5日間休薬を考慮
6.出血高危険度の消化器内視鏡において、アスピリン以外の抗血小板薬単独内服の場合は休薬を原則。血栓塞栓リスク高い例ではアスピリン、シロスタゾール置換(札幌コンセンサスからの知見)を考慮
7.出血高危険度の消化器内視鏡において、ワルファリン単独またはダビガトラン単独はヘパリン置換
8〜11. 出血高危険度の消化器内視鏡において、抗血栓薬併用の場合、休薬が可能となるまで内視鏡は延期
12. 休薬後の服薬開始は内視鏡的に止血が確認できた時点

・現場でまだ異論があることも事実。
・科学的根拠に基づくガイドラインを作成したことにより医師の裁量権が広がったと考える
・前向きの臨床試験も組める環境になった

### 米国は既に「休薬しないでバイオプシー」でしたが、ついに出血が多いとされる日本人でも「休薬なしでバイオプシー」が推奨される日が来るようです。もしこれが普及すれば、本当に画期的です。これまで休薬による1%の脳塞栓のリスクを危惧して、初回にカメラで覗いて病変がある場合2回めの内視鏡をしていたわけで、患者さんは大変であり、又2回目はヘパリン置換しない場合も多く(このエビデンスも不明瞭ですが)、ある意味全く現場任せであったわけです。

ただし、内視鏡術者の技術、病変の大きさやバイオプシーの数、場所などにより消化器内視鏡医による考え方、やり方にはかなりのばらつきがあると思われますので、ガイドライン発表後しばらく混乱が起きる気もします。

また、エビデンスレベル、推奨レベルともそれほど高くなく、作成委員の中でも100%の合意が得られていないことにも留意する必要があります。

大切なことは、こうした研究会などを通じて情報共有、情報交換の場を循環器内科医、消化器内視鏡医、そしてプライマリケア医で共有し、ガイドラインの妥当性を十分検討し、認識し、浸透させていくことだと思われます。

その意味でも今日の研究会は非常に意義あるものでした。とにかく新規抗凝固薬の使い方なんていうものは、今、現場のプライマリケア医の誰もが知りたがっていることなのであり、特に休薬なしで生検して良いという情報は、すごく大切なことなのですので、今回のようにブリーフィングスタイルでわかりやすく、しかも迅速に現場に情報を発信していくことがこの分野では特に求められると思います。

実はFacebookでもディスカッションになったのですが、こうしたupdateで重要な医学的知見は、製薬会社主催でなく学会主導で、それこそSNSを駆使してリアルタイム、全国津々浦々の配信が今後、普及して欲しいし、すべきであると思います。

学会主導で年次学術集会あるいはその期間外でもエクストラで、今日のようなホットな話題を録画あるいは研究会のリアルタイム動画配信とかでどんどん隅々にまで発信していくべきだと思います。

もはや大人数が一箇所に集まっての研修会みたいなものはコストがかかりすぎ(学問的な発表とディスカッションの場は必要ですが)。専門知の一般普及はSNSも含んだ、新しいメディアによるイノベーションが待たれる、と痛切に思いました。
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by dobashinaika | 2012-06-03 01:14 | 抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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