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無症候性心房細動と脳梗塞リスク:NEJM, ASSERT研究より

New England Journal of Medicine 1月12日号より

Subclinical Atrial Fibrillation and the Risk of Stroke
N Engl J Med 2012; 366:120-129


ペースメーカーまたはICD植え込み患者で記録される無症候性心房性頻脈性不整脈の頻度および脳梗塞リスクとの関係に関する検討(ASSERT研究:23カ国の多施設共同研究)

P:65歳以上の高血圧患者で,登録前8週間以内にdual-chamberペースメーカー(95%)または植え込み型除細動器(ICD)(5%) 植え込み術を施行された患者。心房細動、粗動既往者は除く

E:登録後3ヶ月以内に心房性頻脈性不整脈(190/分以上、6分以上持続)が記録された例

C:上記心房性頻脈性不整脈が記録されなかった例

O:一次エンドポイント=脳梗塞または全身性塞栓。二次エンドポイント=血管死、心筋梗塞、脳卒中、体表心電図での心房性頻脈性不整脈の記録;2.5年間追跡

注)3ヶ月後に心房オーバードライブペーシングを施行する群と非施行群とにランダム割り付けして,6ヶ月間の心房細動予防効果もみた

結果;
1)無症候性の心房性頻脈性不整脈は261例10.1%に認められた

2)頻脈群は非頻脈群に比べ、臨床上認められる心房細動の発生が有意に多い(ハザード比5.56; 95%Ci, 3.78-8.17;P<0.001)

3)頻脈群は非頻脈群に比べ、脳梗塞/全身塞栓症の発生が有意に多い(ハザード比2.49; 95%Ci, 1.28-4.85;P=0.007)

4)一次エンドポイントを認めた51例中11例は3ヶ月以内に心房頻脈性不整脈を認めていた

5)無症候性心房性不整脈の脳梗塞/全身塞栓症の住民寄与リスクは13%

6)無症候性心房性不整脈は、各種因子補正後も一次エンドポイントの予測能あり(ハザード比2.50;95%CI, 1.28-4.89; P=0.008)

7)心房オーバードライブペーシングは心房細動を抑制しなかった

結論:ペースメーカー患者において、無症候性心房性頻脈性不整脈は頻繁に起こっており、脳梗塞/全身塞栓症のリスク増加に明らかに関係していた。

###Discussionでの追加データとして、上記の心房性頻脈性不整脈は2.5年追跡では34.7%にみられ、心房性頻脈性不整脈がある人の15.7%がその後臨床的な心房細動が認められるようになり、植え込み後にこの不整脈が認められる平均日数は36日目であることが追記されています。

これまでもペースメーカー患者で記録された無症候性心房細動の報告はありますが、このような多数例で、しかも脳梗塞との有意な関係を明らかにした論文は初めてかと思われます。ペースメーカーの術後点検をしていると、時にこのような短時間のハイレートエピソードを認めることがありますが、今後そうした患者さんにも抗凝固療法を考える必要ありと言うことでしょうか?

Editorialで述べられていますが、そもそも6分間程度の心房細動が塞栓症を生じるかという問題があります。このような頻脈を有する例はCHADS2スコアも高い例が多いからかもしれません。また本論文はペースメーカー症例ですので、元々心房細動が生じやすい素因のある患者さんが多く含まれていることも考慮に入れる必要はあります。

ペースメーカー患者でなくても65歳以上の高血圧患者では、10%とは行かないと思いますが、数%の頻度で短時間の心房細動エピソード位はあるということが推察されます。この層は無治療脳塞栓例の候補者となるものと思われますが、その層に抗凝固療法を行うのか、ということはこの論文から敷衍される大きな問題だろうと思われます。

本文中の結果の中で、CHADS2スコア2点を越えるとハザード比がより高率になるようなので、何かの拍子に短時間の心房頻拍が認められた患者さんでは、現実的にはやはりスコアを考えながら、頻回にホルターなどを行い、長めの発作のある方は抗凝固療法を考えると言うのが、現時点の落としどころかなと思います。

なお付け足しのように心房オーバードライブペーシングは心房細動予防に無効だったことが占められています。これもかなり大きな問題ですので、別の機会にアップします。
by dobashinaika | 2012-01-12 16:16 | 心房細動:診断 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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