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心房細動の新規抗凝固薬リバロキサバンに関する大規模試験ROCKT-AF:NEJMより

New England Journal of Medicine 8月10日オンライン版より

Rivaroxaban versus Warfarin in Nonvalvular Atrial Fibrillation

45カ国、1178施設が参加した新規Xa阻害薬リバロキサバンのワーファリンを対照とした大規模試験(ROCKET-AF)

P:
非弁膜症性心房細動患者14,264例(脳卒中、全身性塞栓、CHADS2スコア2点以上、のいずれか),追跡期間中央値:約700日

E:リバロキサバン20mg(クレアチニンクリアランス30~49では15mg)

C:ワーファリン(INR2~3にコントロール)

O:一次エンドポイント=脳卒中(梗塞、出血),全身性塞栓。二次エンドポイント=脳梗塞,全身性塞栓、心血管死、心筋梗塞

結果:
1)中途離脱例:リバロキサバン23.9%、ワーファリン22.4%

2)参加者平均年齢73歳、女性39.7%。高血圧90%、心不全62.5%、糖尿病40.0%、脳卒中/TIA、全身性塞栓の既往54.8%。CHADSスコア平均:リバロキサバン群3.5、ワーファリン群3.0

3)一次エンドポイント(on treatment解析):非劣性の比較;リバロキサバンvs. ワーファリン=1.7%/年vs. 2.2%/年 (ハザード比0.79; 95% CI 0.66 to 0.96; P<0.001)、優性の比較;リバロキサバンvs. ワーファリン=1.7%/年vs. 2.2%/年 (ハザード比0.79; 95% CI, 0.65 to 0.95; P=0.01)

4)一次エンドポイント(ITT解析):リバロキサバンvs. ワーファリン=2.1%/年vs. 2.4%/年 (ハザード比0.88; 95% CI 0.74 to 1.03; P<0.001非劣性、P=0.12優性)

5)大出血あるいは小出血(on treatment解析):リバロキサバンvs. ワーファリン=14.9%/年vs. 14.5%/年 (ハザード比1.03; 95% CI 0.96 to 1.11; P=0.44)

6)頭蓋内出血 (0.5% vs. 0.7%, P=0.02) 、致死的出血(0.2% vs. 0.5%, P=0.003)はリバロキサバン群で有意に少なかった
心房細動の新規抗凝固薬リバロキサバンに関する大規模試験ROCKT-AF:NEJMより_a0119856_957531.gif


結論:脳卒中、全身性塞栓に関してリバロキサバンはワーファリンに対して非劣性を示した。大出血においても差はなく、頭蓋内出血、致死的出血はリバロキサバンで有意に少なかった。

###2010年のAHAで発表された内容の論文化です。ダビガトランが話題のさなかのタイムリー(?)な発表です。

当初から指摘されているように解析方法が複雑な試験です。まず服薬を途中でやめてしまった例が22~23%も見られます。ダビガトランのRE-LY試験では16~20%(2年)でした。このため、on treatment解析すなわち服薬中止例を含む脱落群を除外した例同士が比較されています。ところがこの解析にも2つの方法が採用されていて、まず非劣性比較では、プロトコール通りに服薬していた例同士の比較(per protocol解析)がされているのに対し、優性比較では被験薬を一度でも服用しいた患者を対照にしています(安全性解析もこの方法)。

ITT解析の欠点のひとつに、この試験のように脱落例が多い場合実際服薬していない人も服薬群に入れて解析されるバイアスがかかる点があります。一方on treatment解析の欠点のひとつとして、脱落していない群にはそれなりバイアスがかかるため、参加者を二群にランダマイズした意味が無くなる(患者背景などが異なってしまう)ということがあります。いわゆるリアルワールドでは、最初のもくろみ通りに100%の患者さんが薬を飲み続けることはありませんので、ITT解析の方がむしろ実臨床に即しているとも言えます。その意味で優性の比較に関する本試験の解釈にはかなり注意が必要です。

RE-LY試験との違いとしては1)厳格な二重盲検試験(RE-LYはダビラトラン−ワーファリン間はオープンラベル)。2)高リスク例が多い:本例は脳梗塞既往が50%、CHADS2スコア平均3.5点(RE-LYは2.1点)。3)INR管理が困難例が多い:TTR55%(RE-LY64%)。などの重要なポイントがあり、一概に2薬剤を比較することはできません。優劣を付けるには両者の直接比較が必要です。

ダビガトランと同様に、相対的に消化管出血が多く、頭蓋内出血がワーファリンより少なく、Editorialでは脳血管床に存在する組織因子や第VIIa因子をワーファリンのように不活化させないからだと述べられています。

全体としては、ワーファリンより優れているかどうかが不明。少なくとも効果、安全性の点でワーファリンより劣ってはいない。といった印象です。腎機能との関連、消化器系の副作用、出血したときの対処法(特に1日1回の薬なので)、などまだ明らかにされていない点も多いので、これからがある意味楽しみです。薬価もですね。日本ではバイエル薬品が販売に関連しています。なお当院通院された患者さんもこの薬の第II相試験にご協力いただいております。その節はご協力ありがとうございました。

関連サイト
循環器トライアルデータベース
J-ROCKT試験
by dobashinaika | 2011-08-15 10:05 | 抗凝固療法:リバーロキサバン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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